JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 33,676 回

及川公生の聴きどころチェックNo. 229

#342 『ポール・ラザフォード  豊住芳三郎/The CONSCIENCE』〜Hear, there and evrywhere #7

「及川公生の聴きどころチェック」今月の9枚

No Business Records NBCD 99

ポール・ラザフォード (tb)
SABU豊住芳三郎 (ds)

1.   The Conscience
2.Beer, Beer and Beer
3.Dear Ho Chi Mihn
4.I Miss My Pet Rakkyo
5.Song For Sadamu Hisada

Concert produced by 久田定
Recorded live at Café Jumbo, 愛知県常滑市, 1999年10月11日
Enjineer: Ryuji Enokida
Album produced by Danas Mikallionis &末冨健夫 (Chap Chap Records)

 

トロンボーンの距離感が、楽器の発するサウンドの色彩を豊かにした要因。ライヴ録音を周辺から囲む感覚で録ったことが、効果を高めた。

ドラムのシンバル、ベルをエッジの効いたサウンドに仕掛けた技。キック、タムの重いサウンド。風圧を感じるようなドラムの表現。おそらくワンポイントに近い収録で得られたと思われる。トロンボーンは移動していると想像する。ライヴ空間に二つの楽器と捉えない手法が、音源のエネルギーを大きな円周と捉えたことに繫がる。演奏者のパワーを音量以外で感じられる音像の展開が面白い。

 

Hear, there and everywhere #7
text: Kenny Inaoka 稲岡邦彌

リトアニア唯一のジャズ・レーベル NoBusiness Recordsから“ChapChap(ちゃぷちゃぷ)シリーズがスタートした。今回の第一回発売、『ポール・ラザフォード+豊住芳三郎/Conscience』(本来は、豊住のデュオ・シリーズの一環にポールが参加したので、正確には、ポール・ラザフォード meets 豊住芳三郎なのだが)、『沖至 井野信義 崔善培/紙ふうせん』を皮切りに、2年間にわたって10作品がリリースされる。ちなみに、発売が決定している第2回は、佐藤允彦(p)、高田みどり(perc)、姜泰煥(as) のトリオによる Ton Klami。

このシリーズは、2015年7月1日に日本のユニバーサル・ミュージックで販売がスタートしたものの、第一回5タイトルのLP/CDリリース(姜泰煥ソロ、エヴァン・パーカー+吉沢元治デュオ、ハン・ベニンク+豊住芳三郎デュオ、崔善培カルテット、高木元輝ソロ)を持って突然座礁した「埋蔵音源発掘シリーズ〜Free Jazz Japan in Zepp ちゃぷちゃぷ 」を継ぐものである。座礁したちゃぷちゃぷ丸を離礁、曳航して修理の上、再就航に手を貸したのがリトアニアのジャズ・レーベルとは、第2次大戦中に独自の判断でビザを緊急発給、6000人のユダヤ人の生命を救ったと言われる在リトアニアの領事・杉原千畝との因縁を思わざるを得ない。

このシリーズの音源は、90年代に山口県防府市でジャズ・カフェ「Café Amores」を経営していた末冨健夫が自店に招聘したインプロ系のミュージシャンの演奏を収録していたものだが、第一回発売の1点『ポール・ラザフォード+豊住芳三郎/Conscience』だけは、豊住芳三郎デュオ・シリーズを主催していた愛知県常滑市在住の久田定所有の音源である。豊住の強い要望によりシリーズに加えられることになった。ここで特筆すべきは、末冨健夫、久田定のいずれもがプロのプロモーターではなく、言ってみれば趣味が高じて深みにはまり込んだ、という事実である。末冨の場合は毎回集客がままならず、コレクションのレコードを売却してギャラに充てていたと言い、久田の場合は陶工を始め常滑に住むアーティストにインスピレーションを得させるために豊住のライヴ・シリーズを企画し、毎回の赤字分はボーナスの一部で補填していたと言う。欧米の場合は行政の助成で多くのコンサートやレコーディングが成立しているが、日本の場合はこのようにまったくの個人の身銭で先端のアートが成立しているケースが少くないのである。
このシリーズを通して、埋蔵されていた音源が No Business Recordsという、インプロ系では世界的に市民権を得ているレーベルから陽の目を見ることにより、極く限られた日本の一部のファンの脳裏にのみ刻まれていたミュージシャンの優れた成果が300人とはいえ(300枚の限定生産)世界に分散する然るべきファンの耳に届くことを通じて末冨健夫と久田定及び関係者の労苦が報われることを心から喜びたい。(本誌編集長)

及川公生

及川公生 Kimio Oikawa 1936年福岡県生まれ。FM東海(現 東京FM)技術部を経て独立。大阪万国博・鉄鋼館の音響技術や世界歌謡祭、ねむ・ジャズ・イン等のSRを担当。1976年以降ジャズ録音に専念し現在に至る。2003年度日本音響家協会賞受賞。東京芸術大学、洗足学園音楽大学非常勤講師を経て、現在、音響芸術専門学校非常勤講師。AES会員。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください