#1999『Massimo Magee, Joshua Weitzel & Tim Green / Live at Salon Villa Plagwitz』
Text by Akira Saito 齊藤聡
577 Records (Orbit577)
Massimo Magee (ts, cl)
Joshua Weitzel (g, 三味線)
Tim (Timothy) Green (ds)
1. Barolo Bop
2. Interflug Exotica
Recorded by Massimo Magee at Villa Plagwitz in Leipzig, Germany on February 4, 2020.
Edited by Joshua Weitzel
All Music by Massimo Magee, Timothy Green and Joshua Weitzel (GEMA).
https://orbit577.bandcamp.com/album/live-at-salon-villa-plagwitz
英国ロンドンのマッシモ・マギー(リード)、ドイツ・カッセルのヨシュア・ヴァイツェル(三味線、ギター)、豪州ブリズベンのティム・グリーン(ドラムス)が組み、ドイツツアーを行ったときのステージである。
ヴァイツェルの三味線のことは置いておいても、このような編成で自由即興を行うことは珍しくもない。だが実際にサウンドを耳にするとおもしろさが刺激となって断続的に攻めてくる。想定外の要素は、まずは三者三様の音である。
マギーのサックスとクラリネットの音色は微妙なグラデーションに満ちている。それはマーク・ターナーのような優美で整ったものとは異なり、より野心的にマージナルな領域にまで踏み込む恐ろしさを孕んだものである。タンギングを抑えての連続的なフレーズも印象的だ。本人も特にテナーでのレガート好きを自認しており、コントラバスの巨匠バール・フィリップスからは「サックスの中を泳いでいる」と例えられたのだとまんざらでもない様子だ。また、動画を観るとわかることだが、楽器を斜めにして吹き、それによりマルチフォニックを追求してもいる。
ヴァイツェルはまずはギターの音のエッジで擾乱を企んでいるようだ。三味線に持ち替えると、伝統的な鳴らし方とは明らかに逸脱した音が聴こえる。この弾性の撥音、しなり、減衰音が、サウンド全体を安寧させないよう揺り動かし、絶えずなにものかの鼓動を注入する力を持っている。
グリーンのドラムスもまたユニークだ。自律的に動くスライムのようにサウンドの裏側や隙間に入り込み、他者にまとわりつき、取り囲み、変幻なパルスを放ち続ける。ラシッド・アリやサニー・マレイを想起させもするが、その音は新しい。
かれらが相互に体を入れ替え、立ち位置をいつの間にか変えている。その結果、あちこちで脈動や火花を感じさせつつ、全体としてアンビエントな雲のような雰囲気を作り出している。誰がアトモスフェアを生み、誰がトリックスターとして動くのかと言えば、それは三者それぞれなのだ。とてもおもしろい。
かれらの年齢は近く、マギーが1990年、ヴァイツェルが1989年、グリーンが1991年生まれと皆30歳前後である(2020年現在)。他のヨーロッパ在住の目立つプレイヤーを眺めても、フローリアン・ヴァルター(サックス、1987年生)、ニコラ・ハイン(ギター、1988年生)、エミリア・ゴルドア(ヴァイブ、1987年生)など、実に個性的だ。
ヴァイツェルとマギーとはエディ・プレヴォ(即興グループAMMの打楽器奏者)のワークショップで知り合った。そして本盤収録時の今年(2020年)のツアーにおいて、ハインやヴァルターと出会い、ドイツで活動する奥田梨恵子(ピアノ等)、アンティ・ヴィルタランタ(ベース)、そして「偉大な」存在のルディ・マハール(バスクラリネット)らを含めたグループで共演している。かつて異能の若手として驚きとともに注目されたマハールは、既にそのような尊敬を集める存在となっているわけである。
マギーとグリーンとは、さらにもうひとりのドラマー、トニー・アーヴィングを加えてのサイクロン・トリオ(豪州アデレードで結成)や、ベース奏者のマックス・ファウラー・ロイとのトリオなどにおいて共演を重ねている。またグリーンは、やはり今回のツアーの合間に、ノイズ・パンク的なギタリスト、トーマス・リップマンとのデュオユニットTMとのギグを行ってもいる。そのように、機会を見出しては国境をすぐに越えるところがある。
ミレニアル世代だからといって雑に音楽の特徴を括ることはできない。だが、過去の情報を広く受け止める文化を当然のこととして、旅やネットを通じた開かれた場において活動の拡張につなげるありようは、明らかに時代的な変化をもたらしている。何もこれは当然のことではない。ヴァルターによれば、ドイツにおいて、既存のクラブシーンに乗って動くメインストリームのジャズとは大きく異なり、即興音楽の場合には自分たちでネットワークを構築し、外国のプレイヤーや他分野のパフォーマーを招き、場所を確保しなければならないのだという。その負担は確かに大きいに違いないが、それが、即興シーンの素晴らしい特徴を生みだしているのだと言うこともできるわけである。
もちろんこれは日本の即興シーンともつながっている。ヴァイツェルには日本で働きつつ演奏をしていた時代があったし、マギーは昨2019年に旅の途中で日本に立ち寄り、中村としまる(エレクトロニクス)、竹下勇馬(ベース)とのギグを行っている。感染症との共存というファクターは、長い目でみて、この即興演奏の豊かなありかたにどのような影響を与えるだろう。
(文中敬称略)