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Concerts/Live ShowsNo. 318

#1327 “Alone Together” 纐纈雅代 山崎比呂志~阿部薫メモリアル・ライヴ

2024-09-09(Mon)
Start : 07:30 PM
渋谷・公演通りクラシックス

纐纈雅代 (alto-sax, soprano-sax, effectors)
山崎比呂志 (ds. percussion)

text: 齊藤安則
photo: 齊藤安則 (cover) / Kenny Inaoka (slide show)


久しぶりにライヴに出かけた。阿部薫メモリアル・ライヴ、纐纈雅代と山崎比呂志のデュオだ。阿部は僕が上京した年、1978年に亡くなってしまった。そのことを知った時の衝撃は今でも鮮明に覚えている。それまで『なしくずしの死』という一枚のアルバムが、僕にとって唯一の彼との接点だった。のちに発売となった、彼が高柳昌行と共に行った伝説の即興『解体的交感』も、忘れがたい作品だ。そんな彼への追悼ということもあって、このデュオに興味を引かれた。

纐纈雅代は、僕の世代からすると新しい時代の音楽家だ。モダンジャズからインプロヴィゼーション、ポピュラー音楽まで、幅広いジャンルに通じている世代。その多彩な引き出しが、演奏の中で自在に使い分けられていた。一方の山崎比呂志は1969年に阿部とデュオを組んだベテランだが、過去の自分に寄りかかることなく、今の自分の感覚で挑んでいる。阿部との共演者は決して多くなかったが、山崎はその貴重な共演者の一人であり、現在も活躍し続ける、数少ない共演者の一人だ。年齢差のある両者が織り成す対話は、とても新鮮だった。

演奏は、静かな入りから徐々に緊張感を高め、やがて怒涛の展開に。纐纈のサックスは、時に鋭く、時に柔らかく、音色を自由に操りながらフレーズを紡いでいく。阿部薫へのオマージュも感じられるが、彼の音を模倣するのではなく、纐纈自身のアプローチでそれを消化していた。山崎のドラムは、そのサックスに寄り添いつつもリズムを崩すように応じ、緊張と緩和の絶妙なバランスを生み出していた。二人の間には、ただ音を重ねるだけではなく、深い呼応が感じられ、「退屈な即興」とは一線を画していた。

第二部でも、二人のやりとりは進化していった。纐纈の演奏は、一つのテーマに執着せず、瞬間瞬間で新たなアイディアを提示していく。山崎は彼女の提案に対して即座に応じつつ、自らのドラミングでさらなる可能性を広げていく。。

演奏が終わった時、僕はこれが阿部薫のメモリアルだということを忘れていた。纐纈と山崎が織りなす音の対話は、過去への敬意を持ちながらも、完全に今を生きたものであり、即興音楽の枠組みを超えた新しい表現だった。ジャズや無調の即興が一つの「型」になりつつある今、このデュオはその型を壊し、新たな突破口を提示してくれたるのかもしれない。

僕は、普段ライブに足を運ぶことは少なく、現代のフリージャズや即興演奏に対してはどこか懐疑的な部分もあった。しかし、この夜のライブは違った。時間の流れがまるで消えてしまったかのようだった。気づけば、30分が過ぎたのか1時間が経ったのかすらわからなかった。

ライヴが終わったあとも、その余韻はしばらく私の中に残り続けた。 素晴らしいライヴだった。

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齊藤 安則 1983年、株式会社バード電子設立。電子機器の設計・製造メーカー経営。1989年より高柳昌行の全ステージの録音とビデオ収録。高柳専門レーベル「JINYA DISC」発足。現在、高柳昌行の諸作物の管理を行う。最新作は、大友良英の協力で実現したコンプリート盤『プロジェクション』と、阿部とのステーション70の発掘音源『リアルジャズ』。
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