#1158 山本達久+纐纈雅代
Text and photos by Akira Saito 齊藤聡
2021年1月24日(日) 台東区・なってるハウス
Tatsuhisa Yamamoto 山本達久 (ds)
Masayo Koketsu 纐纈雅代 (as)
1. Improvisation
2. Improvisation
このふたりが手合わせするのははじめてである。昨年(2020年)の11月に何気なく纐纈にその興味を訊いてみたことを機に、デュオの実現につながった。
山本達久は、ジム・オルーク、石橋英子、坂田明らとのコラボレーションにとどまらず、実に幅広い領域において活動を続けている。(当日何を行うかは演奏者の自由にまかせられているものの)ジャズ領域での即興演奏を期待することは狭く偏っているのかもしれない。だが、ことドラム演奏についてみれば、短い時間幅では微細なずれを絶えず出し入れしつつするどいパルスを放ち、長い時間幅では計算されていたかのようなうねりを創出するありようは、フォームが異なってもかなり共通しているにちがいない。たとえば山本の近作『ashiato』や『ashioto』でも、そのサウンドは電子音楽として作り込んであるのだが、長短のうねりの変化もときおり浮かび上がってくるドラム音の感覚もそのようなものだ。
この日、山本が持ち込んだのはアコースティックのドラムセットである。ファーストセットにおいては、意図的にか、さまざまな色を提示した。それはバスドラムの強弱やテンポのゆらぎであり、スティックで創り上げる美しい塊であり、シンバルの擦れ音と制御された響きであり、スネアの上に置いた異物による歪んだ音色であった。それが演奏前にあらかじめ計算されたものだったかどうかはわからない。サウンドが何か特徴的な色を持つたびに、纐纈は異なる色で応じた。はじめは管を鳴らしきる前のかすれた音、そして循環呼吸奏法による連続的な変化への対応、吠えるようなブロウ、最後はバップ的な旋律さえも出した。
したがって、ファーストセットのサウンドは山本の提示と纐纈の呼応というヴェクトルによって創られた雰囲気が色濃いものとなった。いきなり演奏を終えたのも山本の仕掛けによるものにみえた。ところが、セカンドセットではヴェクトルの向きが変わり、両者が中間地点でサウンドを捏ね上げた。それはファーストセットのプロセスがなければ出てこなかったものだろう。
纐纈は2020年の半ばにしばらくテナー中心の演奏をしていた。その理由として、纐纈は「それと私、細かいニュアンスを出すのが苦手で、アルトってやっぱりニュアンス勝負みたいなところがあるじゃない? だから私みたいにビャーッって吹いちゃうタイプだと、テナーの方が合ってたということなのかもしれない。そもそも細かいニュアンスの表現とか正確さみたいなところにあんまりこだわりがないからね」と話している*。実際にその時期の纐纈のプレイは低音の魅力に惹かれて極端にアルトにない領域を引き出そうとしているようにみえた。だが、この日の演奏はアルトならではのものであり、山本とのデュオだということを考慮しても、結果的に良かったのではないか。
(文中敬称略)
* 吉田野乃子との対談(2020年9月30日、細田成嗣編著『AA 五十年後のアルバート・アイラー』、カンパニー社、2021年)