#1553 『Dayramir Gonzalez / The Grand Concourse』
『ダイラミーア・ゴンザレス/グランド・コンコース』
text by Keiichi Konishi 小西啓一
Machat Records
Dayramir González: Steinway Grand Piano, Fender Rhodes and synthesizers (2, 8, 9) and coro (2, 3, 10, 12)
Antoine Katz: electric bass (1, 4, 6, 8, 10, 12)
Alberto Miranda: electric bass (2)
Carlos Mena: contrabass (3)
Zwelakhe Duma-Bell Le Pere: contrabass (5, 7, 9)
Zack Mullings: drums (1, 4, 6, 10)
Keisel Jimenez Leyva: drums (2)
Jay Sawyer: drums (5)
Willy Rodriguez: drums (5)
Raul Pineda: drums (8)
David Rivera: drums (12)
Paulo Stagnaro: congas (1,, 3, 6, 10), batá drums: (6), surdo, cajón, güiro, pandeiro and miscellaneous percussion (1, 5, 7, 8, 9) Marcos Lopez: congas (2)
Mauricio Herrera: congas (12), batá drums (2)
Pedrito Martinez: batá drums (4) and lead vocals (4)
Gregorio Vento: miscellaneous percussion and lead vocals (12)
Yosvany Terry: alto saxophone (1, 4, 8, 10), shekere (10)
Marcos Lopez: timbal (10); Harvis Cuni: trumpet (1)
Oriente Lopez: flute (1, 3, 4, 8, 10)
Kalani Trinidad: flute (12)
Rio Konishi: alto saxophone (12)
Dean Tsur: alto saxophone (7), tnor saxophone (1, 4, 8, 10)
Edmar Colon: tenor saxophone (12)
Ameya Kalamdani: electric and acoustic guitars (1, 6)
Tatiana Ferrer: coro (2, 3, 10, 12) and viola (1, 3, 5, 7)
Jaclyn Sanchez: coro (2, 3, 10)
Nadia Washington: lead vocals (6) and coro (3, 10)
Ilmar Lopez Gavilan: violin (1, 3, 5, 7)
Audrey Defreytas Hayes: violin (1, 3, 5, 7)
Jennifer Vincent: violoncello (1, 3, 5, 7)
Caris Visentin Liebman: oboe (5)
Amparo Edo Biol: French horn (5)
1: Smiling
2: Moving Forward
3: Sencillez
4: Iyesa Con Miel (feat. Pedrito Martinez & Yosvany Terry);
5: Blood Brothers (feat. String Bembe)
6: Camello Tropical (feat. Nadia Washington)
7: Lovely Time with My Dear
8: Linear Patterns in Havana (feat. Raul Pineda)
9: Two Makes the Difference
10: West Coast Exchange
11: Hand in Hand, You and I
12: Situaciones En 12/8
Music arrangements & direction: Dayramir Gonzalez
Musical production: Dayramir Gonzalez & Tatiana Ferrer
Recording engineers: Jadyn Sanchez, Marcos Torres & Willy Torres
Mixing engineer: Guillermo Marin
Mastering: Jett Galindo
Recorded as Samurai Hotel recording Studio, Astoria, NY, October 2016
Vocal overdubs at Avatar Studios, NY, NY
Tracks overdubs: Willy Torres Studios, Union City, NJ
Mixed at Red 57 Studios, Los Angels, CA
Mastered at the Bakery, Culver City, CA
Executive producer: Tatiana Ferrer & Chamber Coup Music Group
ぼくのラテン・ジャズ好きを見越して、編集部が1枚のCDRを送って来た。”つまらなかったら破棄してもいいですよ…” といった注釈まで付けてである。
ダイラミーア(Dayramir)・ゴンザレス。初めて目にする名前だが、キューバ出身のピアニスト・作編曲家で年齢は34才。あの”イラケレ”を率いキューバ・ジャズを象徴する偉才チューチョ・バルデスにも学んだとのことで、2010 年には正規の奨学金を得てボストンのバークリー音楽大学(キューバからの初の奨学生のようだ)に留学、現在はNY在住とのこと。キューバのジャズ・コンテストで優勝したり(04, 05年)、最初のアルバム『ダイラミーア&ハバナ・エントランス』が、キューバのグラミー賞ともいえる“クバ・ディスコ・アワード”の3部門を受賞(07年)、またNYカーネギーホール・デビュー(12年)を飾る等々、かなり華々しい楽歴を誇るキューバ出身の若き注目株で、現在のNYラテンの舞台でも話題の存在のようでもある。となれば興味津々、これはひとつ心して聴かねばならぬ、ということで…。
どうやらこのアルバム『グランド・コンコース』は、アメリカでの彼のデビュー作のようで、これまでのジャズ歴のすべてをぶち込んだ感もある熱の入った力編となっており、ダイラミーアという素晴らしい資質の音楽家の、ほぼ全体像が見渡せる内容とも言えそうで、オープニングの女性ボーカルなども加わった小品 <スマイル> からも、なんとも言えぬ熱気が伝わって来る。ストリングスやコロ(コーラス)なども含め、彼のNYラテン仲間たちも多数参加、その総勢30名弱。ここら辺からも彼のアルバムに賭ける意気込みのほどが窺えると言うもので,メンバーの中にはヨスバニ・テリー(sax)ペドリート・マルティネス(per)といったビッグ・ネームも見られる。アルバムは一言でいえば“キューバン・ガイ(キューバ人)・インNY”といった趣きの作品で、郷里への鮮烈なサウダージ感溢れたものからキューバン・トラッドのモダン・アダプテーション、土俗的宗教”サンテリア”に由来したナンバー、愛らしいキューバン・ラブ・ソングなど、故郷キューバを強く意識させる卓抜なオリジナル・チューンが綺羅星のごとく並ぶ。そのどれもが土の匂いを漂わせながらも都会的(NY的)でもある、かなり独特でユニークな視点を有した魅力的なもので、作・編曲者としてのその才を強く意識させる。そしてオーラスの <シチュアシネス・エン12/8>。サックス2管とフルート、さらにボイスを加えた(奥方も参加)、活気溢れる怒涛のネオ・ラテン・バップ・チューンへとなだれ込んでいく辺り、仲々にお見事といった感じ。日本人と思しきアルト奏者も加わりフロント陣、中でもソロを取るテナーのエドマール・コロンの力量に注目。
ピアニストとしても粒立ちの良いタッチで、キューバン・ガイならではのダイナミックなプレーを展開、センシティブなバラードにも長けておりラテン・ピアノとしての手癖(③など)も心地よく、仲々に魅力的な存在ではある。だがことキューバ出身のピアニストは、師のチューチョ始めゴンサロ・ルバルカバ、ヘラリオ・デュラン、アロルド・ロペス・ヌッサなど、圧巻のテクニックを誇る超絶才人が多いだけに、“コンポーザー・ピアニスト”といった要素も濃い彼は、弾き手としてはそれほど目立った存在とは言い難い…というのがぼくの見立てだが、彼にはそれを超えたキューバン・ジャズとしての魅力と秀点があるのもまた事実である。
ところでぼくはキュ―バン・ジャズ~ラテン・ジャズの魅力の第一は、まずはリズム隊の力量・充実にあると思っているのだが、その点でもこのアルバムは合格だ。大駒ペドロは言うに及ばず、<リニア・パターンズ・イン・ハバナ> でフューチャーされるドラマーのラウル・ピネダはじめ10人余りのパーカッション陣がアルバムを去来、それぞれに見事なハイライトを形造り、またハンド・クラップの巧みな導入やヴォイスの効果的使用など、ラテン・ジャズの “肝” を心得た流石の扱いは嬉しい限り。
いずれにせよこの才人は、この作品でかなりな注目を集めるようになるに違いないし、今後の活躍も大いに楽しみである。好い人を紹介してもらった、謝・謝!