#1970 『Webber/Morris Big Band / Both Are True』
Text by Akira Saito 齊藤聡
Angela Morris (conductor, ts, fl)
Anna Webber (conductor, ts, fl)
Jay Rattman (as, ss, fl)
Charlotte Greve (as, cl)
Adam Schneit (ts, cl)
Lisa Parrott (bs, bcl)
John Lake (tp, flh)
Jake Henry (tp, flh)
Adam O’Farrill (tp, flh)
Kenny Warren (tp, flh)
Tim Vaughn (tb)
Nick Grinder (tb)
Jen Baker (tb)
Reginald Chapman (b-tb)
Patricia Brennan (vib)
Dustin Carlson (g)
Marc Hannaford (p)
Adam Hopkins (b)
Jeff Davis (ds)
1. Climbing On Mirrors
2. Duo 1
3. Both Are True
4. Rebonds
5. Coral
6. And It Rolled Right Down
7. Foggy Valley
8. Duo 2
9. Reverses
Executive Producer: Dave Douglas
Produced by Angela Morris, Anna Webber, and Nathaniel Morgan
Mastered by Brent Lambert at The Kitchen
Art and design by Brian Henkel
Recorded on Nov 27, 2018 by Stephe Cooper at Roulette Intermedium in Brooklyn, NY except tracks 2, 7, 8
recorded on October 20, 2019 by Nathaniel Morgan at Buckminster Forest
Edited and mixed by Nathaniel Morgan at Buckminster Palace
冒頭曲からウェバーのコンポジションがただならぬ雰囲気を放つ。ジェフ・デイヴィスのドラムの呼吸と奇妙にシンクロするサウンドであり、シャーロット・グレイヴのアルトを荘厳なほどに包み込んでいる。ウェバーが、パーカッション音楽を追求した成果として公表した近作『Clockwise』とも関連しているだろうか。
高められた聴き手の気持ちをいちど冷まそうとするかのようなウェバーとモリスとの短い2管デュオを経て、モリスの手による、自身のブロウの音色を体現したようなざわざわとしたサウンドが次第に形を成してくる。ジェイ・ラットマン、ウェバーのソロのあとにパトリシア・ブレナンのヴァイブがまたも音空間を冷やす。ピアノやフルートとともに手の指を互いに交差しあうような構成が巧みだ。
そして音風景が転換する。その担い手はギターのダスティン・カールソン。楔のあとのサウンドがなおさら新鮮に聴こえるのは構成の妙であり、ストイックなデュオのあとの3曲目がそうであったために既視感を覚える。あまりにも静かであり、アダム・オファリルのトランペットの息遣いが予兆となり、世界の無数の声が姿を見せて迫ってくるようだ。
再び一転。「And It Rolled Right Down」において、アダム・シュナイトがクラリネットを、レジナルド・チャップマンがトロンボーンを吹き、その楽器の性格やアンサンブルも相まって懐かしい雰囲気が訪れるが、これもまた既存のイディオムに依存していない。終盤の雑踏の音には驚かされる。
「Foggy Valley」は短い演奏だが、モリスのささくれた音色に強い印象を覚えるには十分だろう。そしてウェバーとのデュオがやさしく間に入って、最後の曲が訪れる。あるユニットを繰り返し発展させていったあと、ストップ・アンド・ゴーのあんばいで別フェーズの音が重ねられてゆく。
ここで、かつて公民権運動に身を投じた活動家・作家マヤ・アンジェロウのことばが挿入されるのだが、意図的にであろう、小さな声が混ざりあってほとんど聴き分けることができない。デイヴ・ホランド『Dream of the Elders』(1995年)のようにアンジェロウのことばをアイコン的に使わないことは、思い切った意図だろう。
このアルバムは、コンポジションの中に個性的なプレイヤーの出番を与えるという一方向のものだけではない。各プレイヤーの音色を前提とした曲作りを行い(デューク・エリントンが個々のソロイストを想定してコンポジションを行ったのとは別のあり方で)、多くの異なる声からなるざわめきに形を与えているという点で、きわめて独創的であるように思える。
(文中敬称略)
アンナ・ウェバー、アンジェラ・モリス