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Jazz and Far Beyond

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Concerts/Live ShowsNo. 311

#1291 EXPLOSION GIG vol.2

Text and photos by Akira Saito 齊藤聡

2024年2月9日(金) 高円寺ShowBoat

Jun Morita 森田潤 (electronics)

Gunjogacrayon グンジョーガクレヨン:
Atsushi Miyakawa 宮川篤志 (drums)
Tadashi Kumihara 組原正 (guitar)
Takashi Maeda 前田隆 (bass)
Kanji Nakao 中尾勘二 (sax)

Cannonball Explosion Ensemble 砲弾爆発合奏団:
Teruhito Yamazawa 山澤輝人 (sax, flute)
Takeshi Goda 剛田武 (violin, flute)
Louis Inage ルイス稲毛 (bass)
Teruhisa Nambu 南部輝久 (drums)

ギグは森田潤のモジュラーシンセで幕を開けた。はじめは轟音にたじろいでしまうが、すぐにこちらの脳がなんらかの信号を発したように、場と一体化する愉悦を感じさせられる。おそらくは、獰猛なノイズの数々を飼いならすかのような森田のスタイリッシュな立ち居振る舞いを目の当たりにしたからだ。危険と愉悦とが共存する音空間の出現である。

グンジョーガクレヨンは1979年結成だというからもはや半世紀に近い歴史をもつ。この日のメンバーは、結成時からの宮川篤志、前田隆、組原正に加え、ナチュラルボーン・ミュージシャン中尾勘二の4人。中尾がグループに参加した翌年の2016年、筆者はグンジョーガクレヨンのライヴを観た。やはり異能のサックス奏者・橋本孝之も参加していたが、それでも中尾の特異点ぶりはおどろくべきものだった。かれの音は時空間をあまりにもナチュラルに歪めるものであり、この日も、ステージの端で淡々と吹いているだけにも関わらず、その音はずっとこちらの鼓膜をそうと気づかせ続けた。

そして特筆すべきは、ギターの組原正がしばしの休養を経てライヴシーンに戻ってきたことだ(正確にいえば昨年に続き2回目)。かれは衝動を音に変換するプロセスを隠し切れないようで身体を小刻みに動かし、演奏に立ち会うことの悦びを感じさせてくれる。言うまでもなく、ロックやジャズのイディオムに依拠するなまぬるさはまったくない。それは前田のベースも宮川のドラムスもそうなのだ。結果として、ビートやノリによって駆動されるものではなく、アメーバの多体問題としてのサウンドがあらわれた。これを経験知などというとつまらなくなってしまう。

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Cannonball Explosion Ensembleは、当初、キカンジュ・バク(ドラムス)の来日公演を機に結成されたグループである。その来日が諸事情あって中止となり、ドラマーとして南部輝久が加わった。その名前からしても、サックスのペーター・ブロッツマンらがヨーロッパ・フリーにおいて歴史を刻んだ『Machine Gun』の衝撃のことも意識にあるだろう。もちろん演者たちの個性に大きく依拠するサウンドであり、その質はまったく異なる。

グループが仮に爆発力を志向するものだとして、演者による表現のスタンスはそれぞれ異なる。山澤輝人は、後先考えずその時に持つエネルギーをサックスに吹き込むこと自体に価値を見出しているようにみえる。したがってそのブロウのあらあらしさは「見たまんま」、そうでなければ砲弾たりえない。ルイス稲毛は、エーテルの流れを見極めて悠然と銃を構え、どどどどどと撃ちまくる。かれらのど迫力を背後からにらむように観察し、大きなうねりを生み出そうとするのが南部輝久の役割である。そして剛田武はトリックスター的というのか、ヴァイオリンやフルートを脇においてもゲリラのようにあちこちに出没し、擾乱を起こしてみせる。この日の演奏を振り返ってみると、いちどいちどのステージ上で各々の美意識を爆発させることがグループの魅力であるということができる。

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(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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