#1138 Fun! Fun! Fun! 2020 「映画名シーンをオーケストラとともに」
〜自粛の中で
ウtext & photo by Kenny Inaoka 稲岡邦彌
2020年8月10日 すみだトリフォニーホール
竹本泰蔵[指揮]
新日本フィルハーモニー交響楽団
1.映画『ロッキー』より コンティ:ロッキー・ハイライト
2.映画『ふしぎの国のアリス』より フェイン:ゴールデン・アフタヌーン
3.映画『ピノキオ』より ハーライン:星に願いを
4.映画『カサブランカ』より フップフェルド:アズ・タイム・ゴーズ・バイ
5.映画『雨に唄えば』より ブラウン:雨に唄えば
6.映画『白雪姫』より チャーチル:ハイホー~いつか王子様が
7.映画『バンビ』より チャーチル:愛のうたごえ
8.映画『シャレード』より マンシーニ:シャレード
9.映画『夜も昼も』より ポーター:夜も昼も
10.映画『赤い風車』より オーリック:ムーラン・ルージュの歌
Encore: ジョン・ウィリアムズ:ロサンゼルス・オリンピック・ファンファーレとテーマ (1984年ロサンゼルスオリンピック)
*2曲目~10曲目/編曲:ボブ佐久間
久しぶりのオケの音に心が震えた。開演前、トイレに聞こえてきた管楽器の慣らしの音にまず耳が鋭く反応した。ステージに勢ぞろいしたメンバーが一斉にチューニングを確認するあの音に胸が高鳴った。
新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、4月8日(木)より臨時休館をしていたすみだトリフォニーホールが6月22日(月)より営業を再開。現在のところ公演数は限られ、都のガイドラインに従い、当面の間、各ホールともに50%以下の客席数、ステージ上の奏者もソーシャル・ディスタンスが保てる距離をとった人数での公演となっている。入館にあたっての検温、手指消毒を経て、チケットもスタッフが目視確認したあと、自ら半券をもぎって所定の箱に入れるなど観客の協力も求められた。デスクに置かれた当日のプログラムや今後の公演フライヤーも観客自らピックアップする。スタッフは皆、マスクにフェイスガードとものものしい。観客もマスクの着用を求められ、ホールに入ればひとつおきに座席に着席不可のシールが貼られている..。僕の前の列の母娘もカップルも間にひとつ空席を挟んでの着席で会話もままならない。そこまで苦労をして聴きたいのか。聴きたいのだ。皆、そういう思いで猛暑を厭わず会場に足を運んでいるのだ。音楽とはそういうものなのだ。ナマ演奏とはそういうものなのだ。ということがナマ音を断たれてよくわかった。自粛以降ジャズの生演奏は2度ほど聴いた。しかし、クラシックのオーケストラは初めてだ。やはりあの管弦楽が織り成す響き、ハーモニーは何ものにも代え難い。
ステージに並んだオケのメンバーは管楽器を除いて全員がマスクを着用している。しかも指揮者までもが!ソーシャル・ディスタンスやいかに?と思ってみていると、1曲目の「ロッキーのテーマ」をフルでダイナミックに演奏したあと、管やコンバスの一部、計10人ほどだろうか、ステージを去っていった。指揮者もいったんステージを去るのだが、コンマスとのコンタクトは握手ではなく、エルボウ・タッチである。指揮者は堂々としたものだがコンマスはやや照れ臭そうな仕草がおかしかった。2曲目の「不思議の国のアリス」以降は大型スクリーンに映画のワン・シーンを映写したあと音声を消し、オケのテーマ演奏となる趣向。どの曲も懐かしく、いまだに弾き継がれている名曲ぞろいだが、弦だけで演奏された「シャレード」が心に沁み、ドラムがリズムを刻んだスインギーな「夜も昼も」に心が弾んだ。以前にもどこかで触れたが多くの名曲を生み出す欧米の映画界に比して、アニメのテーマくらいしか思い浮かばない日本の映画界の体質は寂しい限りだ。
演奏は休憩なしの60分1本勝負。とはいえ、久しぶりのナマのオケは干天の慈雨のように乾ききった心を潤してくれた。初めて聴く指揮者 竹本泰造は後髪を肩まで伸ばした独特のヘアスタイルで小柄な体躯を思う存分使いきってボブ佐久間の編曲を楽しく聴かせてくれた。
退出は指示に従って順番に席を立ち、出口の過密を避けた。また、アンケートは帰宅後QRコードを読み取って対応する手法が取られた。かくして、演奏者も観客もガイドラインに沿って厳しく対応しながら「新しい日常」を作り上げていくのだろうか。