#1190 外山喜雄とデキシーセインツ〜ルイ・アームストロング生誕120年 没50年記念
text & photos by Kenny Inaoka 稲岡邦彌
12月19日(日)14時&16時 2回公演
群馬県吉岡町 切り絵 緑の美術館 World Jazz Museum 21
外山喜雄とデキシーセインツ
外山喜雄 (tp, vo, MC)
広津誠 (cl)
粉川忠範 (tb)
外山恵子 (p, banjo)
藤崎羊一 (b)
山本勇 (ds)
JRの渋川駅から走らせるタクシーの道路沿いに雪が見える。「昨日は雪だったんですよ」。ドライバーの説明を聞いて肝を冷やした。今日はピーカンで凪のコンサート日和。1日違いだったらどうなっていたのだろう。それでなくても山本群馬県知事のコロナ感染多発の緊急記者会見で予約のキャンセルが出ているというのに。今日は、11月から始まった“ルイ・アームストロング生誕120年 没50年記念写真展”のハイライト、外山喜雄とデキシーセインツが東京から駆け付けてくれる。雪だったらバンドは新幹線という手もなくはないが、クルマのお客さんはどうなる...。土壇場でまたサッチモに助けられた。外山さんによれば、今年はいろんな場面でサッチモが奇跡を起こし続けているという。
2回公演というのにアタマから全力疾走だ。バンドの半数以上はシニアのはず。
1975年結成だから半世紀近いキャリアだ。その間、1983年の開園以来23年間、東京ディズニーランドで連日何度も演奏してきたというから只事ではない。アメリカ発のエンタメに対する要求度は高く、何よりジャズを知らない入園者を楽しませる必要がある。これほどの音楽性とエンタメ性を併せ持つバンドは日本には二つとないだろう。まずは、リーダーの外山喜雄、筆者と同じW大の政経・経済のOBである。経済を学んだ者がどこでどう足を踏み外したか、音楽でメシを食う羽目になるとはねえと顔を見合わせて笑う。“日本のサッチモ”の異名はダテではない。フレーズからヴォーカルまでサッチモくりそつ(業界用語でそっくり)。サッチモゆかりの白いハンカチでミュートをかけたり、ドングリまなこを似せることすらある。ギャグを織り込んだMCで笑いを誘う。パートナーの外山恵子とは大学のクラブで知り合い結婚。元々はクラシック・ピアノを弾いていたが、こちらもどこで足を踏み外したかデキシーの世界へ。卒業間も無く二人揃ってニューオリンズで述べ5年間の武者修行。かのプリザベーション・ホールの真裏に下宿、のべつホールに出入りしていたというから身体ごと本場のデキシーが染み付いた。外山恵子は曲によりピアノ(キーボード)とバンジョーをスイッチする二刀流。「バンマスは簡単にやれピアノ、やれバンジョー、と言うけど大変なのよ。こっちの身にもなって欲しいわ」と言いながらも満更ではなさそう。生粋のデキシー好きなのだろう。2回目の公演ではメンバーとともに手を振りながら会場を練り歩いた。
他のメンバーも役者揃いだ。クラの広津は2回目の公演で<鈴懸の道>で鈴木章治を吹いてみせたし、ドラムスの山本はその鈴木章治のリズムエースのOB だ。ボントロ(トロンボーン)の粉川は原信夫の#&♭などでダンモ(モダンジャズ)を演っていたが「宗旨変え」してデキシーセインツのキーメンバーのひとりに。ベースの藤崎は高校球児で甲子園に3回出場したという。原辰徳と同期というが年齢は合うのか。<聖者の行進> でフィーチャーされたスラム・スチュアートばりのハミング・ベースには思わず口元が緩んだ。同じ<聖者の行進>では、外山喜雄が循環呼吸を使ってシングルトーンを思い切り長く吹き伸ばした。昨今、特にインプロ系のサックス奏者の間では表現テクニックの不可欠の武器のひとつとして使われている奏法だがデキシーで飛び出すとは思わなかった。外山によると「1964年にデューク・エリントンのオーケストラが来日した時、サックス奏者のハリー・カーネイが使っているのを聞いて興味を持ち取り入れてみた」という。研究熱心な外山らしいエピソードだが、日本人としては初めての循環呼吸奏法(サーキュラー・ブリージング)の奏者かもしれない。
1回目の公演ではみっちりデキシーを聴かせたが、2回目の公演は少しリラックスして <マック・ザ・ナイフ>や、外山恵子のバンジョーをフィーチャーした<ワシントン広場の夜は更けて>や、フロントの3人がミルス・ブラザースを彷彿させる見事なハーモニーで <ホワイト・クリスマス>をサービスするなど、ソフィスティケートされたエンタメ性を披露した。。
かくして楽しみどころ満載のデキシーセインツの2回公演を群馬県は伊香保温泉近くの美術館で堪能したのだった。遠くは横須賀から、宇都宮からはグループで、ケーブルTVのJ:Com(最近、スマホでも視聴可能になったという)や地元有力紙の「上毛新聞」の取材も入り、NHK-TVの朝ドラ「カム・カム・エブリバディ」の影響も無視できないだろうが、やはりルイ・アームストロングの強力な吸引力に改めて驚かされた1日でもあった。(文中敬称略)