#1538 『本多俊之 BW4 meets 渡辺香津美/Best Answer~Live at Shinjuku PIT INN』
text by Yumi Mochizuki 望月由美
ピットインレーベル PILJ-00012 2,500円+税
発売・販売元:株式会社ピットインミュージック
配給:株式会社ディスクユニオン
本多俊之(Soprano, Alto Sax & Arrangement)
野力奏一(Piano, Keyboard & Arrangement)
川村 竜 (Bass)
奥平真吾 (Drums)
Guest:
渡辺香津美(Guitar)except 1,2,3
1.シャッフル・キャッスル(本多俊之)
2.たちまち(本多俊之)
3.ハート・オン・ザ・ハイウエイ(本多俊之)
4.ユニコーン(渡辺香津美)
5.ブラックストーン(渡辺香津美)
6.ジンジ(アントニオ・カルロス・ジョビン)
7.マルサの女(本多俊之)
8.キャプテン・セニョール・マウス(チック・コリア)
プロデューサー:本多俊之
共同プロデューサー:品川之朗 (ピットインミュージック)
エグゼクティヴ・プロデューサー:佐藤良武 (ピットインミュージック)
エンジニア:菊地昭紀 (ピットインミュージック)
録音:2017年8月12日, 新宿ピットインにてライヴ録音
昨2017年の夏、8月9日から12日にかけて新宿ピットインで行なわれた「本多俊之 還暦ピットイン4デイズ」の最終日の演奏を収めたアルバムである。
本多俊之(as.ss)バーニングウェイブ・カルテット(BW4)の前作『コンドルは飛んで行く』(ピットインレーベル、2012)ではゲストに和田アキラ(g)を迎えたが今回は渡辺香津美(g)をゲストに迎えてのライヴ・パフォーマンス。
持ち前の洗練された温かい音色とスムーズで滑らかなフレージングに加えて力強いトーンを兼ね備えた本多俊之がBW4のメンバーとの交流を楽しみ、渡辺香津美(g)との対話を楽しんでいる姿からはアットホームな雰囲気が伝わってくる。
緻密なアレンジでアンサンブルとソロのバランスをとり、単なるセッションを超えてBW4の存在感を鮮やかに示している。
BW4のメンバー全員の知的なユーモアとエスプリがリラックスした粋なテイストを生み出す原動力となっているようである。
重心の低いどっしりとした川村竜のベースと歯切れのよいシンバル・ワークで軽々とスイングする奥平真吾のドラム、この二人の作り出すリズムは羽のように軽くそよぎ、本多俊之や野力奏一、さらに渡辺香津美から極上のきらめきを引き出している。
(1)<シャッフル・キャッスル>で本多俊之はソニー・スティット(as、ts)でも吹きそうな浮き浮きしたシャッフル・ナンバーをアルトで吹く。
途中、<テナー・マドネス>のテーマを引用するなどバップ色の濃いフレーズをバリバリと吹きまくると客席から一斉に歓声が沸き起こる、ピットインの観客は熱い。
野力奏一が最近リリースしたソロ・アルバム『Piano Solo/野力奏一』(NorikiMusic、2017)での音を選び抜いた水墨画のような世界とは打って変わって水を得た魚のようにぴちぴちとスイングし正統派のスインガーとしての姿を見せる。
ベースの川村竜もウイルバー・ウエア(b)のように腰の強い、粘り気のあるピチカートでグループを支える。
ドラムの奥平真吾はバーニングウェイブ・カルテット発足以来のメンバーであり、また2009年ピットインレーベルが発足した時の記念すべき第一弾『ザ・フォース/奥平真吾』(ピットインレーベル, 2009)録音時のフロントを本多俊之が務めるというようにごく親しい間柄である。
持ち前のトニー・ウイリアムス(ds)のような軽快なフットワークで強力にグループを鼓舞している。
(2)<たちまち>で本多俊之はソプラノに持ち替えフェザー・タッチで空間を漂うように浮遊し、そこに野力奏一のキーボードが絡むあたりにBW4らしさが浮かび上がる。
(3)<ハート・オン・ザ・ハイウエイ>もソプラノで、糸を引くように長く尾を引く高音が美しく、一音の音の美しさの中に本多の音への思い入れを感じる。
(4)<ユニコーン>からBW4に渡辺香津美(g)が加わると、ガラッと雰囲気が変わりファンキーなスペースが漂う。
ギターとベースのユニゾンで醸し出すグルーヴは渡辺香津美ならではのものである。
滑らかでスムーズ、ソフィスティケートされた渡辺香津美の世界が広がる。
渡辺香津美のバックで俊敏にアクセントをつける奥平真吾が小気味よく、曲が終わるとここでも客席からの歓声が鳴りやまない。
(5)<ブラックストーン>は渡辺香津美の曲であるが本多俊之がテーマをノン・ビブラートで吹ききる、美しい。
そしてそこに渡辺香津美が絡み、2人の対話が延々と繰り広げられる。
渡辺香津美の高速ピッキングと本多俊之のスピード感あふれるソプラノ、二人の超高速バースはライヴならではの聴きものである。
また、奥平真吾のまるでエルヴィンがピットインに舞い戻ったかのようなヘヴィーなドラム・ソロは圧巻である。
ジョビンの(6)<ジンジ>は本多俊之と渡辺香津美のデュオ。
渡辺香津美のソロによるイントロから本多俊之が哀愁を込めてジョビンを吹く。
本多のソロに渡辺香津美が絡み渡辺香津美のソロに本多のソプラノが絡む、二人の対話に心がなごむ。
(7)<マルサの女>は映画「マルサの女」で日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞した本多のヒット曲。
聴きなれたこの曲を新鮮に聴かせるアレンジの妙が楽しい。
また渡辺香津美のスケールの大きいソロが際立つ。
(8)<キャプテン・セニョール・マウス>はご存知チック・コリア(p)のヒット曲で、前作『コンドルは飛んで行く』(ピットインレーベル、2012)でも演奏されたアンコール・ナンバー。
チック・コリア(p)とゲイリー・バートン(vib)によるデュオ・アルバム『クリスタル・サイレンス』(ECM,1972)の冒頭を飾ったこの曲は当時ECMの清新なレーベル・イメージを印象付けるのに大きな役割を果たした。
巧者ぞろいのBW4と渡辺香津美はこの名曲を一糸乱れぬアンサンブルで演奏し客席を魅了する。
本多にとってのピットインは高校時代の1973年からピットインの朝の部に出演、高校3年の1975年からジョージ大塚(ds)のグループに参加、大学に進んでバーニングウエイブを結成しピットインに出演するというデビュー以来のなじみ深い場所である。
本多俊之はピットインを、たとえば他の、もっとお金のいいライヴ・ハウスがあっても自分から進んで出たいとは思わないわけ、やっぱりピットインに出たいと思う、いつも、すごく出たい、そんな場所です、と語っている。
一方の渡辺香津美も高校時代に今田勝(p)グループでピットイン・デビューしている。香津美はピットイン・オーナーの佐藤良武さんとの対談の中で、僕からすると自分が好きなように演奏できるライヴ・ハウスはピットインしかなかったんですよ、と語っている。
また、奥平真吾も11歳の時に本多俊之に誘われてピットインのジャム・セッションに参加しているという。
こうしたピットイン育ちが集っての『本多俊之BW4 meets渡辺香津美/Best Answer Live at Shinjuku PIT INN』からはピットインの音が聴こえてくる。
このアルバムではPAオペレーターやエンジニア、プロデューサーそしてお客さんとの53年の歴史が創り出したピットインの音が居ながらにして楽しめる。
渡辺香津美、奥平真吾、本多俊之、野力奏一、川村 竜、バーニングウェーブ、マルサの女、ユニコーン