#2278『ジョエル・グッドマン/エクスクイジット・モメント』
『Joel Goodman/An Exquisite Moment』
text by Hiro Honshuku ヒロ・ホンシュク
Free Flying / A64
- Joel Goodman (keyboards and electric bass: Track 2, 4)
- Donny McCaslin (saxophones)
- Adam Rogers (guitar)
- Scott Colley (acoustic bass) 除くTrack 2
- Eric Harland (drums)
- Mino Cinelu (percussion)
Special Guest
- Randy Brecker (flugelhorn, trumpet) Track 5, 7, 10
- Brandee Younger (harp) Track 1
- Lisa Fischer (vocals) Track 2
- John Patitucci (bass) Track 2
- Philippe Saisse (piano, vibes, marimba) Track 2, 3, 6
- Greg Herzenach (acoustic guitar) Track 3, 5
Recorded at The Power Station, NYC, September 19 & 20, 2021
- What Dreamers Dream
- An Exquisite Moment
- Drifting in Wonder
- Rumi and the Whirling Dervish
- The Mystery of Trees
- A Change of Heart Astral Projection
- Astral Projection mvmt I – The Vision
- Astral Projection mvmt II – Orbit
- Astral Projection mvmt III – Bliss
- Astral Projection mvmt IV – Exaltation
筆者の昔のバンドメイトだった大好きなDonny McCaslin(ドニー・マッキャスリン:日本ではダニー)の参加作品が届いた。知らないアーティスト、Joel Goodman(ジョール・グッドマン:日本ではジョエル)という、CM音楽やドキュメンタリー映画を数多く手がけている人だそうだ。それにしてもこのバンドのメンバーがすごい。ギターのアダム・ロジャーズ以外は全員深く馴染みのあるメンバーだが、この組み合わせは初めてかも知れない。ベースのスコット・コーリーは筆者の大好きなゴリゴリにドライブするタイプではないが、どんなドラマーに対してもオン・トップ・オブ・ザ・ビートすれすれでドライブできる貴重なプレーヤーだし、ドラムは大好きなエリック・ハーランドなので、これだけでワクワクする。これにマイルス・バンドを長く務めたミノ・シネルが加わっているところにも興味を持った。筆者もミノとはツアーで毎晩一緒に演奏したことがあるので彼のドライブ感は良く知っているが、それでもスネアのバックビートがすごいハーランドとの相性が興味津々だった。ところでギターのアダムは無名ではない。Michael Brecker(マイケル・ブレッカー)、Randy Brecker(ランディ・ブレッカー)、Chris Potter(クリス・ポッター)、Norah Jones(ノラ・ジョーンズ)等のアルバムでクレジットされている。どんなスタイルにも七変化するスタジオ・ミュージシャンなのだと思う。
このアルバムを受け取って早速ドニーに連絡してみた。なんでもジョールはバークリーの先輩で、当時ギグに呼ばれていたそうだ。ドニーをGary Burton(ゲイリー・バートン)のバンドに推薦したのもジョールだそうだ。このアルバム、期待せずに聴き始めたのだが、内容が恐ろしく素晴らしいのだ。ダニーを始めハーランドもスコットも、挑発されたようにいつもより1段階次元を超えたところに到達している。これはジョールの作曲作品と、スタジオでの一発録りで自由にインプロを楽しむというコンセプトが功を奏しているのだと思う。全ての曲を数日間で簡単に書き留めたとプレス・キットにある説明に反し、どの曲も実によく出来ている。さすが商業音楽で成功し続けた作曲家だと感じた。筆者の苦手なオールスター的コンセプトかと思いきや、このメンバーを集めてどんなサウンドになるかしっかり見極めている。
1曲目、ベースがアカペラで始まると、「おっ、ミックスがうまいな。スコットのタイム感相変わらずご機嫌だな。」となる。ハープも入り、中近東風のサウンドのヘッドからドニーのソロが始まるのだが、これがすごい。ソロの途中から薄くオクターバー・エフェクトが入ったり消えたり、実に効果的だ。ひとつ間違えると1曲目に適さない曲なのに、ドニーのソロが反対にこの1曲目を必然的なものにしている。すごい。2曲目はベースのダブルストップでのスライドが強力なテーマになっている。これだけでこの曲が忘れられないものとなっている。リサ・フィッシャーが歌うメロディーを聴いていて、割り切れない14小節フレーズが実に自然に聞こえ、なかなかオシャレだ。3曲目はPat Metheny(パット・メセニー)の『80/81』を思わせるフォークソング風の曲と思いきや、なんと5拍子で素敵な捻りが入っている。4曲目はかなり斬新なオルターナティブ・ロックで、これがむちゃくちゃカッコいい。5曲目はランディー・ブレッカーをフィーチャーし、ドニーがソプラノを吹く毛色の違った曲だが、この6拍子のフレージングがふわふわとなんとも不思議な世界に連れて行ってくれる。6曲目はスコットをフィーチャーしており、ヘッドのフレージングがこれまた奇抜だ。4拍子なのにくねくねと曲がる。ジョールはこのフレージングの魔術師らしい。すっかり気に入ってしまった。7曲目から4楽章形式の組曲で、これがまたかなり劇的工夫がされており気持ちいい。
一歩間違ったら自分の作曲技術を全部披露してやろう的なアルバムに陥りそうなのに、全くそう聴こえないことに正直びっくりした。オススメである。是非ご一聴頂きたい。
ドニー・マッキャスリンの楽曲解説も合わせてお楽しみ下さい。
Joel Goodman、グレッグ・ハーゼンナック、Greg Herzenach、フィリペ・セイシー、Philippe Saisse、リサ・フィッシャー、Lisa Fischer、ブレンディ・ヤンガー、Brandee Younger、ランディー・ブレッカー、アダム・ロジャーズ、コット・コーリー、ジョエル・グッドマン、ジョール・グッドマン、Adam Rogers、Mino Cinelu、Eric Harland、Scott Colley、ジョン・パティトゥッチ、John Patitucci、ドニー・マッキャスリン、Randy Brecker、エリック・ハーランド、ミノ・シネル、Donny McCaslin、ダニー・マッキャスリン