#886 白石雪妃×類家心平DUO
2016年4月3日(日) KAKULULU
Report and photos by 齊藤聡 Akira Saito
白石雪妃 (書)
類家心平 (trumpet)
類家心平のバンド「RS5pb」(Ruike Shinpei 5 piece band)によるニューアルバム『UNDA』のジャケットには、書家・白石雪妃の作品が使われている。文字でありながら文字ならぬ形象のようでもあり、既に書かれた作品でありながらそれが書かれる過程が想像できるものでもあった。
同アルバムのライナーノートにおいて、類家心平は、ビル・エヴァンスがマイルス・デイヴィスの傑作『Kind of Blue』への参加後に寄せた言葉を引用している。エヴァンスによれば、モード・ジャズと水墨画には共通するものがあるという。サウンドの雰囲気を決めてしまうコード変化というルールを削ぎ落として、サウンドの展開が演奏者の自由に大きく委ねられた、モード・ジャズ。紙に対して墨と水だけによる微妙な表現を可能とした、水墨画。表現者にとっては、自由と引き換えに、その力量が露わになってしまうフォーマットなのかもしれない。
今回、東池袋のギャラリー「KAKULULU」において、『UNDA』に採用された書を含め、それが生み出されるまでの他の作品の多数が展示された。1枚の作品を凝視しても想像しうる創生プロセスが、変奏曲のように多層的に迫りくるものだった。
そして、それらの作品群の前で、書家と音楽家とがデュオを行った。リアルタイムでのプロセスというわけである。過去にペインティングとジャズとの共演は少なくなかったが、書とジャズというコラボレーションは珍しいのではないか。
白石雪妃は、黒い紙の上に、2種類の濃さの黒と金色で、形とも文字とも判別しがたいものを即興で書いてゆく。さらに、2回目のセッションでは、類家心平がエフェクターから発するヴェルレーヌやランボーの詩の朗読とともに、床の上に広げた巨大な白い紙の上に墨を垂らすドリッピングさえも披露した。そのスピードやバランス感覚には目を奪われるものがあった。
一方、類家心平は、エフェクターを操りながら、陰りや、揺らぎや、蠢きといったものどもを、トランペットから這い出させていった。この魅力的な音色は、たしかに、書にも通じるものかもしれなかった。
(文中敬称略)