#2277 『平林牧子トリオ / メテオラ』
text by Kazue Hayata 早田和音
SOLID / Enja Records CDSOL-46496
平林牧子: Makiko Hirabayashi(p)
マリリン・マズール: Marilyn Mazur(ds, per)
クラウス・ホウマン: Klas Hovman(b)
1.ワープ (Warp)
2.バーズ・アセンディング (Birds Ascending)
3.ザ・ドア (The Door)
4.チェスナット・アレイ (Chestnut Alley)
5.ミーニングフル・エンカウンター (Meaningful Encounter)
6.スコーピオ・リサイタル (Scorpio Recital)
7.メテオール (Meteor)
8.インフィニティ (Infinity)
9.デザート・ローズ (Desert Rose)
10.キルン (Kilden)
11.スリップ (Slip)
all songs composed by Makiko Hirabayashi except 6.10 by Marilyn Mazur
Recorded 26, 27 Oct 2022 at The Village Recording, Copenhagen
“ひと月の間、自由にやってください”。 コペンハーゲンにあるジャズクラブに出演する際にオーナーから言われたひと言が、平林牧子トリオ結成のきっかけだった。1966年東京生まれ。87年にバークリー音楽院に入学し、卒業後に渡欧しコペンハーゲンで開始。95年にヨーロッパジャズコンテストでパブリックアワードとベスト・アレンジメント賞の両賞を受賞した彼女が、前述のジャズクラブのオーナーの言葉を聞いてトリオの結成を決めたのは2001年のこと。ドラム&パーカッションには、マイルス・デイヴィスやギル・エヴァンス、ウェイン・ショーター、ヤン・ガルバレクらからの重用を受けるマリリン・マズール。ベースには、ホレス・パーランやトゥーツ・シールマンス、リー・コニッツ、ジョン・アバクロンビー、スヴェン・アスムッセンらのジャズ・ミュージシャンと数多く共演するほか、1990年代初頭にデンマークのロック・バンド、“サベージ・ローズ”の一員としても活動するなど、ノン・ボーダーな音楽性を有するクラウス・ホウマンだ。ヨーロッパ屈指のミュージシャンふたりとともに結成した平林牧子トリオは2001年の結成以来20余年間に亘って不動のメンバーで活動を継続。今年10月に、前作『ホエア・ザ・シー・ブレイクス』から5年ぶりとなる5thアルバム『メテオラ』を発表した。
ディスクのスタートとともに複数のパーカッションの囁きが少しずつ浮かび上がり、やがてコントラバスのアルコが獣の唸り声のような重低音を発し始める。その中で少しずつリズムが形作られ、ピアノがその律動に呼応するようにしてフラグメンツを重ねていく。当初は互いの存在にノンシャランだった3人が徐々に呼応を始め、その距離感を微妙に変化させながらインタープレイを展開させていくことによって広大な音空間が生み出され、そこに心が吸い寄せられていくのを感じる。その後も、3者が等位に音を絡ませながら演奏を音楽の高みへと押し上げていく「バーズ・アセンディング」や、トリッキーに展開されるメロディとリズムがダンサブルなトランス感を生み出す「チェスナット・アレイ」、極めてゆっくりと演奏の色合いと明るさが変化していく「メテオール」、3人の発する音が光の粒子のように飛び交いながら躍動感に満ちた演奏を織りあげていく「キルン」など全11の楽曲がオーガニックに結びつきながら大きなストーリーを描き出していく。2021年に自身のリーダー・アルバム『Weavers』で、デンマークのグラミー賞と言われるDanish Music Awards“ジャズ・リリース・オブ・ザ・イヤー”を受賞した彼女の充実ぶりを伝える素晴らしいアルバムとなっている。
平林牧子、クラウス・ホウマン、マリリン・マズール、Makiko Hirabayashi、Marilyn Mazur、Klas Hovman、平林牧子トリオ