JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 54,955 回

Concerts/Live Shows特集『Bird 100: チャーリー・パーカー』No. 249

#1049 Charlie Parker Jazz Festival 2018 from August 22 to 26 in NYC. Vol. 3

text & photo by Takehiko Tokiwa 常盤武彦

8月22日から始まったチャーリー・パーカー・ジャズ・フェスティヴァルも、いよいよ最終日を迎えた。2018年は6つのイヴェントと10本の無料コンサートという、ローカル・フェスティヴァルでは大きな成果を収めている。舞台はハーレムのマーカス・ガーヴェイ・パークから、イースト・ヴィレッジのトンプキンス・スクェア・パークへと移る。同公園の東側の2ブロックは、チャーリー・パーカー・プレイスと命名され、北側のブロックの中ほどに、NY市のLandmark指定プレートが埋め込まれた、チャーリー・パーカー(αs)が1950年代に暮らしていたアパートがある。クリント・イーストウッド監督によるチャーリー・パーカーの伝記映画「バード」でも、ツアーで不在中に愛娘を病で失い、トンプキンス・スクエア・パークで悲嘆にくれるパーカーの姿が描かれている。1993年にチャーリー・パーカー・ジャズ・フェスティヴァルが始まった公園でもある。当時は第一次湾岸戦争下の不況でホームレスのテント村が立ち並んでいたが、ルドルフ・ジュリアーニが市長に就任すると強権的にテント村を排除、深夜0時以降、公園の立ち入りを禁じ暴動騒ぎとなったが、アメリカの景気が90年代後半のITバブルで上向くと、いつしか市民の憩いの場の姿を取り戻した。

この日の一番手は、ヴァイブラフォンのライジング・スター、ジョエル・ロス、チコ・オファリル(tp)、アルトゥーロ・オファリル(p)が築いたラテン・ジャズの名家、オファリル一族の3代目のアダム・オファリル(tp)、イマニュエル・ウィルキンス(as)の若手をフロントに、そしてラテン・ジャズのビッグ・ネーム、ロマン・ディアス(per)が、リズムの要を務めている。ディアスはヴォーカルも執り、ラテン・フレーヴァーを隠し味に醸し出す。このグループ”unheard”は、今年のチャーリー・パーカー・ジャズ・フェスティヴァルと、ジョイス&ジョージ・ウェイン(ニューポート・ジャズ・フェスティヴァルのファウンダー)・ファウンデーションの資金提供で、ニューヨークの若手の登竜門的ヴェニュー、ジャズ・ギャラリーがセレクトしたワールド・プレミア・バンドである。ニューヨークならではのフレッシュなコンテンポラリー・ジャズで、スタートを切った。

 

スライドショーには JavaScript が必要です。

そして大ヴェテランが登場した。シカゴのAACMに1966年に参加し、レスター・ボウイ(tp)のクインテットや、チャーリー・ヘイデン(b)のリベレーション・ミュージック・オーケストラのメンバーを歴任したアミナ・クローディーン・マイヤーズ(p,org,vo)だ。アヴァンギャルドから自らのルーツのゴスペルに立ち還り、この日はオルガンを弾きながらディープなヴォイスで歌う。ジェローム・ハリスは、ギターとベースを持ち替え、オルガン・トリオのグルーヴにヴァリエーションをもたらした。日曜の午後のトンプキンス・スクエア・パークが、ファンキーに、また厳かにゴスペル・チャーチの空気に包まれた。

スライドショーには JavaScript が必要です。

 

続いてステージに上がったのは、ザ・バッド・プラス。2000年に結成、2003年のメジャー・デビュー当時には、史上最爆音ピアノ・トリオのキャッチ・フレーズが付けられ、ニルヴァーナやブロンディの大胆な換骨奪胎カヴァーで、シーンを震撼させたバンドだ。その後も次々と問題作を発表、常に注目を集めているグループだが、2017年末にバンドの頭脳的存在だったイーサン・アイヴァーソン(p)が脱退した。そしてフィラデルフィア出身で、自らのグループやキャプテン・ブラック・ビッグバンドを率いるオリン・エヴァンス(p)が加わる。エヴァンスも、独自の世界観を持ったアーティストだが、リード・アンダーソン(b)、デイヴィッド・キング(ds)の百戦錬磨のグルーヴに乗って、このトリオにブルース色豊かな新たな化学反応を巻き起こした。ザ・バッド・プラスの新たなチャプターに、期待が高まる。

スライドショーには JavaScript が必要です。

いよいよ大団円。ゲイリー・バーツ(as,ss)が金曜の夜に続いて、今回は自己のクァルテットを率いて現れる。チャーリー・パーカーに捧げて”オーニソロジー”をプレイ、まさに”Bird is alive”な瞬間だった。ドラムスには、同世代で70年代にはチック・コリア(p,kb)のリターン・トゥ・フォーエヴァーらジャズ・ロックのビートを支えたレニー・ホワイトが座り、軽やかにスウィングした。ビバップ、ブルースを基調にしたプレイで、バーツは渋いヴォーカルも披露、会場は大喝采に包まれる。”Jazz is New York City’s music”と、バーツが高らかに宣言してフェスティヴァルは幕を閉じた。チャーリー・パーカーのスピリットは、現代に脈々と受け継がれている。

スライドショーには JavaScript が必要です。

【関連リンク】

Charlie Parker Jazz Festival

#1047   Charlie Parker Jazz Festival 2018 from August 22 to 26 in NYC. Vol.1

#1048   Charlie Parker Jazz Festival 2018 from August 22 to 26 in NYC. Vol. 2

常盤武彦

常盤武彦 Takehiko Tokiwa 1965年横浜市出身。慶應義塾大学を経て、1988年渡米。ニューヨーク大学ティッシュ・スクール・オブ・ジ・アート(芸術学部)フォトグラフィ専攻に留学。同校卒業後、ニューヨークを拠点に、音楽を中心とした、撮影、執筆活動を展開し、現在に至る。著書に、『ジャズでめぐるニューヨーク』(角川oneテーマ21、2006)、『ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ』(産業編集センター、2010)がある。2017年4月、29年のニューヨーク生活を終えて帰国。翌年2010年以降の目撃してきたニューヨーク・ジャズ・シーンの変遷をまとめた『New York Jazz Update』(小学館、2018)を上梓。現在横浜在住。デトロイト・ジャズ・フェスティヴァルと日本のジャズ・フェスティヴァルの交流プロジェクトに携わり、オフィシャル・フォトグラファーとして毎年8月下旬から9月初旬にかけて渡米し、最新のアメリカのジャズ・シーンを引き続き追っている。Official Website : https://tokiwaphoto.com/

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください