#881 ECMⓐWinter JazzFest (前編)
2016.1.15 18:00-
Tishman Auditorium, The New School of Jazz and Contemporary Music (63 5th Ave, New York)
Text by Hideo Kanno 神野秀雄
Photo by Tak Takehiko Tokiwa 常盤武彦 & Hideo Kanno 神野秀雄(クレジット表記のあるもの)
2016.1.15 18:00-
18:00 David Torn solo (g)
19:00 Mark Turner Quartet
Mark Turner(ts) Avishai Cohen(tp) Joe Martin(b) Marcus Guilmore(ds)
21:00 Avishai Cohen Quartet
Avishai Cohen(tp) Jason Lindner(p) Tal Maschiac(b) Nasheet Waits (ds)
22:00 Ches Smith / Craig Taborn / Mat Maneri
Ches Smith(ds,vib,perc) Craig Taborn(p) Mat Maneri(viola)
11:20pm Vijay Iyer Trio
Vijay Iyer(p) Stephan Crump(b) Marcus Gilmore(ds)
24:40 David Virelles Mboko
David Virelles(p) Roman Diaz(perc) Matt Brewer(b) Eric McPherson(ds)
ⓒHideo Kanno
2016.1.16 18:00- (次回掲載予定)
18:00 Michael Formanek Ensemble Kolossus
19:20 Theo Bleckmann Elegy
20:40 Chris Potter Quartet
22:00 Tim Berne’s Sideshow
23:20 Ralph Alessi Quartet
24:40 Ethan Iverson / Mark Turner
年明けのニューヨーク、グリニッチ・ヴィレッジ界隈で開催されるジャズ・フェスティバル「ウインター・ジャズフェスト」は、2005年に19グループが参加する1晩のイベントとして始まった。12回目となる2016年は金土曜日の2晩を中心に、計5日間、10会場で120グループ以上、600以上のミュージシャンが参加して開催された。現代ジャズシーンを牽引するニューヨーク在住のミュージシャンが一同に会し、世界からのミュージシャンとともに熱い演奏を繰り広げる。ジャズフェスと言うと、巨匠やフュージョンのスターの出演が欠かせない感はあるが、このジャズフェスでは、現在進行形のジャズによりフォーカスが置かれ、エンターテインメントである以前にミュージシャン自身が演奏したいパフォーマンスを仲間と楽しんでいる感が強い。クリス・ポッター、ロイ・ハーグローヴ、マーク・ジュリアナ、シャイ・マエストロ、ロバート・グラスパーなどが各会場で演奏する中を、チケットを買うと全会場見放題で回ることができる。横濱ジャズプロムナードをイメージしてもらえばよいが、2日間で75ドルという驚異のコストパフォーマンス。公式ウェブサイトからスケジュールを見てもらえば、それだけで現代ニューヨーク・ジャズシーンの総カタログであることがお分かりいただけるだろう。日本から行っても元が取れるくらいだし、その空気感を直接感じ取れる魅力は大きい。
それだけに、昨年までは各ハコが小さいのに、人気ミュージシャン揃いのため、各会場が大混雑で入れなかったことも多かったという。今年は、The New School of Jazz and Contemporary Music(ニュースクール大学と略)が会場のいくつかを提供したことで余裕ができた。ニュースクール大学は、早い時期からジャズ教育を行っては来たが、特に近年、ブラッド・メルドー、ロバート・グラスパー、アヴィシャイ・コーエン、黒田卓也など、現代ジャズシーンを牽引し強い影響力を持つ人材を輩出する注目の大学だ。ボストンに比べても、強力な講師陣をそろえながら、新しい音楽が生まれる現場であるニューヨークに存在することはアドバンテージであり、まさに今回の協賛は強力な広報活動につながることは間違いない。
ニュースクール大学が提供する最大のホール、ティシュマンズ・オーディトリアムで2016年に開催されたのが「ECMⓐWinter JazzFest」だ。2晩にわたって13グループが約45分ずつ出演。進化を続けるニューヨークのジャズシーンにあって、ECMが注目しアルバムを制作したグループたちの贅沢過ぎるショーケースだった。
ECMの創設者、オーナーであり、プロデューサーのマンフレート・アイヒャーもほぼ全公演に臨み、終始笑顔を見せていた。関連リンクの中に、ECMによるこのイベントの予告ビデオ「Manfred Eicher on ECM, America and Winter JazzFest」と1月16日の記録ビデオがあり、マンフレートのコメントも含めてぜひご覧いただきたい。
マンフレートが70歳を超え、1969年以来45年以上に亘って、独自の音楽とサウンドを切り拓き、ニューシリーズでクラシックから“現代音楽”まで拡張する中で、ECMの根源があくまでもジャズにあり、アメリカにあり、とくにニューヨークのジャズシーンのエネルギーを吸収してきたことを振り返る。「今、ニューヨークにはミュージシャンの新しい世代が育ち、私の関心を強く惹きつけています。またアメリカに来て、ウインター・ジャズフェストでそのミュージシャンたちによるエキサイティングなプログラムを見られることをとても嬉しく思います。それは、ECMの長年にわたる、アメリカ、とくにニューヨークとの結びつきを示すことになるでしょう。」
耽美的、ヨーロッパ的と思われたECMサウンドだが、マンフレートはその根源には、オーネット・コールマン、アルバート・アイラー、ドン・チェリー、ゲイリー・ピーコックらがフリーなジャズで、ニューヨークで見せたエネルギーがあることを強調する。「1960年代にアメリカを訪れ、オーネット・コールマンやポール・ブレイを聴いた。それ以前にスコット・ラファロ、ポール・モチアンとのビル・エヴァンス・トリオにずっと関心を持ってきた。」その先に、キース・ジャレット、チック・コリアらとの出会いがあった。他方、マンフレートはイギリス、ノルウェーを含め多様な国々のジャズにも影響を受けたと付け加えることを忘れない。
ティシュマンズ・オーディトリアムで聴かれた音楽は、ECMが生み出した音楽、スタイルであるというよりは、マンフレートという天才キュレーターが注目した「ニューヨークの音楽素材」を披露したという美術館的イメージがあった。実際、そのいくつかはECMでなくても、歩みを止めないブルーノートや他のレーベルからリリースされてもおかしくないし、その間はシームレスなものだ。その意味で1970年代、80年代のECMを知るファンには戸惑いがあるし、正直ついて行けない向きも多いだろう。
それでも、表面的なグルーヴや構成に注目するよりは、音色、ハーモニー、音響的に魅力ある素材を選んでいる点はまさにECMであり、それらを最高の音響で記録するということへの熱意を感じる。それは、アンドラーフ・シフ、児玉桃らの究極のピアノを記録すること、中東から東欧、地中海方面の音楽とその拡張の中にヨーロッパ音楽、キリスト教音楽の根源を探り記憶することと一貫している。マンフレートの全くぶれない、かつフレキシブルな感性には頭が下がる。3年前に会ったときよりもむしろ若返って見えるくらいで、その意欲は心身ともに衰えないようだ。その現在進行形のECMの温度、そしてニューヨークの今とのつながりを見せた魅力的なコンサートだった。次号では2日目の様子をお届けしたい。
【関連リンク】
Winter JazzFest 2016
http://www.winterjazzfest.com
Manfred Eicher on ECM, America and Winter JazzFest (ECM Records 公式YouTube)
https://youtu.be/ufBrh5URwNs
ECM @ NYC Winter Jazzfest (ECM Records 公式YouTube)
https://youtu.be/nsAwmNpaADY
ECM Records
https://www.ecmrecords.com/
Shai Maestro official website
http://shaimaestro.com/
【JT関連リンク】
ECM – A Cultural Archaeology (Munchen, 2013)
http://archive.jazztokyo.org/live_report/report506ex.html
「ECM: 沈黙の次に美しい音」展(ソウル、2013)
http://archive.jazztokyo.org/live_report/report574.html
第14回 東京ジャズ・フェスティバル 2015
http://archive.jazztokyo.org/live_report/report846.html
マーク・ジュリアナ・ジャズ・カルテット 2016
http://archive.jazztokyo.org/live_report/report874.html