#1307 『Will Vinson / Perfectly Out of Place』
text & photo by Takehiko Tokiwa 常盤武彦
5Passion 5P-060
Will Vinson (as,ss,fl,synth,celesta)
Gonzalo Rubalcaba (p,kb)
Mike Moreno (g)
Matt Penman (b)
Jeff Ballard (ds)
Jamey Haddad (per,4)
Jo Lawry (voice1,4)
The Mivos Quartet (1,4,5,Olivia De Prato, Joshua Modney (vln) Victor Lowrie (viola) Mariel Roberts (cello)
- Desolation Tango
- Upside
- Willoughby General
- Skyrider
- Intro to Limp of Faith
- Limp of Faith
- Stiltskin (Some Drunk Funk)
- Chalk it Up
- The Clock Killer
- Perfectly Out of Place
Quintet recorded by Jim Anderson and Tyler Williams at Avatar Studios, NYC on January 31 and February 1, 2015.
Strings and voice recorded by Alex Venguer at Second Story Sound, NYC on June 2015.
Produced by Will Vinson and Gonzalo Rubalcaba.
ロンドン出身で、1999年に拠点をニューヨークに移したウィル・ヴィンソン(as,ss,fl) の6作目は、コアのクインテットに、初めてストリングス、ヴォイス、シンセサイザーのオーヴァーダブを施した、コンセプチャルな野心作だ。ゴンサロ・ルパルカバ (p,kb) が全面サポートし、ルパルカバのレーベル 5パッションからリリースされた。
ウィル・ヴィンソンはニューヨーク・ジャズ・シーンに登場して以来、ゴンサロ・ルパルカバ・クインテット、アリ・ホーニッグ (ds)・パンク・バップやノネット、ミゲール・ゼノン (as)・アイデンティティーズ・オーケストラで尖鋭的な活動を繰り広げ、また自己のクインテットやラーゲ・ルンド (g)、オランド・ル・フレミング (b) とのOWL トリオでの活動も、高い評価を獲得している。前作の『Live at Smalls』(2013)は文字通り、ニューヨークのジャズ・クラブ ”Smalls” での熱いギグの瞬間を捉えたものだった。本作は、クインテットのメンバーを、ルパルカバ、マイク・モレノ (g)、マット・ペンマン (b)、ジェフ・バラード (ds)と一新し、カナダのアルバータ州バンフでのワークショップ滞在中に暖めたアイディアを、まずはアヴァター・スタジオでのクインテットのセッションで具現化し、さらに緻密なアレンジを加味した、内省的でありながら静かな炎がメラメラと燃え上がる作品だ。ルパルカバの繊細なピアノ・タッチとキーボード・ワーク、モレノのサウンド・カラーリングが、ヴィンソンのクールな音色を際立たせる。ペンマンとバラードのリズムが、アンサンブルをプッシュしたり漂わせたりと、変幻自在に展開する。5人のインタープレイが、精緻なアレンジに芳醇なヒューマン・フィーリングを注ぎ込んだ。ストリングスのミヴォス・クァルテットは、彼らがスティーヴ・ライヒの ”Different Trains” を演奏するのをヴィンソンが聴いて衝撃を受け、共演を決意したという。オープニングを飾る ”Desolation Tango” では、ストリングスのイントロがアルバムの幕開けを荘重に飾り、クインテットを召喚する。ヴィンソンの夫人のジョー・ロウリーのヴォイスも、メロディに厚みを加える。マイルス・デイヴィス (tp) の ”ネフェルティティ” の如くメロディのバックで、リズムがうねり、ルパルカバとモレノが、インプロヴィゼーションの断片を加えていった。”Intro to Limp of Faith” では、ストリングスがヴィンソンのメロディを美しくもドラマティックに包み込み、”Limp of Faith” のルパルカバとの緊張感溢れるデュオへと橋渡しをする。”Skyrider” では、伝説的なパーカッション・プレイヤー、ジェメイー・ハダッド (per) が、さらにリズムをプッシュし、ミヴォス・クァルテット、ロウリーと共に、壮大なアンサンブルを聴かせた。エンディングのタイトル・チューンの ”Perfectly Out of Place” は、モレノが抜けたクァルテットで、静から動へと激しく展開し、アルバムの大団円に到達した。
4月26日のジャズ・ギャラリーにおけるリリース・ギグでは、レコーディング・メンバーから、マイク・モレノ (g)、マット・ペンマン (b)、ピアノに今注目を集めているイスラエル出身のシャイ・マエストロ、柔軟なドラミングで定評が高いクラレンス・ペン (ds) を起用し、よりインプロヴィゼーションにシフトしたパフォーマンスを聴かせてくれた。
すでにインプロヴァイザーとしては高い評価を確立していたウィル・ヴィンソンが、コンポーザー/アレンジャーとしての才能を余すところなく発揮したアルバムと言えよう。次なる展開が期待される。
関連リンク
Will Vinson http://www.willvinson.com/