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No. 215Concerts/Live Shows

#871 そのようにきこえるなにものか Things to Hear – Just As

2015年12月13日 KS-LOFT
Reported by Makoto Ando 安藤誠
Photo by Masabumi Kimura 木村雅章

Akaihirume 赤い日ル女 – voice
Carl Stone – electronics
Marcos Fernandes – percussion
Akiko Nakayama 中山晃子 – alive painting


赤い日ル女が仕掛けた、音と光の迷宮

赤い日ル女は、異才サウンドクリエイターTommyTommyとの双頭ユニット・あうんで活動するヴォイス&エレクトロニクス奏者。シガー・ロスに代表される90~ゼロ年代以降のエレクトロニカ/アンビエント/ポストロックに加え、ケイト・ブッシュやコクトー・ツインズ、ヴァージニア・アストレイetcの80’sシーンをも想起させるその歌声とサウンドは、伸びやかな中にもミスティックな趣を湛え、うつしみと来世の橋渡しをするかのような世界観を描き出す独特のものだ。
そんな彼女が強力な3つの個性とともに仕掛けた「そのようにきこえるなにものか」と題する一夜限りのライヴイベントの舞台となったのは、都内某所にあるKS-LOFT。古い一軒家をリノベーションし、茶室を思わせるようなミニマルな意匠で統一された邸内は、「情報デザイン」という概念がまだ一般的でなかった90年代から一貫してその分野に取り組んできたKS-LOFTオーナーの思想をそのまま体現しているかのようで興味深い。
パフォーマンスの会場は3階。大きな空間は梁や天井がむき出しとなり、スピーカーやシンバルが吊るされている。部屋の中央に陣取るのは、インクの流動性を活かした独自の手法アライヴ・ペインティングで内外からの注目を集めるアーティスト・中山晃子。後方には、言わずと知れたコンピューター音楽の巨匠カール・ストーンが控える。その周りを取り巻くように床の上に置かれ、また天井から吊るされているのは、横浜を拠点に活動するドラマー&パーカッショニスト、マルコス・フェルナンデスのメタルパーカッションだ。赤い日ル女は聴衆の意表を突くかのように、梁と梁の間に渡された板の上にポジションを取る。聴き手からはその姿は見えず、声だけが天井から降り注いでくるという趣向だ。
階下から鐘の音とともにマルコスが姿を現し、パフォーマンス開始。日ル女のヴォイスにストーンがリアルタイム・サンプリングを施し、所々ガムラン的な反復/ドローン効果を醸し出すマルコスのパーカッションが被さる。絵画のインプロヴァイザー中山晃子の紡ぎだす描像は、時にフラクタルな境界線を持った図形を表出するのだが、その場で生成される音楽そのものも同じような効果–アブストラクトな展開の中に現れるある種の規則性–が垣間見られるのも面白い。特筆すべきはサウンドクオリティの素晴らしさ。ストーンが練りに練って配置したというスピーカーシステムからは、波打つように続く音の肌触りまで伝わってくる。生演奏を想定しない民家の一室という環境で(しかも数十名のオーディエンスを収容した中で)これだけの肌理の細かなサウンドを現出させているのは驚きの一言。日ル女のヴォイスに導かれ、行き着く先が見えない迷宮をさまようかのような光と音のトリップを堪能した1時間あまりだった。

安藤誠

あんどう・まこと 街を回遊しながらダンスと音楽の即興セッションを楽しむイベント『LAND FES』ディレクター。

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