#1418『The Seasons / Manuel Valera Trio』
text & photo by Takehiko Tokiwa 常盤武彦
Mavo Records MAVO1108
Manuel Valera (p)
Hans Glawisching (b)
E.J. Strickland (ds)
- Opening
- In The Eye Of The Beholder
- Tres Palabras
- Hopeful
- In My Life
- Mov I — Spring
- Mov II — Summer
- Mov III — Fall
- Mov IV — Winter
- What Is This Thing Called Love
- Hallelujah
Recorded by Erik Rex and David Stoller at Samurai Hotel Recording Studios, Astoria NY on December 12, 2016.
キューバ出身で、2000年にニューヨークに拠点を移したマニュエル・ヴァレラ(p)。ヨスヴァニー・テリー(as,ss)らキューバ人の盟友達ととイラケレなど70年代、80年代のアフロ・キューバン・ミュージックにジャズ・ファンクの要素をミックスした音楽をプレイし、2013年にはグラミー賞ラテン・ジャズ部門にノミネートされたニュー・キューバン・エクスプレス、ジョン・エリス(ts,ss)らアメリカの友人達と、ストレートなジャズ・フュージョンをプレイするグルーヴ・スクエア、ソロ・ピアノ、父でキューバを代表するピアニスト、マヌエル・ヴァレラ・シニアとのデュオなど八面六臂の活躍をしている。近年、ヴァレラは自ら主宰するレーベルMAVO Musicや、多くのインディ・レーベルから、怒涛の勢いでアルバムをリリースしている。彼の活動の中核にあるプロジエクトが、このレギュラー・トリオ。オーストリア出身のファースト・コール・ベーシスト、ハンス・グラウィシニッグ、グルーヴ・スクエアでも行動を共にするE. J. ストリックランドとの活動も4年を超えた。2015年にリリースしたライヴ盤『Live at Firehouse 12』から、このアルバムでトリオはさらに自由に飛翔した。
前作から2年、機は熟した。1ヶ月のツアーを終えた直後にスタジオに入り1日で録音したニュー・アルバム『The Seasons』は、ライヴの熱気とアルバム・コンセプトが絶妙のバランスでブレンドされた快作だ。アルバムの中核をなしているのはヴィヴァルディの『四季』にインスパイアされた6〜9の組曲『The Seasons』。誕生の春、成長の夏、円熟の秋、そして老いてゆく冬を、激しくもリリカルなインタープレイで描く。個性的なオリジナル・チューンと並んで、カヴァー・チューンもバラエティに富んでいる。キューバ出身の作曲家で、”キサス・キサス・キサス”の大ヒットで知られるオスヴァルド・ファレスの哀愁を帯びたボレロ”Tres Palabras”、レノン/マッカートニーの”In My Life”は、メロディを慈しむようにピアノが唄う。コール・ポーターの”What Is This Thing Called Love”は激しいビートが交錯する。エンディングを飾るのは、カナダ出身の詩人/シンガー・ソングライターで、昨年逝去したレナード・コーエンの “Hallelujah” だ。ボブ・ディラン(vo,g)をはじめ多くのシンガー達にカヴァーされたこの曲の、深遠な詩の世界観を訥々としたメロディで、ヴァレラは紡いだ。ある時は激しくヴァレラを煽り、またそっと寄り添うグラウィシニッグとストリックランドのリズム・セクションのコンビーネーションも、次なるステージに到達した。
3月27日のニューヨーク、ウェスト・ヴィレッジのジャズ・クラブ、スモールスでのリリース・ライヴには、多くの観客がつめかけた。自由奔放、縦横無尽、時にリリカルに響くこのトリオは、ヴァレラがキューバ出身という枠をはるかに超えて、現代ニューヨークのベスト・トリオの一つであることを高らかに宣言した。様々なフォーマットでの活動の成果が、このトリオにフィードバックされ凝縮されている印象だ。マニュエル・ヴァレラの快進撃は続く。
関連リンク
Jazz Tokyo Five by Five #1215 『 Manuel Valera / Trio Live at Firehouse 12』
常盤武彦、Manuel Valera Trio、マニュエル・ヴァレラ・トリオ