#2047 『Ivo Perelman & Pascal Marzan / Dust OF Light|Ears Drawing Sounds』
『イヴォ・ペレルマン&パスカル・マルツァン/ダスト・オブ・ライト | イアーズ・ドローイング・サウンズ』
text by Yoshiaki Onnyk Kinno. 金野Onnyk吉晃
Setola Di Maiale – SM4200
Ivo Perelman イヴォ・ペレルマン – tenor sax
Pascal Marzan パスカル・マルツァン – ten string microtonal acoustic guitar
1.Hot Dust-Obscured Galaxies 07:2
2.River Mirroring A Smiling Moon 05:25
3.Bees And Squirrels In The Garden/Two Bees At My Window 08:16
4.Sun Through Closed Eyelids 02:57
5.Ears Drawing Sounds 01:24
6.Dusts Of Light/Dancing In Shadowed Forests 01:52
7.Swinging Swallows 01:16
8.Conversation In The Wind/Conversation With The Wind 02:00
9.Calling At The Doorway 02:17
10.High Mountain Walk 08:13
11.Reflections 02:49
12.Mysterious Bells 07:45
Recorded by Dave Hunt at David Hunt Studio, London UK ,feb 2020
Mixed by Jim Clouse
Produced by Jean-Michel Van Schouwburg
Executive Producer : Stefano Giust
イヴォ・ペレルマンの作品を聴いたのは96年のLEOからリリースされた『Sad Life』以来である。四半世紀も経て彼の現在を聴く事には大いに興味があった。『Sad Life』の共演者はラシッド・アリ、ウィリアム・パーカーという強者で、湧きあがるパッションのまま、存分に吹き捲くっているという印象が強かった。
しかし、今回の詩的なタイトルのアルバムではかなり趣が異なっている。
ギタリスト、パスカル・マルツァンはクラシック・ギターを学んだ後、即興演奏への関心を強めた。そして彼が達した技法は10絃ギターと微分音による即興だった。彼は各弦のピッチを1/3音ずつ変えるという特殊なチューニングで、自在な演奏を見せる。そのサウンドもかなり異様に響いてくるだろう。
例えばプリペアド・ギターのようだったり、ハリー・パーチの作品、イヴァン・ヴィシネグラツキーの作品、そしてハンス・ライヘルのようでもある。しかし微分音のジャズと言えば、ECMやLEOからリリースされたマネリ父子を忘れる訳にはいかない。父ジョーのサックスと息子マットのヴァイオリン、それにベースやドラムが加わって織りなす、煙のたゆたうような独自のアンサンブルを思い出す。
ペレルマンも、マルツァンとのデュオでは、かなり微分音を意識して演奏している。が、ジョー・マネリの軟体動物、蠕動の如きフレージングではなく、やはり彼らしい勢いのある水流が迸る。なにしろギターというより複数の弦が織りなす双曲面の上をひたすら疾走して行くようだ。
ここまで書いてきて、聴覚的な印象批評でしかない私の感想文のお粗末さには呆れるが、実際この演奏をどうレビューすればいいのか、過去の同様の作品をよすがにするしかなかったのだ。丁度、香りや味をどう伝えるかのような難題である。其の意味ではワイン・ソムリエのように、葡萄がどのような風土で育ったか、いかなる熟成を経て来たのかを、細かに伝えるしかないのか。
既に西欧音楽の様式、調律からはみ出している以上、その逸脱ぶりを事細かに伝えたところで、構造化された耳には、おそらく「これはジャズではない。ましてや音楽でもない、これを即興というなら、即興とはノイズなのか」などという言辞が与えられるだろう。開き直ってしまえば、私はそれでもいい。ただ、ノイズというのを想定外の効果として現れた音響だとするなら、この二人の「演奏」にノイズは無い。
トラック10 ”HIGH MOUNTAIN WALK”は圧巻である。マルツァンのギターは、ボトルネック、又はスライドを用いているのか、高速に変化するサウンド曲面を生み出し、その上にペレルマンがシュプールを描いて滑走して行く。
百言は一聴にしかず。