#2176 『トゥーツ・シールマンス meets ロブ・フランケン–スタジオ・セッションズ1973-1983』
text by Keiichi Konishi 小西啓一
MUZAK MZCQ-132 4,350円(税込4,785円) 2022.4月15日発売
CD 1 :Nature Boy (1982-1981)
01 -What Is This Thing Called Love
02 -Lush Life
03 -Midnight
04 -C’estPour Ton Bien
05 -Music Box
06 -Day Dream
07 -Water Wings
08 -Goodbye Pork Pie Hat
09 -We All Remember Wes
10 -Nature Boy
録音:1982年11月2日/MC Studio, オランダ
Jean “Toots” Thielemans -hc
Peter Tiehuis-guitar
Rob Franken -Fender piano
Theo de Jong -bass guitar
Bruno Castellucci-drums
11 -Caravan
12 -You Stepped Out Of A Dream
13 -SalutArtist
14 -Velas
15 -The Summer Knows
16 -Oleo
17 -Sophisticated Lady
18 -Three Views Of A Secret
19 -Laurie
20 -This Masquerade
録音:1981年1月30日/MC Studio, オランダ
Jean “Toots” Thielemans -hc
Rob Franken -Fender piano
Theo de Jong -bass guitar
Bruno Castellucci-drums
CD 2: Absorbed Love (1978-1974)
01 -PorHermeto
02 -Have You Met Miss Jones
03 -André
04 -Crystal Silence
05 -The Sidewinder
録音:1978年1月12日/, Phonogram Studio’s, オランダ
Jean “Toots” Thielemans -hc, g, whistle
Rob Franken -Fender piano
James Leary -bass
Eddie Marshall -drums
2, 5: add Ferdinand Povel-tenor sax (4: flute)
06 -CurtaMetragem
07 -DatMistigeRooieBeest
08 -Just Friends
09 -Brown Ballad
10 -Broadway
11 -Sultry Serenade
12 -In A Mellow Tone
13 -It’s Impossible
14 -Absorbed Love
15 -C to G Jam Blues
16 -Good Morning Heartache
17 -RecoReco
18 -SalutArtist
19 -You’re So Nice To Be Around
20 -Waltz For Sonny
録音:1974年4月8日/Sound Push Studio, オランダ
Jean “Toots” Thielemans -hc, g, whistle
Rob Franken -Fender piano and synthesizer
JoopScholten-guitar
WimEssed-bass and bass guitar
Peter Ypma-drums
CD 3: Together (1973 + bonus tracks:1983)
01 -Old Friend
02 -Watch What Happens
03 -One Note Samba
04 -Days Of Wine And Roses
05 -There’s No Greater Love
06 -Dirty Old Man
07 -Here’s That Rainy Day
08 -Together
09 -Wave
10 -Body And Soul
11 -Secret Love
12 -I Never Told You
13 -Torres
14 -How High The Moon
15 -Misty
16 –Bluesette
録音:1973年1月10日/MC Studio, オランダ
Jean “Toots” Thielemans -hc, g, whistle
Rob Franken -Fender piano
Rob Langereis-bass guitar
Eric Ineke-drums
17 -BiotopenIII
18 -BiotopenII
19 -For Sheila
録音:1983年
Jean “Toots” Thielemans -hc
Peter Tiehuis-guitar
Rob Franken -Fender piano, piano and synthesizers
Theo de Jong -bass guitar
Bruno Castellucci-drums
“ワン・アンド・オンリー”(唯一無二)という表現、ぼくもジャズ・アルバムのライナーノーツ等で時々使わせてもらうのだが、この表現に最もぴったりなミュージシャン…と言えば、やはりジャズ・ハーモニカの匠にしてイノベーターでもある、トゥーツ・シールマンスということになるのではないだろうか。ベルギーという欧州の小国に生を受け、ギタリストとしても卓抜な腕を振るう彼は、元々はアコーディオン奏者としてプロ・デビュー、以降ギタリストそして口笛奏者としても知られるようになる。だが彼が世界的な名声を得たのは、やはりハーモニカという楽器あればこそだろう。ぼくらチャンジー(シニア)世代には、子供のころ唯一と言って良いほど身近にあった安価な楽器。そのハーモニカが彼の凄腕によって、見事なジャズ楽器として機能する様は、驚きでもあり快感でもあった。クインシー・ジョーンズを始め多くのミュージシャンやシンガー、さらに多くのジャズ・ファンからこよなく愛された(彼を悪く言う人はほとんどいないと思う)名手トッーツ。その彼が亡くなって(96年没/享年94)すでに6年余り、じつに惜しくも懐かしい人だった。
そんなトゥーツへの喪失感をいささかでも軽減してくれる素敵なアルバム、それがトゥーツ生誕100周年を記念し今回登場することになった。それもこの “アルバム氷河期” とも言われる厳しき折り、なんと3枚組全59曲という圧巻のボリュームで、良心派レーベルとしても知られる“ミューザック (MUZAK) ”から発売される運びとなった。担当・福井亮司氏の英断も高く評価したい。
さて肝心のアルバムだが、タイトルは『トゥーツ・シールマンス meets ロブ・フランケン』。ここではトゥーツはお得意のハーモニカをメインに、ギタリストそして口笛奏者としても登場、その神業ぶりを披露する。そしてこのタイトルからもお分かりの通り、彼と並んでオランダのアムステルダム出身のユニークなキーボード奏者、ロブ・フランケン(1941~83年)も、ここでは大きくフューチャーされ、この2人の親和と信頼関係がこのアルバムのキー・ポイントである。
トゥーツはアルバム原ライナーの中で、自身の演奏にインスピレーションを与えた人物として “それはロブ・フランケンです” と答え、“70年代初頭、ロブは私のバンド・メンバーでしたが、私自身は時代遅れでボロボロだと感じていました。ところがロブはとても美しいソロを弾くのです…。現在 、〈トゥーツ・スタイル〉として呼ばれるもの、その最も重要な部分を彼は担っているのです…” とまでも言い切っている。これはある意味驚くべきことで、この2人の共演アルバムは大変重要な意味合いを有しているとも言える。ここでの演奏は実際聴きやすくも、含蓄深い素晴らしいもので、リズム陣も欧州の腕達者達。3枚組3時間半強という長尺ものだが、それをあまり感じることも無くかなりすらすらと愉し気に、気分良好で聴き通せてしまう優れものアルバムでもある。
全59曲は1973年、74年、78年、81年、82年、そして83年、延べ10年間にわたる2人の共演内容で、すべてスタジオ・セッション。トゥーツの方はもう皆様良く知る存在だが、ロブの方は欧州ジャズに詳しい方以外は、余り馴染みない存在で、確か邦盤も出ていないはず。しかし数々の名手と共演しているオランダ・ジャズ・シーンを代表するピアニスト&キーボード奏者である。トゥーツ・バンドのレギュラー・メンバーを務めてもいたが、ここではフェンダー・ローズのプレーが中心。その独特な疾走感と浮遊感を伴った少し軽味ある音色と、ハーモニカの素朴でいて深みある音色、このブレンドも絶妙で、じつに心地良くも親し気な会話の連続だ。<ラッシュ・ライフ><イン・ア・メロウトーン>等々のお馴染みスタンダード・ソングも、2人の手に掛かると独特な弾みと愁いを帯び、常日頃とは異なった素敵な光彩(=ジャズ・オーラ)を放つ。
ウクライナ侵攻、コロナ禍等々、憂鬱を超えあまりにも心配なことばかり続く、この混乱の極みにある2022年の今、いささかオーバーかもしれないが、多くのファンに聴かれるべきアルバムではないかとも感じる。全3枚というボリューム感満杯のものだが、ぜひ手に取ってみて欲しい。生きている “歓喜”と“希望” を実感し、さらに音楽の根源的な “癒し”の力にも触れられるジャズ・アルバムとして、皆様にぜひお勧めしたい。
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