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Concerts/Live ShowsNo. 330

#1387 穐吉敏子カルテット・メモリアル・コンサート

text & photos by Toshio Tsunemi 常見登志夫

2025年9月9日(火)
東京・晴海 第一生命ホール

穐吉敏子カルテット:
穐吉敏子(p) ルー・タバキン(ts,fl) 金森もとい(b) 髙橋信之介(ds)

■Setlist
1st.
①Long Yellow Road ②No Moon At All ③Garden At Life Time(浮月楼 ④Dancing Maja ⑤Love Letters
2nd.
①The Village ②Sakura Princess ③Farewell (to Mingus) ④The Man I Love ⑤Hope~希望
Encore:
⑥Hangin’ Loose


「穐吉敏子カルテット・メモリアル・コンサート」と題しているが、穐吉がピアノを演奏するのは、ステージを通して6割くらい。体力的にも少し難しいのかも。ステージ中盤まではそう思ったのだが…。

ルー・タバキン(ts, fl) トリオ(金森もとい(b)、高橋信之介(ds)の日本全国ツアー(約1か月間)に穐吉敏子(p)が加わるのは、今回の第一生命ホールと、21日(金)の盛岡公演(穐吉敏子 Jazz Museumm)だけである。第一生命ホール公演は全チケットがソールドアウトしている。

コンサートは、いつもの通り〈ロング・イエロー・ロード〉で始まる。日本人のジャズ曲の中でももっともポピュラーな曲だと思う。穐吉のカウントで、ベース、ドラムとのおなじみのイントロが始まる。ピアノのスピードが緩く、ベース、ドラムが合っていないようだ(ホールということもあってか、PAは入っていないようである)。ルーのテナーによるテーマが始まると一気にスピードアップした。ピアノからルーのテナー、ベース、ドラムの順にソロ。再びテナー・ソロが続く。曲の終盤に近付くにつれ、ピアノの音も大きく、バランスが良くなった。演奏は約10分続いた。ものすごい拍手の渦である。秋吉がノー・マイクで「こんばんは」とあいさつ。さらに大きな拍手が沸く。

80歳を過ぎてからも穐吉は、「ピアノが上手くなりたい」と、ピアノの練習を精力的に続けていた。目の前の彼女は95歳(今年の12月で96歳となる)。カルテットでの演奏は、その穐吉のピアノの音が弱い。

ルーが「プログラム・チェンジ!」と叫び、ルーがステージを降りた。スインギーな〈ノー・ムーン・アットオール〉はピアノ・トリオによるナンバーで、穐吉が全編を弾き通した。嵐のようなものすごい拍手である。素晴らしいベース・ソロを披露した金森は今回が初共演。「野球の世界と同じように、歴史が続いていくと、こういう才能のある人が出てくる」と、秋吉は絶賛していた。

穐吉がピアノから離れた(ステージから離れたわけではなく、ピアノの陰に隠れるように)。ルーのフルートによるトリオでの〈ガーデン・アット・ライフ・タイム〉はもう何度も聴いている。和笛のような音色で長いテーマが続く。ステージ上を動き回り、ホール全体に響き渡るフルートは絶品である。続く〈ダンシング・マハ〉もフルートでのトリオ。フルートのソロに、金森のアルコが少しずつ重なっていく。一転、高橋のカスタネットでスパニッシュなリズムとなり、哀愁の漂う大きな世界が広がる。アルバム『狸’s Night』(ワンホーンによるトリオでルーの演奏が堪能できる。録音も最高な名盤である)でももっとも盛り上がるナンバーだ。カスタネットのソロも見事だ。カスタネットでのソロなどそれほど変わり映えしないのでは、という予想を大きく裏切る。

軽やかな〈ラブ・レターズ〉で穐吉が戻る。瑞々しいピアノ・ソロに続くルーのテナーもステージ上を左右に大きく歩き回りながら軽やかに歌っていた。ものすごい拍手が沸く。ルーが「トシコ・アキヨシ!」と紹介すると、さらに大きな拍手が渦巻いた。

2部のスタートはなんとピアノ・ソロ(〈ザ・ビレッジ〉)。躍動する魂が漲るような、エネルギッシュな演奏。本当に素晴らしい。ホールに拍手の渦が止まらない。

カルテットによる〈フェアウェル(トゥ・ミンガス)〉。ミンガスに捧げたオリジナル曲。穐吉がMCで「私が唯一、他のアーチストのバンドに加わったのがミンガス。彼には、気に入らないお客がいたら追いだしてしまうとか、いろんな逸話が残っているけど、ほとんどの話は本当です」に会場は大きな笑いが。ルーのむせび泣くような、豪放なテナー・ソロで始まった。ビッグバンドでもおなじみのナンバー。ブルージーなソロにアルコのベース、ピアノ、ドラムが加わる。メロディもきれいだけど、ピアノ・ソロが美しく哀しい。最後に歌い上げたテナー・ソロに大きな拍手が沸いた。

金森をフィーチャーした〈私の彼氏〉は、冒頭のベース・ソロに続き、ルーのテナーがよく歌う(穐吉が抜けたトリオ)。超スインギーな演奏で、高橋のドラム・ソロもすさまじかった。

穐吉がステージに戻り、カルテットによるエンディング曲、〈ホープ〉。穐吉がこの曲を発表したすぐ後に、NYで 9.11 が起こった。それ以降、ステージでの最後に取り上げているバラードだ。「その後も世界中で戦争は続いている。いつまでたっても終わらない」と嘆く。演奏は短いが、ルーのテナーによる、優しいメロディが胸を打つ。

会場ではアンコールを求める猛烈な拍手が止まらない(〈ハンギン・ルーズ〉)。冒頭のピアノ・ソロも往年のそれとそん色がない。ルーが会場全体に響き渡る手拍子に合わせ、テナー・ソロを取る。穐吉が退場し、高橋がそれに続き、金森もベースを置いてステージを降りる。ルーがテナーで歌い上げながら最後に退場するにくい演出に、拍手が止まらなかった。

初めてプロのジャズ・ミュージシャンのリハーサルを覗かせていただいたのが、秋吉敏子~ルー・タバキン・ビッグ・バンドだった。いくつかの大学のビッグバンド・サークルを招待していただいたのだが、それがどれだけ幸福なことかは後になって感謝した(芝の郵便貯金ホールだったかと思う)。ぴーんと張りつめた空気の中で、緻密なアレンジとダイナミックなサウンドが、まだ若かった自分の体にも入り込み広がり、熱くなっていく、そんな感覚を感じていた。それから43年が過ぎた。その2人がまだ大勢のファンの前にいて、幸せを送り続けてくれている、その光景に胸を熱くした。


常見登志夫 

常見登志夫 Toshio Tsunemi 東京生まれ。法政大学卒業後、時事通信社、スイングジャーナル編集部を経てフリー。音楽誌・CD等に寄稿、写真を提供している。当誌にフォト・エッセイ「私の撮った1枚」を寄稿。

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