JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 9,619 回

CD/DVD DisksNo. 306

#2268 『カウント・ベイシー・オーケストラ/ベイシー・スウィングス・ザ・ブルース』
『Count Basie Orchestra / Basie Swings The Blues』

text by Tom Ueno 上野 勉

BSMF-5122   2,970円(税込)

カウント・ベイシー・オーケストラ
led by スコッティ・バーンハート

1. Let’s Have A Good Time (Featuring Mr. Sipp)
2. Boogie In The Dark (Featuring Bobby Rush)
3. I’m A Woman (Featuring Buddy Guy, Shemekia Copeland, & Charlie Musselwhite)
4. Down Home Blues (Featuring Keb’ Mo’& Lauren Mitchell)
5. Stormy Monday (Featuring Bettye LaVette)
6. The Midnight Hour (Featuring Robert Cray)
7. Dirty Mississippi Blues (Featuring Mr. Sipp)
8. The Patton Basie Shuffle
9. Evil Gal Blues (Featuring Ledisi)
10. Look What You’ve Done (Featuring Jamie Davis)
11. Just For A Thrill (Featuring Carmen Bradford)
12. Rock Candy (Featuring George Benson)

2013年カウント・ベイシー・オーケストラの新リーダーに任命されたスコッティ・バーンハートに与えられた最大の課題は、この偉大なビッグバンドの存続にあたってこれまでの伝統を継承しつついかに新しいレパートリーを拡充していくかという難問だったことは想像に難くない。ベイシー没後サド・ジョーンズによって引き継がれ、以降数人の有能なバンドOBたちに率いられてきたオーケストラだが、この間積極的に新しいレパートリーを増やしてきたとは言い難い状況だった。バーンハートに交代して2枚目のレコーディング『オール・アバウト・ザット・ベイシー』(2018)では、過去のレパートリーに新曲を加えそれぞれの曲にゲストを迎えて変化を求めるという趣向だったが、今回の『ベイシー・スィングス・ザ・ブルース』はブルースをテーマにおいての発展形と言えるであろう。

ベイシー・オーケストラと言えば、初期を代表するヒット曲〈スウィンギン・ザ・ブルース〉(1938) あるいはジミー・ラッシングやジョー・ウィリアムズなどバンドシンガーの存在からブルースバンドとしてのイメージが強いが、レパートリーにはAABA形式のいわゆる循環コード曲や優れたアレンジャーの手になるポピュラーソングのカヴァー・ヴァージョンも少なくない。だが、どの曲を聴いてもブルースのニュアンスが横溢している。

このアルバムはバンドのそうした特性を生かしつつ、ブルースの世界におけるアイコン的な存在のリジェンドから今を代表するスーパースターたちまでをゲストに迎えて取り組んだ意欲作である。ボビー・ラッシュ、バディ・ガイ、チャーリー・マッスルホワイト、ベティ・ラヴェット、ケブ・モー、ロバート・クレイといったベテラン陣に加えローレン・ミッチェル、レディシ、ミスター・シップことカストロ・コールマン、シェメキア・コープランドなど脂の乗り切った実力者の参加を得た。また過去にベイシー・バンドと共演経験のあるジョージ・ベンソンや、かつてバンドと行動を共にしていた二人のヴォーカリスト、ジェイミー・デイヴィスとカーメン・ブラドフォードの名前を見ることもできる。一曲ではフレディ・グリーンの後任としてリズム・セクションを支えていたチャールトン・ジョンソンがソロを披露している。

全体にブルース色が前面に出ており特にリズム・パターンにそれは顕著だが、ソロやヴォーカルを支えるアンサンブルはまさしくベイシー・サウンドであり、面目躍如といったところだろうか。決して企画倒れに終わることなく、楽しめる作品に仕上がったことは欣快の至りである。

余談ながら、明2024年はベイシー翁の生誕120年、没後40年にあたる。逝去翌年の1985年に米国で刊行された自叙伝『グッド・モーニング・ブルース』は、いまだにわが国では未訳のままである。注目の集まるであろうこの機会に陽の目を見るよう心から願っている。


上野 勉 (Tom Ueno)

広島市出身。立教大学文学部卒。
元日本コロムビア洋楽部ディレクター。
『カウント・ベイシーの世界』(スイングジャーナル社 1982)、ジャズ・マスターシリーズ『カウント・ベイシー』(音楽之友社 1986)をそれぞれ翻訳、出版。
洋画の特に男性ファッションに精通。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください