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Concerts/Live ShowsNo. 262

#1120 冬の調トリオ@奈良 sonihouse

text and photo by Ring Okazaki 岡崎 凛

 

「冬の調」トリオ奈良公演
2019年12月29日(日)15:00開演
会場:sonihouse (奈良市四条大路)

「冬の調」トリオ:藤本一馬 (guitar) /北村聡 (bandoneon)/ 福盛進也 (drums)


ギターの音が流れ出すと、周囲の空気にすっと溶け込むようだった。
バンドネオンが深呼吸をするように蛇腹を広げたり閉じたりするのを眺めながら、柔らかな音色に耳を澄ますと、シンバルの音が微かに響き始める。
温かみのあるメロディの中で、3人は狙いすましたように音を奏でる。ベストポイントを見極めたように、正確に。
穏やかで美しい流れの中で、プレイヤーの勝負が垣間見える気がしたが、また心地よい時間へと戻っていく。
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会場sonihouseは、近鉄奈良駅の隣の新大宮駅から15分ほど歩いた住宅地にある。2階に上がり、靴を脱いで、板張りのオープンスペースへ。部屋には昼下がりの薄日が差し込んでいた。壁側に、ギター、バンドネオン、ドラムセットが並び、その前に背もたれのない長椅子の席が並ぶ。開演前までに続々と観客が入ってくる。
会場に入ってすぐ目に入るのが、ステージ奥と観客席側の上部に設置されていた12面体のスピーカーである。客席後方の音響システム機器の近くではsonihouseのオーナー、鶴林万平氏が開演前の準備に当たっていた。

このコンサートのリーダーは、トリオの筆頭となっている藤本一馬(g) だが、このトリオを聴いていると、特にだれがリーダーということもなく、3人それぞれの個性が前面に出ていると感じた。セットリストでの3人のオリジナル曲の配分も、藤本と福盛が各4曲、北村が3曲と、ほぼ均等になっている。

MCは主に藤本がつとめていたが、バンドネオンの北村聡が地元の奈良出身ということもあって、北村が彼の楽器の説明などをした。いつも使っていたバンドネオンを破損してしまい、2番手の楽器の登場となったが、今回のツアーでその音色を見直したと言う。
いつもの楽器よりも「キラキラした音」がするというこのバンドネオンは、本公演を華やかに彩っていた。そしてこの楽器独特のメランコリックな響きが、トリオの演奏をいっそう魅力的なものにしていた。

初めて聴く北村のバンドネオンは、芯の強い音を奏で、鮮やかな色合いに満ちていた。この楽器が登場すると、たいていは一気にワールド色が強まるのだが、今回のトリオで聴こえてきたのは、タンゴの風味を感じさせながらも、どこかニュートラルでさらりとしたサウンドだった。

藤本一馬を生演奏で聴くのは、2011年の10月のオレンジ・ペコーの公演以来であり、間近で彼のギターを聴くのはこのツアーが初めてだった。演奏が始まり、最初のフレーズが滑らかに耳に届くと、その柔らかな音の感触に驚き、やがて心地よさに包まれる。セカンドステージの1曲目〈Flow〉はこうして始まり、北村のバンドネオンの柔らかな音が加わり、ほのかな光を放つように福盛進也のシンバル音が響く。序盤の穏やかなサウンドは、次第にテンポを速め、抒情的なメロディを歌うようなギターとバンドネオンの音の周りで、ドラムが繊細かつ大胆な音を響かせていた。

福盛進也を聴くのは2018年4月、デビューアルバム『For 2 Akis』リリース後のトリオ公演以来で、その時の感激を思いだしながら彼のドラムに耳を傾けた。後半2曲目は、福盛進也の〈Forget Me Not〉で、冒頭から彼のソロドラムが冴え渡る。張り詰めた空気の中で、彼のドラムセットの豊かな音色を味わうひと時だ。シンバルの音がまるで声のように聴こえる一瞬があり、ドラムの音にもそれぞれ表情を感じる。福盛の奏でる音のディテールを追ううちに、静かにギターが加わり、バンドネオンがノスタルジックで切ないメロディを奏で始めた。

ひと言でいうなら、幸福感に満ちたライヴだった。スローな曲で心地よく響き合うギターとバンドネオンに耳を澄ませば、微かなシンバル音が聴こえ始め、次第にその音が存在感を強めて行く。だが、存在感ということなら、ギターも、バンドネオンも全く引けを取らない。3人とも、何と素晴らしい音を奏でることだろうか。そして3者のレスポンスの良さ、先を読むセンスの鋭さにも驚嘆する…と絶賛の言葉を並べると、どんどん安っぽい感想になってしまうが、これが偽らざる気持ちである。
この「冬の調」トリオのアルバムのリリース予定があるなら、ぜひ手元に置いておきたい。というより、ぜひリリースしてほしいと願っている。

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セットリストと作曲者
1stセット:
1.風のように(藤本一馬)2.沈黙する風(北村聡)3.Flight of Black Kite(福盛進也)4.Snow Mountain(藤本)5.Love Story(福盛)
2ndセット:
6.Flow(藤本)7. Forget Me Not(福盛)8. Festivo (北村聡) 9. The Pledge of Friendship (藤本)  10. Walk(福盛)
アンコール
11.神奈備[かんなび](北村)

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会場となったsonihouseの2階は、楽器音のディテールを楽しむにはぴったりの環境だと思った。ステージ周辺に設置された12面体スピーカーがどのように鳴っているのか、余分な反射音がカットされているのか、詳細は分からないが、この音響設備でアコースティックを主体にした本トリオを聴くことができたのは、大変幸運だった。

sonihouseのインスタ、フェイスブックページに掲載された言葉は、この日の3人の演奏の素晴らしさに端的に触れるものだったので、引用しておきたい:
(以下、原文にない改行などを加筆して引用)
静寂の中、繊細な詩情溢れる演奏を満喫しました。
打ち上げの席で藤本(一馬)さんが、
「演奏中にお互いの音を本当によく聴きあえている。0.1秒の自分の判断に二人がぴったりと反応してくれるのがうれしい」
とおっしゃられたのが印象的でした。 2019年の締め括りにこのような素晴らしいトリオを迎えられたことを幸せに思います。
https://www.facebook.com/sonihouse.net/ (2019年12月30日付け)
https://www.instagram.com/p/B6rptgQlIOU/?utm_source=ig_web_copy_link


参考:
会場となったsonihouse、については、このようなネット記事の紹介があった:
<設計・販売も手がけるが、sonihouse はあくまでも視聴スペース。3階建ての店舗兼住宅の2階部分に厚さ45センチの吸音材を張り、テーブルとイス、必要最低限の音響機器のみが置かれた空間だ>
ホームページはこちら:http://www.sonihouse.net/

ここに紹介したライヴの詳細、藤本一馬 (guitar)/北村聡 (bandoneon)/福盛進也 (drums) それぞれのプロフィールについては;
https://www.sonihouse.net/journal/?p=9308

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関連記事(多数ありますが、このうち3つを挙げます)
https://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-42259/
#1088 藤本一馬カルテット feat.林正樹、西嶋徹、福盛進也

https://jazztokyo.org/news/post-46322/
Local(国内) News
12/3-1/17 福盛進也 来日スケジュール

https://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-27047/
Concerts/Live Shows No. 241
#1008 福盛進也トリオ大阪公演

岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

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