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CD/DVD DisksReviews~No. 201

#1066 『関根彰良/SOLITARY PHASE』

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

UINX RECORDS UINX-001 ¥2,100

関根彰良(electric guitar, acoustic guitar, bass, drums, keyboard, voice)

1. 清純な孤独
2. Like J.
3.~6. Sevilla Suite
ⅰ) 12:10
ⅱ) Sin Ti
ⅲ) Esperando Tu Llamada
ⅳ) Superluna( y la Vela Bonita)
7. Canción
8. Lennon&McCartney: The Long and Winding Road
9. Good Name!
10. Sor: Study in C, Op.6 No.8
11. Bach: Lute Suite in E Minor, BWV996 – Allemande
12. Inspiration: What’s Up, Ben?
13. Tárrega: Recuerdos de la Alhambra
※作曲者表記のないものは関根彰良オリジナル


数ヶ月前に知人から提供されていたのだが(データから推測すると、CDリリース=2013年9月前後と思われる)デモCDと勘違いし、聴く機会を失ったままだった。当の知人から促されて初めて耳にしいろいろな意味で驚かされた。驚いた理由はいろいろある。まず、テクニックと音楽性が十二分にあり非常に優れたギタリストであること、いろいろな音楽が混在していること、多くの仕掛けがあること。正直なところ、こういうCDを紹介するのはとても難しい。種明かしをされたあとでマジックを楽しめるだろうか。犯人を知った上でミステリーを読む気になるだろうか。
M1、2は自作曲で、彼の世界へのイントロダクションである。M1は文字通り<清純な孤独>でたちまち清澄な空気に満たされるが、M2<Like J.>のややカジュアルな曲調に和みを覚える。M3~6は<セヴィリア組曲>。(あとで知ったことだが)2012年にフラメンコ・ギターを学ぶために滞在したアンダルシア州セヴィリアに想を得たものと思われる。さまざまなテクニックを駆使した本格的なクラシック・ギターのための作品。M7<Canción>(歌)はほとんど全編トレモロで演奏される超絶技巧を要求されるオリジナル。ほとんどストレートで演奏されるお馴染みのM8レノン&マッカートニー<ロング・アンド・ワインディング・ロード>と、スインギーなジャズ・ナンバーM9でくつろいだあとは、ソルの小品で<ハ長調の練習曲>とバッハのリュート組曲から<アルマンド>で身を正す。M12とM13は言わぬが花。<アルハンブラ宮殿>は竜宮だった!?
関根の公式サイトによれば、1978年千葉生まれ。幼少の頃からクラシック・ピアノを始め、12歳でロック・ギターに手を染め、東大生の頃にジャズに興味を持ち、ジャズ研に入部とある。クラシック・ギターとフラメンコ・ギターは内外のギタリストに師事し手ほどきを受けている。現在、さまざまな演奏活動の他、演奏や理論の個人レッスン・プロとして活動中。
楽器の性格上、ギタリストには渡辺香津美やパット・メセニーを筆頭にスキゾ系が多いが、この関根も彼らに負けず劣らずスキゾ度が高い。ちなみに、アルバム・タイトルの「Solitary Phase」は生物学の用語で「孤独相」を意味するが、登山の「単独行」と解釈すれば良いだろう。このアルバムこそCDを買わないと関根の全貌や仕掛けを楽しめないわけで、あるいは、iTunesなどを通した曲買い風潮に対するアンチテーゼという深謀遠慮なのかもしれない。(稲岡邦弥)

http://www.akirasekine.com/index.html

*初出:JazzTokyo #194 (2014.1.26)

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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