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CD/DVD DisksNo. 243

#1533 『Harutaka Mochizuki, Makoto Kawashima / Free Wind Mood』

Reviewed by 剛田武  Takeshi Goda

An’archives  LP:  [An’14]

 

望月治孝  Harutaka Mochizuki (as on Side A)

川島誠  Makoto Kawashima (as on Side B)

 

A1. Harutaka Mochizuki

recorded on June 25, 2o17

at Ichibangura, Esashi

B1. Makoto Kawashima

recorded on November 18, 2017

酒游館

 

ふたりの孤独なサックス奏者の逡巡と慟哭。

『長距離走者の孤独』という小説がある。「怒れる作家」と呼ばれたイギリスの小説家アラン・シリトーが1958年に著した代表作である。元不良少年が感化院で長距離走者として生まれ変わるも、出場した競技大会で、ゴール直前で立ち止まりわざと優勝を逃すことで周囲の大人に反抗する、という単純なストーリー。高校時代パンクロックに憧れていたこともあり、反抗や怒りというテーマに惹かれて丸谷才一の訳書を読んだのだが、印象に残っているのはクライマックスの反抗シーンではなく、そこに至るまでの主人公の心の葛藤や欲望の変遷であった。同じ頃読んだ三島由紀夫の『金閣寺』も似たような葛藤を描いた小説だったが、「金閣寺」という具体的な対象に固着したアンビバレンツは、目的が想像の中にしか存在しない長距離走者の暗中模索/疑心暗鬼/自問自答の果ての葛藤に比べて、純粋さ/ストイックさの面で到底及ばない。行為としての音楽演奏にも物理的・具体的な目的は存在し得ない。そんな演奏家の心の動きや情動、そこに至る経験の積み重ね、肉体や呼吸や脈拍や自律神経の変遷、その結果として産まれる音が五感に与える効果。そのすべてを俯瞰してこそ音楽という行為を語れるのではなかろうか。

望月治孝(1977年生)と川島誠(1981年生)。どちらも日本の地下音楽シーンで実直な表現活動を続ける即興サックス奏者である。愚直と呼ぶ方が相応しいほど一貫した演奏スタイルは、1本のアルトサックスと自らの身体だけを使って、音楽や旋律や調性など一般常識や既成概念に囚われない「自由な音」を絞り出すことである。自由な風のように自らを表現し伝達しようとする意志。方法論としては6,70年代から連綿と続く日本のフリージャズ/即興音楽の系譜を継ぐと言える。その中でも特にサックスのソロ演奏と言えば、参照される名前は限定される。本作のミッシェル・アンリッツィによるライナーノーツには、Kaoru Abe、Motoharu Takagi、Tamio Shiraishi、Masayoshi Urabeと言った人名が登場する。もちろん「器楽演奏」と「音楽表現」の特殊性から考えれば妥当かもしれないが、「表現行為」と考えると余りに限定的で偏った語り口ではなかろうか。

重力を離れて一筋の煙のように立ち上る望月の逡巡するリード音、その反対に情念の重みに押し潰されまいとする川島の慟哭するブロウ、似て非なる2者の孤独は、いずれも唐突なほどあっさりとした終焉に集約されている。長距離走者の心の動きを追うように、サックス・ソロの終わりのはじまりの裏に潜む葛藤と欲望を想像しながら鑑賞したい。

An’archivesレーベルお馴染みの帯付きスクリーンプリント厚紙ジャケット、クレジットシートと3枚のポストカードと仏文/英文ライナーノーツが入った黒封筒、重量盤ヴァイナル。『Free Wind Mood』というタイトルは、以前レビューで取り上げた『橋本孝之+内田静男 / UH Takayuki Hashimoto + Shizuo Uchida』と同じだが、日本語訳は本作が『自由な風のように』、UHが『開放ノ風ヲ感ズ』と異なっている。真意のほどは定かではないが、シリーズ・タイトルでありながら作品タイトルでもあるということだろう。このレーベルからは『Enka mood collection/情趣演歌』という10インチLPシリーズもリリースされている。

(2018年6月30日記 剛田武)

 

望月治孝 http://www.geocities.jp/fuzainoisu/

川島誠 Homosacer Records

 

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。サラリーマンの傍ら「地下ブロガー」として活動する。著書『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰、即興アンビエントユニット「MOGRE MOGRU」&フリージャズバンド「Cannonball Explosion Ensemble」メンバー。

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