#2144 『Francois Carrier/GLOW』
『フランソワ・キャリエ/グロウ』
text by Yoshiaki Onnyk Kinno 金野吉晃
FMR Records, FMRCD621
François Carrier (as) フランソワ・キャリエ
Michel Lambert (ds) ミシェル・ランベール
Diego Caicedo (g) ディエゴ・カイセド
Pablo Schvarzman (g, electronics) パブロ・シュヴァルツマン
1. Glow 11:19
2. Wilderness 09:53
3. Tide of Passion 11:09
4. Heart Core 12:23
5. Inner Sense 04:24
2019年6月5日、スペイン、バルセロナのSodeAcusticでライブ録音
『当世即興気質』
二年前に来日してライブ録音を残してくれたカナダのサックス奏者、フランソワ・キャリールが新譜を届けてくれた。とはいえ、このアルバムは2019年の6月にバルセロナで録音されたライブ音源だから、来日直前の様子である。
配給は英国の即興、ジャズ関係ではもはや一つのハブとなったFMRレコード、そしてフランソワ自身のColyaKooミュージック(カナダ)とある。
Michel Lambertはカナダ出身のドラマーで、フランソワとは2008年以来、アルバムを出し続けている盟友的存在。
このカルテットにはベースが不在だ。そして二人のエレクトリック・ギター奏者がいる。さらに二人ともかなり電子的なデバイスを多用して単なるギターを越えた空間を演出する
Pablo Schvarzmanはアルゼンチン生まれで(ドイツ系か?)、古い世代としてはペーター・コヴァルトやブッチ・モリスといった重鎮との共演もある。彼はギターよりもエレクトロニクスを応用する指導をしている。
Diego Caicedoはコロンビア出身で、バルセロナに長年住んでいる。彼の関心はエレクトリック・ギターの新しいソロ技法の開発にある。彼はフリージャズ、フリーインプロビゼーションが好きであると公言しているが、愛しているのはロックというから、まさに若い世代の典型とも言えよう。しかしロック的なリフレインや歪んだトーンは殆ど用いない。このアルバムにおいては。
演奏は全面的な即興と思われる。つまりテーマ、モチーフ、定型的なビートやリズムは現れない。というよりそれは形成された途端にうたかたの如く消滅して行く。そのエフェメラルなサウンドの推移は美しい。なにより、フランソワの切れの良いアルト(キャノンボールの愛用品)が、ぐんぐんと迫ってくる。
しかし、気づくと彼以外の三人の音は背景化しているように思えて仕方ないのだ。フランソワだけ別トラックで録音したかのよう。まあ立役者は彼である事は間違いないのだが。
全員が相互にダイナミックに変動する即興アンサンブルの妙を期待しても、パブロもディエゴもぐいぐいと自己主張をして来ない。全く出て来ない訳ではない。しかしすぐに隠れてしまう。勿論、その瞬間のアンサンブルを支配し、方向付けるような音が出せるか否かは、演奏者の技量によるだろう。
また、ライブ・エレクトロニクスから音を生成するミュージシャンは、其の瞬間に自ら生み出す音に耽溺する傾向がある。まるで愛しい我が子の誕生を迎えたように。この二人のギタリストのプレイは、おそらくMOONJUNE RECORDSあたりのサウンド好みのリスナーには喜んで迎えられそうだが、ノエル・アクショテやシュテファン・ジャヴォルチンのような硬派のアグレッシブさは聞こえない。
フランソワはいつもリアルタイムのアタック、強度、速度を追求している。これが音楽を牽引している。が、それでもミシェルのドラムセットにマイクをもう少し用意してドラム全体が聞こえたら印象は違うだろう。
この、今世紀の即興カルテットを聴いて感じるのは、世代差だろうか。それを率直に言えば音楽性の違い、すなわちアナログとデジタルの対比か、表現意識における拡散と集中、浸潤と突出といった性格の違いなのだろうか。