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Concerts/Live ShowsNo. 318

#1329 ~平和を祈って〜Autumn Concert 2024
天満敦子&寺島夕紗子&末松茂敏トリオコンサート

text & photo by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

近くの稲城市(川崎市に接する東京都の西の外れ)で天満(てんま)敦子さんが演奏するというので楽しみに待った。天満さんはレオニード・コーガン (1924~1982) に師事したという大ベテラン。職業病ともいうべき頚椎損傷で数年間の闘病生活を経ての復帰コンサートだ。ソプラノ歌手の寺島夕紗子(ゆさこ)さんとピアノの末松茂敏さんという藝大大学院の後輩が毎秋開いているコンサートにゲスト参加という形だ。
天満さんのデビューはNHKのヴァイオリン教室の生徒というからそのキャリアの長さは知れるというもの。在学中に日本音楽コンクール1位、ロン=ティボー国際コンクール銀賞などを通じてコアなファンには評価されていたが、一般の音楽ファンにその名が知れ渡ったのは1993年の<望郷のバラード>の大ヒット。ルーマニアの幽囚の作曲家ボルムベスクが獄中から日本人外交官に手渡された楽譜がそれで、その奇跡のストーリーがNHKのドキュメンタリーで放映され、芥川賞作家の高樹のぶ子により小説「百年の預言」に仕立てられた。ボルムベスクの悲劇の心情を反映したメランコリックな短調の旋律が日本の音楽ファンの琴線を震わし、天満さんの名演と相まってCDセールスが10万枚を超えた。僕もロマのヴァイオリニスト グレガー・ヒュープナーとリッチー・バイラークのコンビでジャズ・ヴァージョンを制作、アルバム『ニューヨーク・ラプソディ』に収録した。当時天満さんの制作プロデューサーを担当していたのが中野雄さんというトリオの創業者のご子息で僕の大先輩(先月、94歳で大往生)。

天満さんは杖を使いながら一歩一歩中央に歩を進め、ピアノ椅子に腰をかけてカザルスの<鳥の歌>を演奏。その後、すっくと立ち上がってブロッホと<望郷のバラード>を演奏。全身を使いながらメロディを歌わせる様は安心感を抱かせるが、終演後はヴァイオリンをマネージャーに預け末松さんの手を借りながら杖を使ってゆっくりステージを後にした。もともと気風の良さで知られる天満さんだがファンにとってはまた天満さんを生で聴けるというだけで思いを果たせたのではないだろうか。
この日のもうひとつのハイライトは寺島夕紗子さんの<さとうきび畑>の完唱だった。この歌は夕紗子さんの父親の寺島尚彦の作詞・作曲で11連まであり、完唱すると10分以上を要する。尚彦が1964年、本土復帰前の沖縄をシャンソン歌手の石井好子の伴奏ピアニストとして訪問した際、現地で戦火の惨状について色々見聞、さとうきび畑に立って犠牲者に思いを馳せた作品。2003年、TVドラマ化された際、森山良子が主題歌をとして歌い持ち歌となった。夕紗子さんはリフの「ざわわざわわ」というオノマトペに行き着くまでに2年を要した、これは反戦歌ではなく戦争を悲しむ歌だと語っていたという父親の思い出を枕に11連を素晴らしく伸びのあるソプラノで完唱した。いたずらに感傷に走ることなく父親の誇るべき作品を歌うという強い心持ちがさらに訴えかけてくるものがあった。天満さんのサポートも心強かった。

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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