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Jazz and Far Beyond

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CD/DVD DisksNo. 218

#1308『Arthur Vint & Associates / Through The Badlands』

photo & text by Takehiko Tokiwa 常盤武彦

ropeadope RAD-286

Arthur Vint & Associates
Arthur Vint (ds)
Rich Perry (ts)
Andrew Halchak (b-cl)
Yvonnick Prene (harmonica)
Jo Cowherd (p)
Ian Stapp (b)
Blanca Cecilia Gonzalez (vln)
Jake Goldbas (per,5)

  1. Radford
  2. Through The Badlands
  3. Heyoka
  4. Sagebrush
  5. Kindling
  6. LKP
  7. Shadow Qualities
  8. Maski
  9. Devil’s Dictionary
  10. There’s A World
  11. Blue Prairie

Recorded by John Davis at Bunker Studio, Brooklyn, NY.

Produced by Arthur Vint

ブルックリンを拠点に活動するドラマー、アーサー・ヴィントは変則編成のオクテット、アソシエイツを率いてデビュー・アルバムをリリースした。ネイティヴ・アメリカンが多く住み、西部劇映画の舞台にもなっているアリゾナ州ツーソン出身のヴィントは、幼少時から親しんできたトラディショナルなカントリー・ミュージック、ネイティヴ・アメリカンのスピリチュアル・ミュージックとジャズを融合した音楽で、故郷のアメリカ西部の風景を描いた。アソシエイツのメンバーは、ヴィントがニュージャージー州のウィリアム・パターソン大で師事したリッチ・ペリー (ts)、ブライアン・ブレイド (ds) &フェローシップでのフォーキーなプレイで知られるジョン・カウハード(p,org) 、ベーシストとしてビル・フリゼール (g) らと活動しながら、個性的なギター・スタイルでも知られるトニー・シェア、アリゾナ時代からの盟友イアン・スタップ (b)、アンドリュー・ハルチャック (b-cl)、若手のブランカ・ゴンザレス (vln)、イヴォニック・プレン (harmonica)である。テナー・サックス、ヴァイオリン、クロマティック・ハーモニカ、バス・クラリネットという類を見ないコンビネーションで、独自のサウンドスケープを構築した。ヴィントが7曲、スタップが2曲作曲し “There’s A World” はニール・ヤング (vo,g)、エンディングの “Blue Prairie” は、トラディショナル・カントリー・グループのサンズ・オブ・パイオニアーズのジャズ・カヴァーという構成である。ゴンザレスのヴァイオリンは、カントリー・ミュージックのフレイヴァーを加え、プレンのハーモニカ、シェアのボトルネック・ギターはブルース色を醸し出す。ペリーの骨太なサウンドと、ハルチャックのバス・クラリネットのカウンター・メロディが、ジャズを主張する。この要素を絶妙にブレンドしているのが、カウハードのピアノ、オルガンだ。そしてヴィントとスタップのリズムが、ボトムからサウンドをコントロールしている。“Kindling” には若手で頭角を顕しているドラマーのジェイク・ゴールドバスがパーカッションで参加し、このアンサンブルのグルーヴをブーストした。ヴィントの音楽背景は、ニール・ヤングからセロニアス・モンク  (p)、カントリーのマーティ・ロビンス (vo,g,etc) からジョン・コルトレーン (ts,ss)にとワイド・レンジを誇っているが、アメリカン・ミュージックの本質に言及している。

 

 

 

4月28日のコーネリア・ストリート・カフェにおけるリリース・ギグでは、バイオリンのゴンザレスを除いたメンバーが集結し、そのスリリングなアンサンブルと、激しいインプロヴィゼーションの応酬は、ジャズというカテゴリーにおさまらないヴィントの音楽を体現した。パット・メセニー (g) や、マリア・シュナイダー (arr,leader) はアメリカ中西部の豊かな自然の風景を音楽で描いたが、アーサー・ヴィントは、アメリカの原点の一つである西部のフロンティア・スピリットを、ジャズ・オリエンテッドな音楽で描くことに挑戦する。

関連ウェッブサイト Arthur Vint  http://www.arthurvint.net/

 

常盤武彦

常盤武彦 Takehiko Tokiwa 1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部)フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、『ジャズでめぐるニューヨーク』(角川oneテーマ21、2006)、『ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ』(産業編集センター、2010)がある。2017年4月、29年のニューヨーク生活を終えて帰国。翌年2010年以降の目撃してきたニューヨーク・ジャズ・シーンの変遷をまとめた『New York Jazz Update』(小学館、2018)を上梓。現在横浜在住。デトロイト・ジャズ・フェスティヴァルと日本のジャズ・フェスティヴァルの交流プロジェクトに携わり、オフィシャル・フォトグラファーとして毎年8月下旬から9月初旬にかけて渡米し、最新のアメリカのジャズ・シーンを引き続き追っている。Official Website : https://tokiwaphoto.com/

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