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Concerts/Live ShowsNo. 219

#900 Dave Liebman & Richie Beirach Duo

2016年5月12日20:30 ビムハウス アムステルダム

photo & text by Atsuko Kohashi  小橋敦子

デイヴ・リーブマン(tenor & soprano sax)
リッチー・バイラーク(piano)

Set list
1-Siciliana-Bach
2-Pendulum-Beirach
3-Aspire-Wheeler
4-Paraphenelia-Shorter
5-Redial-Liebman
7-Master of the Obvious-Liebman
8-Napanoch-Liebman

Encore
Footprints
Lonely Woman


60年代後半から演奏を共にして、共演歴はすでに半世紀も経つというデイブ・リーブマンとリッチー・バイラーク。彼らのデュオ演奏をヨーロッパ随一との評判のオランダ、アムステルダムのジャズ・ハウス、Bimhuis(即興音楽の場の意味)で聞いた。

この夜の演奏は格別だった。

にこやかな笑顔で二人がステージに現れる。バイラークの巨体の横に並んでとても華奢に見えるリーブマン。最初の曲目が伝えられる―「バッハのシシリアーノ」。バイラークの太い指がピアノの鍵盤に触れた瞬間、聴衆はその響きに息を飲んだ。巨体から醸し出されるピアノの音は、まるでピアノ線の震えが見えるかの如く繊細だ。一瞬にして場内が静まり返る。美しい音色に酔っていると、今度は突然、重厚なコードの響きに驚かされる。ピアニッシモからフォルテッシモへのダイナミックス操作の巧みさには目を見張らされる。ピアノの音の美しさは、今までこのビムハウスで聴いた中でも最高の部類だ。

バイラークのイントロに続いてリーブマンのテナーサックスが独特の音色でテーマを奏でる。演奏はバッハの名曲を土台にしているが、即興性をフルに生かした自由奔放なアプローチで、それはジャズとクラシックの融合ではなく、100 パーセントジャズだ。二人の質の高いスムーズなダイアローグは聞く側の集中力を高め、聴衆をぐいぐい引き込んで飽きさせることがない。多分、このデュオの本質はひたすらに自分たちの好きなメロディーを口ずさみたい、それも自分の声でというものだろう。それが、リハーモナイズに繋がり、さらなるインプロヴィゼーションを生み出す。バイラーク、リーブマン共に大学やワークショップで後進の指導にあたっているせいか、知的で学究肌的なイメージがあるが、二人の演奏には意図的、学術的なところは微塵もなく、音楽の流れが自然で聞き手に難しさを感じさせるところがない。

それにしても彼らのステージ上でのサウンド・コントロールは見事だ。会場のアンビエンスを十分に生かし、聞く側に心地よい音を届け続ける。決してステージ上から客席に対して一方的に放り出すものではない。聴衆との一体感のある音、といったらよいだろうか。ピアニッシモの美しさ、フォルテッシモの力強さは格別で、全て彼らの耳によってコントロールされ、即興演奏の中でのメロディーやリズムの瞬時の変化にも即座に対応できる。特にバイラークはフットペダルを巧みに操作しながら、会場独特の自然な響きをつくり出している。こういった「音」への最大限への配慮が、クラシック音楽的で洗練されたジャズと評される所以だろう。だが、彼らの音楽はもっと骨太だ。静かな調べの後に続くリズミカルなパートでは、粘ったようなリズム感覚とブルージーなフィーリングが溢れている。とりすまして気取ったような「ユーロジャズ」とは一味違う本場アメリカン・ジャズの本質が見えてくる。彼らの音楽を支えてきたルーツがそこにある。

1946年生まれのリーブマンと47年生まれのバイラークは共にニューヨーク生まれ、ニューヨーク育ちの同郷、同世代。二人ともレニー・トリスターの指導を受けた経験を持つ。60年代後半から共演を重ねてきた二人だが、70年代にはリーブマンがマイルス・デイヴィスのグループ、バイラークはスタン・ゲッツ、チェット・ベイカーのバンドでと、それぞれ異なるグループで活動している。その後、80年代にリーブマンのバンドQuestで再び共演するが、そんな彼らのバックグラウンドが演奏から感じとれる。

選曲のセンスもよく、聞き手を飽きさせることがない。バッハの後は二人のオリジナルに加え、ケニー・ホイーラー、ウェイン・ショーターの曲を交え、リズム・セクションを排した最小・限のユニットで、空間をフルに生かした自由なアプローチでデュオ独特の世界を楽しませてくれる。お馴染みの曲もまったく違った味付けにされる。Paraphenelia(ショーター作)がそのよい例だろう。Ron McClure 、 Billy HartとのバンドQuestでも二人はこの曲を取り上げているが、不思議なほどに今回のデュオではリーブマンのより明確なメッセージが伝わってくる。アンコールはさらに好調だ。Footprintsではアップテンポでのバイラークのダイナミックなリズムに乗ってリーブマンのソロがひときわ冴える。自由自在なリズム展開とダイナミックスの巧みさはビッグバンドにも引けを取らない。一曲目のアンコールの後、大きな拍手に迎えられて再びステージに現れた二人の嬉しそうな笑顔が印象的。「ありがとう、ありがとう」と観客の声援に謙虚に応えてリーブマンが二曲目のアンコールを伝える――「オーネット・コールマンのロンリー・ウーマン」。手のひらに収まるほど小さな縦笛によるリーブマンの驚くべきプレイはこの夜のベストだろう。シンプルなメロディーだけに、縦笛のピュアな音色が素直に聞く人の心に浸透していく。休憩なしのワン・ステージコンサートは凝縮された内容の濃いものとなった。(2016年6月  小橋敦子 在アムステルダム)

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小橋敦子

小橋敦子 Atsuko Kohashi 慶大卒。ジャズ・ピアニスト。翻訳家。エッセイスト。在アムステルダム。 最新作は『Crescent』(Jazz in Motion records)。 http://www.atzkokohashi.com/

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