#1515 『Demierre – Dörner – Kocher / Cone of Confusion』
Text and photos by Akira Saito 齊藤聡
Bruit / Sound & Site Specific Activities
Jacques Demierre (p)
Axel Dörner (tp)
Jonas Kocher (accordion)
Recorded in Biel/Bienne (CH) on November 3 2017
Mixed by Axel Dörner and mastered by Ilia Belorukov
1. Increasing the efficiency process
2. Variation in the subject
3. There are small observable differences
4. Position of the head
5. The errors introduced by such an exchange are within the errors
6. Principle of reciprocity
アクセル・ドゥナー(トランペット)、ジャック・ディミエール(ピアノ)、ヨナス・コッハー(アコーディオン)、3人のファミリーネームの頭文字を並べてDDKトリオ。ドゥナーはドイツ生まれ、ディミエールとコッハーはスイスのジュネーヴ生まれ。旅する音楽家たちでもあり、コッハーは、ヨーロッパは狭いんだとその愉しさを語ってくれた。
この録音を聴く者は間違いなくただならぬ緊張感を共有させられることだろう。あるいはまた、矛盾するようだが、そのパフォーマンスを可能とする音楽家としての余裕を感じ取るのかもしれない。
ディミエールがピアノの鍵盤を普通に弾くことは少ない。アップライトピアノの覆いを剥ぎ取ってしまい、内部の可動部を左右に撫でる。弦を左右に撫でたり、爪弾いたり、息を吹きかけて振動させたりする。鍵盤に対しても、指で左右に撫でたり、身体側の前面を爪で撫でたり、拳や腕を叩きつけたりもする。ペダルを使って、響きの操作だけでなく、ピアノ全体をパーカッションのように使う。パフォーマティヴでもあるが、それは暴力的なものではなく、笑いも含めた知的遊戯のようだ。筆者はディミエールの演奏をアップライトでしか目撃していないのだが(水道橋Ftarri、下北沢Bar Apollo)、グランドピアノであればまた違ったアプローチを選ぶのだろう。
ジャズの小コンボでもビッグバンドでも、このような即興演奏でも完璧にこなすドゥナーは、トロンボーンとの合体のようにも見える、一風変わったトランペットを使う。かれがここで投入する手段は、ディミエール同様に非常に幅広いものだ。音を鳴らす場合、息遣いのみを増幅する場合、泡立たせる場合など、循環呼吸も駆使して展開する。マシンガンのように連続的に放つパルスにも刮目させられる。ピストンを押す音さえも、かれにとっては制御されたサウンドの一部であるに違いない。
コッハーのアコーディオンもまた、確かな意図により制御されているようだ。この楽器は、蛇腹の存在による不均一で濁った和音が魅力のひとつかもしれない。しかし、コッハーはそれを惰性として忌避しているようにみえる。蛇腹により起こす風の音そのものを表現に使うことはそう珍しくもないが、コッハーはその効果にも意図的に色を付ける。また、長い単音が、ドゥナーやディミエールが黙ったときに、残響となってその存在を際立たせる。まるで、隠し絵の一部分をふと見出してしまったように。
以上は、多彩ではあるが、サウンドを形成する音の要素や手段に過ぎない。順番が逆なのだ。かれらがその卓越した技量と研ぎ澄まされた精神をもって繰り広げる即興演奏を通じてのみ、ひとつひとつの常ならぬ要素に気付かされる。無音の時間も少なくはないのだが、それは即興演奏の作為的な仕掛けではなく、結果である。コードやパターンなど音楽が依拠する制度が端から棄て去られていることの恐ろしさと愉快さとが、本盤の36分間に詰まっている。
(文中敬称略)