#954 OPPOSITE 2017 マスキネル・テラピー、ザ・リビング・ルーム feat. 巻上公一、メテ・ラスムセン & クリス・コルサーノ feat. ジム・オルーク & 坂田明
Reported by 剛田武 Takeshi Goda
Photos by Thomas Andersen (scenery), Agnete Seerup (performance) except *TG by Takeshi Goda
日本・デンマーク外交樹立150周年記念イベントのひとつとして「オポジット2017」(OPPOSITE 2017) が5月11日から20日まで六本木SuperDeluxeで開催された。30人以上のミュージシャン、10人を超える来日スタッフ、日本のデンマーク大使館や観光・企業関係者が多数関わり、ライヴ・コンサートだけでなく、会場のアートやインテリアや装飾、飲食までデンマーク産で統一した画期的なショーケースだった。10日間のうち筆者が参戦したのは 2公演のみだったが、いずれも個性的なミュージシャンばかりで、デンマークの豊潤な音楽シーンの一端を垣間みることができた。
2017年05月18日 (木) 六本木SuperDeluxe
OPPOSITE 2017 day 8
マスキネル・テラピー (Maskinel Terapi)
Sandra Boss (midi-org, elec)
Jonas Olesen (church-org, pump-org, el-org, elec)
マスキネル・テラピー (Maskinel Terapi) とは「音楽療法 (Music Therapy)」という意味で、パフォーマンスとインスタレーションの境界を曖昧にし、拾い物を音源に表現活動を行う男女デュオ。フロアに円形に並べた機器は、日本で購入した音響スピーカーとボールやピンポン球や鉄くぎや木片、さらにそれらを組み合わせて自作した蜘蛛のようなオブジェ。10個余りのスピーカーは、そこから音を出すのではなく、スピーカーのコーンの振動で別の物体を動かし音を発生させる為に使用される。使う物体の数や重さ、素材(鉄、プラスチック、紙、木など)によって出る音は異なる。カサカサ、ゴトゴト、ブーンといった微弱音がフロアのあちこちから聴こえ、虫の鳴き声、風の音、川のせせらぎ、波の音、砂嵐など自然界の営みを想起させる。制御された電子音ではなく、不定形な物と物の摩擦と振動が産む音響は、自然の原理に近いのだろう。二人が座り込んで、スピーカーの中に物体を出し入れしたり、並べ替えたりしている様子は、演奏というより子供のままごと遊びのように見える。蜘蛛のオブジェを子供たちに自作させて参加型のパフォーマンスを開催したら楽しいに違いない。
ザ・リビング・ルーム feat. 巻上公一 (The Living Room feat. Koichi Makigami)
Torben Snekkestad (reeds, elec)
Søren Kjærgaard (keys)
Thomas Strønen (d, elec) (NO)
Koichi Makigami (voc, thrm, mouth-harp) (JP)
それぞれがソロや別ユニットで活動する北欧現代音楽の実力派によるプロジェクト、リヴィング・ルームは2011年にデビューした。リード楽器のトーベン・スネッケスタッドは現代音楽出身、キーボードのソレン・ケアガーはニューヨークで学んだ即興ピアニスト、ノルウェー人ドラマー、トーマス・ストロネンはECMやRune Grammofonの作品に参加するテクニシャン。それぞれの出自の違いが絡み合い、ジャズともコンテンポラリー・ミュージックとも実験音楽とも異なる、言わば北欧系無国籍音楽とでも言うしかない異世界を形成する。さらに異能ぶりでは世界に名だたる巻上の宇宙からの信号のような歌唱とテルミンが加わると、「未知との遭遇」的な軽いカルチャーショックを伴うユニットとなる。特筆すべきはリード・トランペットとソプラノサックスを同時に銜えて、190cmの長身で叩き付けるようなアクションから繰り出される断末魔の叫びを思わせるスネッケスタッドのブローであった。
2017年05月20日 (土) 六本木SuperDeluxe
OPPOSITE 2017 day 10
メテ・ラスムセン & クリス・コルサーノ feat. ジム・オルーク & 坂田明
Mette Rasmussen (sax)
Chris Corsano (d) (US)
Jim O’Rourke (g) (US)
Akira Sakata (sax) (JP)
以前Jazz Right NowでCisco Bradleyが取り上げて興味を惹かれたデンマークの女性サックス奏者メテ・ラスムセンとアメリカのドラマー、クリス・コルサーノは5月15日からデュオで全国ツアーを行っていた。OPPOSITE 2017 最終日はスペシャル・ゲストに日米のベテラン演奏家を迎えた。当初 1stセットはデュオ、2ndセットがカルテットと発表されていたが、全編カルテットでの演奏となった。坂田とコルサーノはダーリン・グレイ(ds)を加えて「坂田明&ちかもらち」として活動しており、さらにオルークとの共演も多いので、全体的なノリとしては、<ラスムセン&コルサーノ・デュオ+ゲスト>であると同時に、<坂田トリオ+ラスムセン>のニュアンスもある。1st、2nd通して激しいプレイの応酬が展開されるなか、小柄な身体全体を使ったラスムセンのサックスは、くせ者揃いのハードコアジャズの壁に亀裂を入れるシャープな音色で、10日間に亘るOPPOSITE 2017最後の夜を彩った。
出演者やスタッフと話をしていると必ず出てくる言葉が「Curiosity(好奇心)」だった。初めて目にする日本の音楽・文化・社会・生活すべてに好奇心を刺激されると語る。コペンハーゲンのライヴハウスJAZZHOUSEのブッキング担当者は、出演者を選ぶ基準は好奇心だと断言する。音楽・芸術表現に限らず生きる上で重要なのは好奇心だと熱弁する人もいた。今回のイベントは好奇心をもつ企画者・演奏者・聴衆みんなにとって最高の体験になっただろう。この好奇心を今後のデンマークと日本の交流に繋げていきたいと強く願う。
(2017年5月28日記 剛田武)