#1369 [映画] 『教皇選挙』(CONCLAVE) 〜作曲家フォルカー・ベルテルマンとバシェ音響彫刻
Text by Hideo Kanno 神野秀雄
映画『教皇選挙』(CONCLAVE)
監督:エドワード・ベルガー(『西部戦線異状なし』)
脚本:ピーター・ストローハン(『裏切りのサーカス』)
原作:ロバート・ハリス著「CONCLAVE」
作曲:フォルカー・ベルテルマン(『西部戦線異状なし』)
出演:レイフ・ファインズ、スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、イザベラ・ロッセリーニ
2024年|アメリカ・イギリス|英語・ラテン語・イタリア語|カラー|スコープサイズ|120分|
原題:CONCLAVE|字幕翻訳:渡邉貴子|G
公式ウェブサイト
カトリック教徒14億人の頂点に立つ最高指導者の教皇を選出するコンクラーベ(教皇選挙)。その秘密に覆われた選挙戦の内幕を映画化したミステリー映画『教皇選挙』が人気を集める中、フランシスコ教皇が2025年4月21日に死去し、現実が映画を追うことになりさらに注目を集めた。コンクラーベとは、ラテン語で「鍵と共に」の意味で、メディアを排するのはもちろん、携帯電話も取り上げられ、外部からの介入や圧力を徹底的に遮断しシスティーナ礼拝堂で行われる。世界中からローマ・バチカン市国に向かう枢機卿たちが機内映画で『教皇選挙』を観て予習したというエピソードも聴こえきた。現実では2025年5月8日に枢機卿133人が参加したコンクラーベが行われた結果、アメリカ出身のロバート・フランシス・プレボスト枢機卿が選ばれ、レオ14世となった。

© 2024 Conclave Distribution, LLC.『教皇選挙』全国公開中 配給:キノフィルムズ
『ハリー・ポッター』シリーズでヴォルデモート役を務め、映画監督としても活躍するレイフ・ファインズが、コンクラーベの指揮を執ることになった主席枢機卿ローレンスとして主人公を務める。その葛藤と苦悩が軸となり、映像美と研ぎ澄まされた音響とともにストーリーが進行する。音楽を担当したのは、本作と同じエドワード・ベルガー監督による映画『西部戦線異状なし』でアカデミー賞作曲賞を受賞したフォルカー・ベルテルマン。監督とのコラボレーションは5作目となる。1966年、ドイツ・ジュッセルドルフ生まれ、少年時代にクラシックピアノを学び、1992年にヒップホップ・デュオ「God’s Favorite Dog」を結成。1995年にデュオを解消し、ハウシュカ(Hauschka)名義でソロ活動を開始。2004年にハウシュカとして 初のアルバム「Substantial」をリリース。2010年代から映画音楽の作曲を手がけている。
『教皇選挙』では、音楽はミニマムに抑えられ、沈黙や呼吸音が重要な表現となっている。コンクラーベを仕切る大任を任せられたローレンス枢機卿に当てた音楽には、クリスタル・バシェという楽器が用いられている。ベルナールとフランソワのバシェ兄弟が開発した「バシェ音響彫刻」のひとつ。クリスタル・バシェはガラス棒を濡れた手で擦って音を出す。バシェ音響彫刻は、日本では1970年の大阪万博・鉄鋼館のホワイエに展示演奏され、その一部が現存しており、京都市立芸術大学の岡田加津子教授を日本バシェ協会会長に、沢田穣治、渡辺亮らが演奏を続けている。プロダクションノートによると「ローレンスは真実を強く信じているので、彼が真実を探し求めていることを象徴する クリアなメロディにすることをめざした。またクリスタル・バシェは常に遠くから聞こえてくるエコーのようなものにもなっている。」
他方、緊張感を表現する場面では、弦楽器によるスタッカートの旋律を多用する。「弦楽器はサスペンス的要素を高めるため、よりリズミカルな形で使われる。緊張感のある場面では、かなりスタッカートを効かせているんだ」
3月20日日本公開だが、まだ上映館もあり、機内映画としても観る機会があるので、ぜひお勧めしたい。
映画『教皇選挙』予告編
Hauschka: Tiny Desk Concert
映画『西部戦線異状なし』(Im Westen nichts Neues)予告編
Dolby Creator Talks
Volker Bertelmann and the Music of Conclave
