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Concerts/Live ShowsNo. 332

#1396 SPELL//HUNGER/東京の3夜

Text and photos by Akira Saito 齊藤聡
Video by Kenta Tsujimura 辻村健太

イタリアのサックス奏者ピエロ・ビットロ・ボンがこれまでに作ってきたアルバムは、どれも癖の強いものばかりだ。そこにはピエロの強粘性の音が間違いなく貢献している。来日の希望はコロナ禍でなかなか叶わなかったが、ついに来日を果たした。SPELL//HUNGERのメンバーはドラムスのアンドレア・グリリーニ、レーザー・ドローイングとシンセのアルベルト・ノヴェッロである。今般、筆者が立ち会うことができた東京での3夜について報告する。

SPELL//HUNGER
Piero Bittolo Bon (alto sax, electronics)
Andrea Grillini (drums, percussion)
Alberto Novello (laser drawings, synthesizer)

2025/10/16(木) Oriental Force(東京・高円寺) w/ 与之乃 x 佐藤綾音 x 香村かをり
2025/10/22(水) 公園通りクラシックス(東京・渋谷) w/ 戸松美貴博
2025/10/24(木) Bar Isshee(東京・千駄木)

すでにグループ名を冠したアルバム『SPELL//HUNGER』(Hora Records、2025年)をリリースしているものの、アルベルト参加前のデュオである。強度の高いサックスとドラムスとの相性が良く、シンプルであるだけに多くの音のヴァリエーションがあることを示すアルバムだ。アルベルトの加入に関して、ピエロは「スパイスだ」と話した。だが、実際の演奏を目の当たりにすると、本質的に即興のインタラクションのありようを変えるほどの効果があったのだとわかる。

アルベルトが演奏場所の壁に投影する光は次々に形や色を変え、演者がそれを取り入れて次の演奏に移るところがある。すなわち、光自体は特定の意味をもたない抽象的な表現だが、サウンドの流れや展開にとっての媒体として機能するということだ。観客は、同じ光と光に呼応する演者の音を受け止めることになり、演者とは異なる相に置かれる。結果として、物語性は光でも音でもなく全体がもつことになる。このような表現の構造や受容のありように関して、たとえば、やはり即興演奏と共演する中山晃子のアライヴ・ペインティングと性格を異にする。

アンドレアのパルスはその即興プロセスを揺り動かすものであり、その都度サウンドの軌道修正がなされる。またピエロのブロウは意外にもバップ的であり、そのフレージングが執拗さと手をつなぐとかれにしかできない音になる。

かれらの表現はゲストによっても異なる展開をみせる。肉態という名の身体表現を行う戸松美貴博は、アルベルトとは別の媒体にもなり、またグループにさらなる強度を注入もする。また与之乃、佐藤綾音、香村かをりの三者がこまやかに音量を抑制するとき、SPELL//HUNGERの三者もまた注意深く音の発出を抑制し、その結果、なにものかが胎動するような雰囲気を生み出した。

(文中敬称略)

2025/10/16(木) Oriental Force(東京・高円寺) w/ 与之乃 x 佐藤綾音 x 香村かをり

2025/10/22(水) 公園通りクラシックス(東京・渋谷) w/ 戸松美貴博

映像(辻村健太)

2025/10/24(木) Bar Isshee(東京・千駄木)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。linktr.ee/akirasaito

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