#2196 『仲野麻紀/危機的時代の恋愛作法』
text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌
Nadja21/King International KKJ-192 ¥3,850(税込)CD+EP (17cmLP)
輸入盤国内仕様 仲野麻紀書下ろし掌編小説付
01. La Chanson Du Sextoy 03:29 主題歌「モナムール」
02. La Valse Du Sextoy (En Mer) 01:36 ワルツ (海辺)
03. De L’Usage Du Sextoy (Générique) 01:28 恋愛作法 (オープニング)
04. Les Fantômes Du Sextoy 01:24 幽霊
05. La Valse Du Sextoy (La Sortie) 01:15 ワルツ (退院)
06. La Blouse Deluxe 01:13 ぜいたくな落ち込み
07. La Maladie Du Sextoy 00:54 闘病
08. La Banlieue Du Sextoy 01:09 過去への旅
09. La Valse Du Sextoy (Le Retour) 01:01 ワルツ (帰り道)
10. De L’Usage Du Sextoy (Le Placard) 00:41 恋愛作法
11. La Valse Du Sextoy (Paris By Night) 01:30 ワルツ (パリの夜)
12. Le Tango Du Sextoy 02:43 タンゴ
13. Tumar Songe Jabo 03:24 あなたと共に歩むから
14. La Chanson Du Sextoy (Remix) 03:28 主題歌「モナムール」(リミックス)
仲野麻紀 (ヴォーカル,メタルクラリネット,アルトサックス)
レイラ・マーシャル(ヴォーカル)
オー・ソロモン(ピアノ)
ヤン・ピタール (ギター,作詞・作曲)
録音:2012年パリ
映画の原題を『危機的時代におけるセックス・トイの使い方』という。主題歌は<セックス・トイの唄>。セックス・トイ、つまりはアダルト・グッズ、ひと昔前までは “ 大人のおもちゃ” と言われ、その類のビデオ・ショップの奥のカーテンで仕切られたコーナーで売られていた。まさに淫雛な雰囲気漂う“大人” だけの世界だった。今はどうだろう。ネットショップで誰憚ることなくボタンをポチすれば数日後には郵便受けに届くのだろう。人の目を盗みながら...などというスリルも、ましてや背徳感のかけらもない。その前に、セックス・トイを手に入れる目的そのものが変わってきている。快楽の追及以前にセックスに及ぶ機会や機能を失った現代人の多くがそれを必要としている。つまり、「危機的時代におけるセックス・トイの使い方」(邦題では、“恋愛作法” とオブラートに包んだ)。この映画の主人公、ドキュメンタリー映画の監督、の場合は取材で浴びた放射能(チェルノブイリ原発事故を暗示)が原因と思われる白血病の治療の副作用で不能に陥る。ドキュメンタリー・タッチとはいえフランス映画のことだから男女関係を絡めて鑑賞に耐え得るストーリーに仕立てられている。音楽を担当したのはヤン・ピタールで、主題歌を歌うのは仲野麻紀。10年以上続いたユニット「Ky」(キィ)のコンビだ。主題歌のメロディはデジャヴに溢れ、ハスキーな声でアンニュイ感を湛えて歌う仲野のヴォーカルは一度聴いたら耳を離れない。在仏20年を超える仲野のフランス語はネイティヴ顔負けで、日本語ではこの情感の表出は難しいだろう。
8月下旬からスタートした仲野の約3ヶ月に及ぶ帰国ツアーのタイミングもあるだろうが、2013年公開の映画のサントラの10年後の国内発売が “ 時宜を得た” と言えるほど時代はますます危機を孕みつつある。なお、CDの他に主題曲のリミックスを収録したEP (17cmLP) が同梱されているのもコレクター心理を衝いているといえよう。解説代わりに仲野が書き下ろした掌編小説でも仲野はその多才の片鱗を見せているが、彼女の文才はすでに『旅する音楽〜サックス奏者と音の体験』(せりか書房 2016)で証明済だ。。
ヤン・ピタールと仲野麻紀のユニット「Ky」を初めて聴いたのは 2014年、千駄木の「記憶の蔵」での映画「生きるという営み」だった。このドキュメンタリー映画の監督こそヤンの父親で、「セックス・トイ」は言わば彼の事実に基づく自作自演ということになる。ヤンの映画音楽制作のキャリアは長く、2011年、その集大成ともいうべき6枚組CDセット『Low Budget Movies』が仏openmusicからリリースされている。
https://openmusic-ky.bandcamp.com/album/music-for-low-budget-movies