#1397 「Japanese Jazz Quintet」at EFG Lodon Jazz Fesstival 2025
text & photos by Tohru Fujimori フヂモリトオル
Japanese Jazz Quintet
at the Barbican Centre, London Jazz Festival / 23 November 2025
森山威男 drums, 守谷美由貴 alto sax., 峰厚介 tenor sax., 板橋文夫 piano, 須川崇志 bass
「現代に生きて演奏している自分たちの今の演奏をもっと観て欲しい。」
これは2019年にピアニストの佐藤允彦とドラマーの森山威男が英国のラヂオ番組でインタビューを受けた際に感じたことだったらしい。
近年、英国を中心に所謂、和ジャズ(J-Jazz)のブームが起きている。元々、DJを中心に取り上げられてきた60〜70年代の日本産ジャズだが、イギリスの音楽レーベルBBEがこの「和ジャズ」を集めたコンピレーション・アルバムを発表したことにより更なる広がりを見せている。
これは日本人の若い世代からすれば新発見で、往年のファンにとっては再発見。当時を彩るミュージシャンからしても再評価であり、悪くない現象である。だがその反面、当時のアルバムのこと、当時の心境ばかりがピックアップされてしまい、現在、そのミュージシャンが心血を注いでいる演奏には光が当たりにくくなっているように感じてしまう一面もある。
♫ 1部は矢野顕子のソロで文化の壁を越える
そして、この度実現したJapanese Jazz QuintetのLondon Jazz Festival 2025出演だが、この発端は数年前に遡る。当初は如何にも和ジャズ・オール・スターズといった面々の名前がバンド・メンバーの候補にあがり、その象徴として森山威男にスポットがあたった。しかし、森山はこれを良しとはしなかった。勿論、候補となったミュージシャンは森山も親しくしてきた人々でもあり、同じ時代を生きてきた友人でもあるが、演奏を共にする機会が絶えて久しい人物も少なくない。
それでは最高のパフォーマンスを披露できないことを森山は危惧したのだ。これこそが現在も演奏を続けているミュージシャンとしての自負であり、証なのだろう。
ここからはイベントを開催する呼ぶ側と、演奏する呼ばれる側との話し合いが続いた。その結果、現在の森山威男グループでこそないが、かつての森山威男カルテットの主要人物、今でも年に何度か森山と演奏を共にする、和ジャズの中でも人気の高いピアニストの板橋文夫が決定。そして森山と板橋の演奏時には必ずと言っていいほど一緒になるテナー・サックスの峰厚介。そこからは峰と板橋との共演機会が多いアルト・サックスの守谷美由貴と、現森山威男グループのベーシスト、須川崇志という布陣が確定。須川は現峰厚介グループのベーシストでもある。
このあたりは演奏者の要望を柔軟に受け止めて、最高のパフォーマンスを期待した「呼ぶ側」の心意気もあったのだろう。
条件面で折り合いがつかず流れた年もあったが、2025年に実現することが決定。10日間に渡り開催されるLondon Jazz Festivalの最終日、会場は1800人規模の観客を収容可能なBarbican Centreのホール。”Japanese Jazz”と題された枠は前半が矢野顕子のソロ・パフォーマンス、後半がクインテットのパフォーマンス。チケットは早々に売り切れた模様。
開場前からホール入り口周辺には多くの観客が集まり、矢野顕子や森山威男、板橋文夫のLPレコードを買い求める姿が散見された。必ずしも英国在住の日本人が集まったということはなく、若い世代のロンドンっ子のマニアぶりを見せつけられた感がある。
そして開演。前半は矢野顕子の可憐で軽やかな歌声とピアノが会場を瞬く間に満たしていくことが判る。「東風」に乗って響き渡る彼女の存在感に酔いしれる静謐な時間。独特な存在感には洋の東西もない、想いは「ひとつだけ」なんだなと、文化は壁を簡単に越えられることを改めて教えられた思いがした50分であった。
■set list
東風 (YMO cover)
春先小紅
How Can I Be Sure
Prayer (Pat Metheny)
Rose Garden
ごはんが出来たよ
Whole Lotta Love
ひとつだけ
♫ 新旧のメンバーによるクインテットの熱演にスタンディング・オベーション
暫しの休憩後、客席に現れた矢野顕子に拍手が送られ、そのまま着席。後半を観覧されるらしい。
会場が暗くなり、紹介されたクインテットのメンバー一同が舞台にあがる。
森山のスピード感あるアフロ・リズムの「Forest Mode」からスタート。これは現森山グループの定番曲、アコーディオンの佐藤芳明が森山のために書いたナンバー。守谷の力強いアルトを煽る森山、それを支える須川の落ち着きに見惚れている間に短くテーマを挟んでテナーの峰の柔らかく、落ち着きのあるトーンでの歌い回しを魅せる。そして板橋の熱い激情がピアノに叩きつけられ、最後は森山がスピード感をキープしたまま、一打一打を大きく打ち込んでいく。メンバーのうち3人が80歳前後という年齢を超えていることに後から気付き感動を大きくする。
ここからは板橋文夫の作による「Watarase」と「Alligator Dance」が続く。「Watarase」はイギリスでも人気の曲。以前にDJの沖野修也氏から「イギリスのJazzをかけるDJでWataraseを知らない人がいたらモグリだ」と聞いた通り、観客の反応も大きい。板橋のピアノを前面に押し出し、ピアノソロの最中も時折、サックスがOFF気味にテーマのメロディを奏でる。テーマという水流の上を時に優しく、時に激流となるピアノが暴れまわる。
「Alligator Dance」は須川のベースが低いところで跳ね回る鰐のごとくイントロを奏で、守谷が更に大きく踊り、板橋が凶暴さを表す。
続いての「Gratitude」は板橋と共に往年の森山カルテットを支えた井上淑彦の筆によるバラッド。森山が愛してやまない1曲である。この「感謝」を意味する曲を峰が語り掛けるように歌い上げる。
そして、最後の「Sunrise」も板橋作曲の森山グループ定番曲でもある。閃光一打、森山のスネア一発を合図に全員一丸となって音を押し上げていく。ここで峰のソロに続く守谷がマイクを離れ、森山に向かい合って渾身のソロを展開する。その気迫に応えるように森山の殴打が激発されるが両者一歩も引かない姿勢で向かい合う。続いての板橋もそのヒートアップを受けて更なる熱情を溢れさせる。最後は森山のスネアドラム連打によるソロが観客の歓声を更に大きくする。
曲の終わりと同時に立ち上がり、息も絶え絶えにメンバー紹介をする森山。須川も楽器を置いて終演するかと思いきや、板橋が唐突にピアノを弾き始め「Good bye」のイントロが始まる。全員が楽器を構えなおしてテーマに備える。ピアノソロから、板橋が峰に続くソロを促す。テーマに戻り静かに曲が終わろうとするなか、テーマを背景に森山のドラムが炸裂する。これぞ森山の真骨頂だ。常にメロディありきで、そのうえで自由に叩く。彼流のフリー・ジャズの姿を最後に演奏が終わった。
演奏が終わると同時に拍手と歓声がホールに響き渡り、1800人の観客が立ち上がっていた。
鳴りやまない拍手の中、メンバー全員が舞台から降りていく。会場が明るくなり、興奮気味の観客が名残惜しそうにホールを去っていく。しかし、ホールの外では各メンバーのLPレコードを買い求め、サイン会の列に並ぶ多くの観客がいた。ここからのサイン会に矢野顕子、峰厚介、板橋文夫、森山威男の前に上気した顔のファンが幾人も並んで待ち構えていた。
■set list
Forest Mode : SATO Yoshiaki
Watarase : ITABASHI Fumio
Alligator Dance : ITABASHI Fumio
Gratitude : INOUE Toshihiko
Sunrise : ITABASHI Fumio
Good Bye : ITABASHI Fumio
最後に舞台裏で森山に聞いたら、50年ぶりのスタンディング・オベーションだなぁと感慨深げな顔をしていた。今年いっぱいで一時休養に入る山下洋輔との活動を思い起こしていたのかもしれない。(フヂモリトオル)
フヂモリトオル
音楽レーベル F.S.L. 運営、時々ミュージシャンサポート






