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CD/DVD DisksNo. 288

#2167 『鈴木良雄 ザ・ブレンド/ファイヴ・ダンス』
『Yoshio Suzuki The Blend / Five Dance』

text by Keiichi Konishi 小西啓一

Friends Music (2枚組)  WAGE-14001~14002 ¥4,000(税込)*4.20発売予定

鈴木良雄 (b)
峰 厚介 (ts)
中村惠介 (tp)
ハクエイ・キム (p)
本田珠也 (ds)

Disc 1 :
01.Morning Glow
02.Gardens by the Bay* (Hakuei Kim)
03.Let’s Walk Towards the Sun
04.せせらぎ
05.Five Dance

Disc 2 :
01.Afternoon of Carnival
02.Part Blues
03.Memories
04.Moanin’ *(Bobby Timmons)
05.Stay Home Blues
Composed by Yoshio Suzuki except (*)

Recorded at Shinjuku Pit Inn, February 23, 2022
Recorded by Akinori Kikuchi (Pit Inn Music Inc.)
Mixed by Masashi Gotoh
Mastered by Koji Suzuki at Sony Music Studio Tokyo
Photograph : Sosuke Akahane
Cover Design : Mino Yamamoto
Product Manager : Kunihiro Watanabe (W.AGENCY LLC)
Produced by Yoshio “Chin” Suzuki

発売元:FRIENDS MUSIC
販売元:Sony Music Solutions Inc.


チンさんの愛称で知られる鈴木良雄のニュー・バンド ”ザ・ブレンド” が、彼にとって初めてのライヴ・アルバムという形で、そのお披露目を迎えた。ユニット名通りに、リーダーの鈴木とその盟友の峰厚介といったベテラン勢に、ハクエイ・キムと中村恵介という中堅陣を “ブレンド”させた、文字通り期待のオールスター・コンボだが、加えて本田珠也という “凄腕ドラマー”(鈴木談)が加わっているのが大きな魅力となっている。

鈴木はこれまで “イースト・バウンス”“ベース・トーク”といった自身の人気ユニットで、彼の書いたオリジナルをかっちりとしたアレンジの下で演奏する…、ユニット・サウンド重視の心地良いフュージョン風ジャズを、長い間展開し続けて来た。しかしこの “ザ・ブレンド” は、その対極にあるジャズ・サウンドを展開、全員の迫力あるソロ・ワークを前面に押し出しており、ライヴ・バンドならではの本源的な力強さと蠱惑力に溢れた卓抜なものとなっている。鈴木はこのJ-ジャズの良点を数多く有する出色ユニットのお披露目を、その持ち味を最大限に生かすべく、このコロナ禍の中にあって敢て “新宿ピット・イン” という、彼らの拠点でのライヴ収録という形に決めたのだった。それも2セットのライヴをその演奏順のまま、2枚組のアルバムに収める…という、かなり思い切った大胆な試みである。その鈴木の狙いがぴしっと成功を収めたことは、このアルバムを聴かれた方たちは極く自然に納得するはずである。

鈴木の以前より野太くなった感もある重低音と、繊細でいて確固としたベース・ワークを基底に、峰厚介&中村恵介という2人の豪放な “介”(漢)によるフロント・ライン、それに対峙する珠也&ハクエイという出色で異色な圧巻のリズム・コンビ。この2等辺三角形ともいえるユニット・ラインから自在に放出される迫力あるサウンドは、ジャズ好きのハートを痛く揺さぶり続ける。ここで鈴木自身は、それぞれが抜群の実力を誇るあの梁山泊の英雄たちにも匹敵する豪放な面々を、自由に遊ばせ競わせつつその方向性を指し示す、秀逸なコンダクター役~彼自身の言葉では “猛獣使い” といった役割を見事に果たしており、演奏のどのシークエンスでもジャズ的なカタルシスを現出させてくれる。

自身のユニットでは自己のオリジナルを徹底追及する鈴木は、このライヴお目見え盤でも、メンバーの飛翔を描いたタイトル曲 <ファイブ・ダンス>や、オープニングの日の出の荘厳さを表した <モーニング・グロウ> など、ユニットのために書いたオリジナルを取り上げ(ハクエイ・キムのオリジナルも1曲あり)、それらをユニットの面々は奔放かつ鋭敏に愉し気に扱う。その手並みの鮮やかさも聴きどころのひとつだ。ただここで1曲だけ、自身とメンバーのオリジナルではないナンバーがある。彼自身にとっても在米時代の想い出の曲、アート・ブレーキー& JM(ジャズ・メッセンジャーズ)在籍時に演奏しただろう、あの余りにも有名な <モーニン> を取り上げているのだ。自身のバンドでは彼のオリジナルを取り上げることを命題にしている彼にとっては、これは大変に珍しいことだが、2管のあの懐かしくも威勢の良いメロディー~モダン・ジャズ全盛期のあの良き時代を想起させるメロディーが、21世紀ならではの新たな息吹きを伴って再構築されているあたり、鈴木の今の心根を聴き取ることもできてすこぶる興味深い。

全体に聴き応え充分で、J-ジャズの底力が披歴されている好ライヴ・アルバムと断言できよう。

小西啓一

小西啓一 Keiichi Konishi ジャズ・ライター/ラジオ・プロデューサー。本職はラジオのプロデューサーで、ジャズ番組からドラマ、ドキュメンタリー、スポーツ、経済など幅広く担当、傍らスイング・ジャーナル、ジャズ・ジャパン、ジャズ・ライフ誌などのレビューを長年担当するジャズ・ライターでもある。好きなのはラテン・ジャズ、好きなミュージシャンはアマディート・バルデス、ヘンリー・スレッギル、川嶋哲郎、ベッカ・スティーブンス等々。

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