#2276 『 さがゆき & 八木のぶお / 中村八大楽曲集』
text by Akira Oshima 大島 彰
地底レコード B106 F ¥2,750(税込)
さが ゆき(vocal,guitar)
八木 のぶお(harmonica,vocal)
1. 夢で逢いましょう/永六輔
2. ウェディングドレス/永六輔
3. 芽生えてそして/永六輔
4. 生きるもののうた/永六輔
5. 風に歌おう/永六輔
6. 生きているということは/永六輔
7. パラランパン/永六輔
8. そして想い出/永六輔.丸山浩路
9. ねむの木/谷内六郎
10. 明日があるさ/青島幸男
11. どこかで/永六輔
12. さよならさよなら/マイク真木
作曲はすべて中村八大
Recorded at Live Cafe Rooster 東京・荻窪
Recorded & mastered by 寺部孝規
Produced by さがゆき
Co-produced by 吉田光利
新譜をトレイに乗せて、読み込みが始まると、聴こえて来るのはハーモニカの独奏、その瞬間に記憶のなかの60年代に引き込まれてしまう、やがて囁くように、あの歌声が聴こえて来る、たどたどしくも聴こえるけど、一つひとつの言葉を噛みしめるような切なさだ、素晴らしい歌、どの曲も素晴らしい、渾身の歌唱だ、………二人によるステージは、この夏「アピア」で拝聴したので、このアルバムの出来の良さに関しては解っていたつもりだが、聴き込むほどに感動する、今朝は「どこかで」が終わったあと、思わず立ち上がって拍手してしまいました 笑)
まずはオープニング「夢で逢いましょう」……NHKテレビ60年代の同名番組テーマ曲で、中村八大の世界への入口として親しまれてきたのですが、その世界へ一瞬にして引き摺り込んでしまう、八木のぶおさんのハーモニカ独奏、スタジオ・ミュージシャンとして知る人ぞ知る、とても人気のある奏者です。夏の「アピア」でのライヴでは女優の児島みゆきさんが聴きに来られていて抱きついてられました。
この曲は18年前に発売された、大友良英プロデュースの『see you in a dream』でも2トラック収録されていて、エンディングでは山本精一さんとの歌唱デュエットが聴けます、バックでは高良久美子さんのマリンバの調べが、とてもいい味を出してました。
今回のアルバム、さがゆきさんの歌唱からは、間 (ま) を生かした、独特のビートを感じます。長らく即興演奏のライヴをされてきて養われた感覚が結晶しているかと。
続けての曲は「ウェディング・ドレス」………番組内の《今月のうた》として取り上げられました、放送では九重佑三子さんが歌唱していますが、実は彼女のシングルB面として発売されていたもので、この放送によって誰もが知る曲となりました。《誰がぁ~、着るん、だろぉ、あの、ウェ~ディング、ドレス》と、何故か歌詞がスラスラと甦り不思議なものです。
《今月のうた》が続きます「芽生えてそして」………放送ではペギー葉山さんが歌っていました。さがゆきさんはいつもと違う感じで、堂々とした歌唱をされていて、聴きものです。それもそのはず、中村八大さん奏でるピアノと共に何度もステージで歌われていた楽曲だとか。
続けての曲は「生きるもののうた」………オリジナルは永六輔さんの歌唱で、ここまでの作詞もすべて六輔さん、八大さんとのコンビは「上を向いて歩こう」を始め、一つの時代を築いた。
このトラックでは、さがゆきさんのコードワークが秀逸。
一転して「風に歌おう」………《今月のうた》では、八大さんの代表曲「黒い花びら」を歌った水原弘さんの歌唱。
さがゆきさんのアレンジが面白く、八木のぶおさんとのデュエット歌唱が聴きものです、ライヴで是非に出逢って欲しいなと、微笑ましいシチュエーションが再現されています《八木のぶおに座布団一枚!》(小室等さんのライナーノーツより)
因みに、座布団一枚でお馴染みのお笑い番組『笑点』のテーマ曲も八大さんの作品。
再び、永六輔さんが歌われた曲から「生きているということは」………しっとりと、さがゆきさん涙声で歌われてます。
と思ったら、次の曲は笑い声まじりで明るく「パラランパン」………《今月のうた》では田辺靖雄さんと梓みちよさんのデュエットでの歌唱。
「そして想い出」………坂本九さんの《手話から音楽が作れないか》という提案によって出来た、九ちゃん裏の人気曲、《誰かと話がしたい、楽しく話がしたい》言葉とは意味ではなく、心を伝えるもの。
さがゆきさんの選曲センスが窺えますよね。
「ねむの木」………アルバム・ジャケットで使われている谷内六郎画伯の作詞。
ジャケットの『青い曲』という作品は横須賀美術館蔵、鯨のピアノを弾いてるのは中村八大さん、とはさがゆきさんの言葉。
「明日があるさ」………いじわる婆さんこと青島幸男先生の作詞、《たった一言、好きですと》さがゆきさんの明るさが溢れ出たトラックかと。
「どこかで」(作詞、永六輔)………《どぉ、こぅ、かぁ、でぇ、あなぁ、たがぁ、生きぃ、てぇ、るぅ》さがゆきさんは、この曲を歌うために産まれてきたんじゃないか、そんな気がずっとしている。心に想いが伝わって来る、巫女の世界へ入られたような、魂の籠った声が聴こえて来る。
このトラックがアルバムの白眉です。
最後は「さよならさよなら」。
《どこかしらに喜ぶ人がいれば、その喜ぶ人のための音楽を、やっぱり一生懸命やっていくというのが、自分の喜びに帰ってくる。………まぁ、そういうふうに考えながらやってきた、と思います。》(中村八大さん、晩年のNHK番組トークより)
大島 彰 (ランダムスケッチ)
1955年京都市出身、横浜市在住。故・羽仁五郎に師事し、歴史・哲学を学ぶ。著作に「一里塚の起源」「もう一歩遠くまでといつも思っていた」他。編集者としては『阿部薫2020 ー 僕の前に誰もいなかった』『阿部薫覚書』『岡村孝子全歌詩』他。ラジオ、テレビ、CD制作、ライナーノーツ、ライヴ・プロデュースなどの仕事も多数。