#2076 『Yuji Takahashi + Roger Turner / Live at Aoshima Hall』『高橋悠治+ロジャー・ターナー / Live at Aoshima Hall』
Text by Akira Saito 齊藤聡
Ima-szok 03
Yuji Takahashi 高橋悠治 (piano)
Roger Turner (drums, percussion)
1. Duo Improvisation 1
2. Duo Improvisation 2
3. Encore
Recorded Live on December 15, 2019 at Shizuoka Aoshima Hall
Produced by Shigeru Inoue
Liner Notes: Kazue Yokoi
Translation: Mari Kamada
Recording: Shingo Matsuoka
Mastering: Hideaki Kondo
Artwork: Roger Turner
Special Thanks to: Setsuko Aoshima, Sachiko Inoue and Audience in concert hall
いうまでもなく高橋悠治はクラシック・現代音楽の世界においてあまりにも高名な存在である。だがその一方で、即興音楽の領域でも軽やかに遊ぶように活動を続けてきた。共演者の名前を思い出すなら、富樫雅彦、内橋和久、小杉武久、バール・フィリップス、スティーヴ・レイシー、エヴァン・パーカー、ジョン・ブッチャー、ジョエル・レアンドル、姜泰煥など綺羅星のごときだ。もちろんそれは余技などではない。筆者は、高橋がエヴァン・パーカーのマルチフォニックスの奔流に猫のようにしなやかにまとわりついてはなんども巨人パーカーをとらえる瞬間を目の当たりにして、驚愕したことがある(2016年、ホール・エッグファーム)。
高橋は、即興を近代のピアノ演奏からほとんど消滅したものと位置づけ、そこからの身体技法の回復をイメージしていた。それは「統合性と計量」から「分散性と差異」への回帰であり、指の差異化によって創出されるものは「しなやかに浮動するトポロジー」である(高橋悠治『音の静寂 静寂の音』、平凡社、2004年)。だから、本盤での演奏が全体を統括する構造を持たず、はじまりもなく終わりもないように聴こえるのは不思議なことではない。むしろその集合が構造そのものだ。すべての瞬間が差異をもった手仕事によるものであり、すべての瞬間を微小な断片にも大きなまとまりにもとらえることができる。
これをやすやすと実践しているようにみえるのが高橋の魔術であり、そして、ロジャー・ターナーの力でもある。ターナーがドラミングに使うスティックはきりきりに細く尖らせてあり、それにより次々に生みだされるパルスもまた、限りなく微細な要素からトポロジカルに作り出されている。そのかたちはときに拡張し、収縮し、ときに脱兎の勢いをもつ。
達人ふたりの共演は聴き手にとって饗宴であり、どの料理に注目しようとも、並行世界でまた別の料理が供されている。しかも、いたずらに贅沢でもストイックでもない手仕事のプロセスとして。
(文中敬称略)