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Concerts/Live ShowsNo. 252

#1065 3/27 APSARAS 第7回コンサート ~會田瑞樹×アプサラス
vibrAPhoneSARAS 打楽器奏者 Mizuki Aita

text by Masahiko Yuh  悠 雅彦

2019年3月27日 19:00      杉並公会堂小ホール

1.終わりの風(阿部亮太郎/2013)
2.Reverberations for solo Vibraphone (中田恒夫/2018 初演)
3.CENOTE ~ for solo Vibraphone ~(塚本一実/2009/2018 改訂初演)
4.Cancion for vibraphone (小林聡/2019初演)
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5.飛び出し小僧Ⅵ ~ ある来訪者への接待 ~(若林千春/2019 初演)
6.夢虫(名倉明子/2019 初演)
7.Play no. 27「Scherzo」 for Vibraphone  (正門憲也/2018 初演)
8.燎火 (にわび) ~ヴィブラフォンのための ~(菊地幸夫/2018 初演)
9.ヴィブラフォーンのために― 三橋鷹女の俳句に寄せて ―(松村禎三/2012)


ヴィブラフォン奏者といえば、現在ジャズとクラシックを通じて私の関心をひたすら喚起してやまない新鋭に、會田瑞樹がいる。彼については2017年の本JT誌の「JT今年の1枚」でも『五線紙上の恋人』(コジマ録音)を選んで高く評価した。同年春に催した自身のソロ・コンサート(近江楽堂)で大家百子、木下正道、福井とも子、権藤敦彦の4者に委嘱した新作を軽々?と初演したときの冴えざえとしたマレットさばきが、実はいまだに脳裏に焼き付いている。今回の上記コンサートはアプサラス(APSARAS)主催の公演だったが、あのときの興奮をもう一度体験したいと思い、彼に連絡したら招待してくれた。

アプサラスとは2008年に結成された音楽家集団。2007年に亡くなった作曲家・松村禎三の作品を継承する目的を第1に掲げて出奔した団体で、主体の正会員のほか名誉会員(野島稔氏ら3名)、一般会員、賛助会員で構成されており、會田は一般会員に名を連ねる。プログラムに掲載されたアプサラスの挨拶には、「本公演は會田瑞樹氏との ”協働” 演奏会です。彼は一般会員の中で最も若い世代の1人で、松村作品を次世代へと継承していく上でかけがえのない演奏家です」とあり、プログラムから窺える會田瑞樹のかかる意欲的なコンサートをアプサラスが一丸となって後押しし、故松村禎三作品を後世に伝える最も才能あるヴァイブ奏者として<協働>していくことを宣言している。

この日、會田が演奏したのは9作品。このうち最後の松村禎三作品を除く8曲がアプサラスの正会員として活動する作曲家の作品で、松村作品と阿部亮太郎の「終わりの風」、及び改定初演された塚本一美の「CENOTE」以外の6曲はすべて今回の會田の演奏で初演されたことになる。会場の杉並公会堂小ホールは収容能力が僅か194人とはいえ、開演のころには空席がほとんど目に入らないほどの入りが確認できた瞬間、この若きヴァイブ奏者への期待が少しづつ一般の音楽愛好家の間で高まりつつあることが分かって嬉しくなった。言うまでもなく、ヴィブラフォンという楽器は打楽器へと瞬時に転換できると同時に、旋律的な音の組み立てをマレットの活用ひとつで自在に展開できる妙味を体験することができるが、のみならず弓で鍵盤をこする奏法やダンパーペダルを活用してロングトーンを生む奏法など會田は実に様々な奏法でモティーフを展開し、スピード感の爆発する2本マレットのスリリングな奏法から、変化に富んだ4本マレットの妙技にいたる実に多様な奏法で、ときに息を呑むようなマレットさばきを印象づけた。前半は4本マレットを、後半は2本マレットを多用した演奏運びで、ときにはコントラバスの弓でヴァイブのキーをこする技法をはじめとする変幻自在な奏法で、硬質の切れ味に彩られたシャープなパッセージ、ペダルの自在な使用が生む変化に富んだ余韻、たとえば中田恒夫の「リヴァーブレイションズ」における残響効果の面白さ、あるいは厳格な2本マレット奏法で古典と現代の葛藤を絵図にするような正門憲也の「スケルツォ」、その他小林聡の「カンシオン」、若林千春の「飛び出し小僧」、名倉明子の「夢虫」(蝶の異名とか)、菊地幸夫の「燎火」など、彼がこれらの初演作品を文句のつけようのない音運びと展開手法で演奏したことに再度感嘆せずにはいられなかった。まさに音楽に対して誰にも勝る挑戦意識と敬愛の精神をもちつづける會田瑞樹ならではの闘いの記録といっても過言ではないほど、どこにも瑕疵を見出せない、鮮やかとしか言いようがないソロ・コンサートであった。

そして、しめくくりはむろん松村禎三が三橋鷹女の俳句に寄せてと題して、死の5年前に書いた「ヴィブラフォーンのために」。ここでの作曲家は沈潜していく精神の在りようを見つめながら瞑想しているようだ。松村は吉原すみれの委嘱を受けて作曲したらしいが、静かな佇まいに自らの旅路を夢想したかのような曲の跡をソロでたどった會田瑞樹の演奏は、彼がふと漏らした一言を思い出させる。「思わず襟を正している自分がいる」。私の好きな故人の「花」などとは違う旅人の詩情をこの作品に見出したような気がする。(2019年3月31日記)

悠雅彦

悠 雅彦:1937年、神奈川県生まれ。早大文学部卒。ジャズ・シンガーを経てジャズ評論家に。現在、洗足学園音大講師。朝日新聞などに寄稿する他、「トーキン・ナップ・ジャズ」(ミュージックバード)のDJを務める。共著「ジャズCDの名鑑」(文春新書)、「モダン・ジャズの群像」「ぼくのジャズ・アメリカ」(共に音楽の友社)他。

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