#2079 『Freddie Redd – Reminiscing』
『フレディ・レッド/レミニッシング』
text by Nobu Suto 須藤伸義
Bleebop Records #2119
Freddie Redd (piano)
Brad Linde (tenor saxophone)
Michael Formanek (double-bass)
Matt Wilson (drums)
Sarah Hughes (soprano saxophone on track 5, alto saxophone on track 3)
Brian Settles (tenor saxophone on tracks 1,2,4,6-8)
1. Oh! So Good
2. Love Is Love
3. Shadows
4. Blues Extra
5. Once In A Life Time
6. Reminiscing
7. Blues X
8. There I Found You
All songs by Freddie Redd
Recoded at An Die Musik in Baltimore, MD, USA on January 24-25, 2013
Engineered by John Cook to 4-track digital
Mixed and Mastered by Charlie Pilzer at Tonal Park in Takoma Park, MD, USA
Art Work and Design by Matt Rippetoe, Sideman Creative, LLC.Produced by Brad Linde
2021年3月27日、ピアニスト/コンポーザーのフレディ・レッドが、彼の生まれ故郷のニューヨークで亡くなった。享年92。大変残念だが、彼が旅立つ僅か1か月前、2013年当時、彼が住んでいたバルチモアでの録音が、本作にも参加しているテナー・サックス奏者=ブラッド・リンドのBleebop Recordsより8年越しでリリースされた。
フレディのラスト・レコーディングは、本作録音以降移り住んだニューヨークで録音した『Music For You 』(Steeple Chase:2015年作品)と『With Due Respect』(Steeple Chase:2016年作品)であるが、本作『Reminiscing』の出来は、それらを遥かに上回る。寡作なフレディ(リーダー録音は、1955年リリースのEP盤を含め、全18作)が、残した僅かな作品群の中でも最高部類の出来だ。ジャッキー・マクリーンasとの有名な『Music from “The Connection”』(Blue Note:1960年作品)や黄昏を感じさせる情緒が最高な『Under Paris Sky』(Futura:1971年作品)と共に、筆者の愛聴盤になっている。実際、CDが家に届いてから数週間経つが、ほぼ毎日繰り返し聴いている。
冒頭の〈Oh! So Good〉のタイトルが、本作の魅力を、端的に表している。この曲を含め、先ず何より、彼の作曲が素晴らしい。収録曲は、3曲目〈Shadows〉- オリジナルは、『Shade of Redd』(Blue Note:1960年作品)に収録 - 以外は、全て初披露だ。厳密には、6曲目のタイトル曲は、後日録音の『With Due Respect』で既に発表されているが、本作収録のテイクの方が断然良い。個人的に特に気に入っているのは、5曲目の〈Once In A Lifetime〉だ。爽やかさの中に哀愁を含んだメロディが、ジャズワルツに乗って空に舞って行く。
そして演奏も最高だ。参加メンバーは、ニューヨークが拠点のマット・ウィルソン以外は、当時フレディが住んでいたバルチモア/ワシントンDC周辺のミュージシャンだ。何れも、フレディが、当地に移り住んできた2010年以降定期的に本作が録音されたAn Die Musik他で演奏していた仲間らしい。慣れた場所でのレギュラーコンボでの演奏が、アットホームなリラックス感に結びついている。
フレディは、昔からテクニックで圧倒するようなピアニストでは無いし、本作では、年齢からくるフィンガリングの衰えやタッチの弱さも聴こえる。しかし、そんな弱点も気にならない本物のジャズを感じさせるフィーリングが素晴らしい。ビバップ以降のジャズを生き抜いた、本物のジャズマンの証拠だろうか?
だが、本作における演奏の充実度に最大限に貢献しているのは、マイケル・フォルマネクbとマット・ウィルソンdsのリズム隊だ。特に注目したいのは、フォルマネクの強靭なスウィング感だ。ECMよりのリーダー作品やティム・バーンts他との共演作品から、先鋭的ベーシストと認識していたが、ここで聴かれるソロイストとの協調を保ちながらも溢れ出る推進力で鼓舞する伴奏は見事だ。それに柔軟に対応するマット・ウィルソンのしなやかだが、シャープなドラミングも良い。
サックス奏者3人は、地元を中心に活動していて知名度は無いと思うが、仲々の実力者だ。本作のプロデューサーも兼ねているテナーサックス奏者ブラッド・リンドは、トリスターノ一派に影響を受けた、知的なリリシズムが魅力だ。彼は、DCの老舗クラブ=ボヘミアン・キャバーンズ(デューク・エリントン他も演奏した)で『マンデイ・オーケストラ』を率いる他、自身のBleebop Recordsより、最後(?)のトリスターノ門下=テッド・ブラウンts他との作品を、精力的に発表してきている。
もう一人のテナーサックス奏者=ブライアン・セトルズは、デクスター・ゴードンやソニー・ロリンズを小粒にしたようなスタイルだが、ナチュラルなソウル・フィーリングがウォームだ。紅一点、ソプラノサックスとアルトサックスで一曲ずつ参加している、サラ・ヒューズは、リリカルなプレイを聴かせてくれる。しかし、彼女自身のリーダー作では、バリバリのフリーを披露しており、間口の広いアーティストだ。
全盛期を過ぎた1970年代以降リリースされたハードバップ系の作品で本作以上に『本物』を感じさせる作品は何枚あるだろうか?モダンジャズの歴史を生き抜いたフレディの有終の美を飾ざるプレゼントだ。日本では手に入りづらいかもしれないが、音楽販売サイト=Bandcampのブラッド・リンド/Bleebop Recordsのページより購入できるので、是非多くの人に聴いて貰いたいと思う。
因みに、Bleebopは、本作と同日録音で、フレディとブッチ・ウォレンとの双頭コンボ作『Baltimore Jazz Loft』(ブラッド・リンド/マット・ウィルソン参加)もリリースしている。本作の出来には及ばないが、ジャッキー・マクリーン/ドナルド・バード/デクスター・ゴードン他のBlue Note作に参加していたウォレンの遺作でもあり、十分楽しめると思う。
*『Reminiscing』及び『Baltimore Jazz Loft』は、Bandcampより購入可能 (CDは限定発売):https://bradlinde.bandcamp.com/album/reminiscing
https://bradlinde.bandcamp.com/album/baltimore-jazz-loft
**メンバーの詳細は、以下のレーベル・ホームページで:
Bleebop Records:https://bradlinde.bandcamp.com/
Brad Linde: https://www.bradlinde.com/
Sarah Hughes:https://www.sarahmariehughes.com/
Brian Settles : http://www.briansettles.com/
Michael Formanek: http://www.michaelformanek.com/
Matt Wilson: https://www.mattwilsonjazz.com/