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Concerts/Live ShowsNo. 299

#1250 「感じる―鈴木昭男と宮北裕美のありかた」オープニング・パフォーマンス

text by Shuhei Hosokawa  細川周平
photo by 田中良子[提供:鳥取県立博物館]

2023.2.26 鳥取県立博物館

シリーズ・美術をめぐる場をつくる4
感じる―鈴木昭男と宮北裕美のありかた
オープニング・パフォーマンス

 

いつものように、いつもと違って

鳥取市の県立博物館へ鈴木昭男と宮北裕美のパフォーマンスを見に行った。フォッサマグナ以東にいるとずいぶん遠そうに思えるが、住んでいる京都からは特急で3時間、鈴木昭男と宮北裕美が暮らす京丹後市からだと車で1時間少しで到着する。生活圏の少し先という程度だ。そこで二人が展示室を丸ごと任される初めての機会が設けられた。同館の「シリーズ・美術をめぐる場をつくる」の第四回で、「感じる―鈴木昭男と宮北裕美のありかた」と題されている。

ガラス張りの陳列空間に囲まれた典型的な博物館大部屋を想像されたい。そのガラスには裕美さんの用意した穏やかな数色の線が描かれている。線はその場でゆっくり描かれたそうで、強がらずに続いては消えている。「ダンスの線」と呼んでもよい。入口配布の覚書によると、「いつもの暮らしにダンスは溢れている」からだ。やかんの湯気も木の葉も砂丘の砂も「鳥取のみなが踊る」。要所ごとに鮮やかな色の巨大なクリップが置かれ、ターンかジャンプのようにダンスの線にアクセントをつけている。「わたしたちはみな誰もが踊る 何もかもが踊っている」。

陳列空間には四方それぞれ、昭男さんが市内でスケッチした鉛筆画が拡大コピーされ、切り分けられ奥行きをつけて置かれている。このように二人の手描き仕事が共演するのは、昨年京都のギャラリーに続いて二度目で、市民ならどこなのか見当がつく場所だそうだ。隔離された空間に日常性が進入する。風景を正面に見るスポットに立つと、天井からぶら下げられたメガホンから、スケッチ現場の自然音が、気がつけばよいという程度の音量で再生されている。ちょうど目で見ている場所を耳で追体験できる仕組みになっている。音で想像上のぬり絵をすると昭男さんは後で話していた。会場全体はモノや音を穏やかに引き立たせるような照明(田中哲哉担当)で演出されている。題名にこじつければ、このようなありかたで二人は鳥取を感じた。

そのなかでオープニング・アクトが持たれた。裕美さんはいつもの白く軽快な衣装で登場して踊り始めた。衣装には先のダンスの線と似たテープを張って、取り囲むガラス表現との一体化を試みたが、すぐに落ちて慌てたそうだ。見ている方は気にも留めなかった。昭男さんはクリスマス・ツリーにぶら下げるような色違いの毛糸の靴下七足に、大きさの違うガラス球を入れて、飛び石のように置かれた丸いプレートにコツコツ当てて鳴らした。マレットを楽屋に忘れてきたための応急措置と後で説明されたが、このような即興的なありかたこそ昭男さんらしい。周囲のガラスにことのほか反響していた。

そのプレートは「点星(ほしだて)盤」といい、耳と足の紋様が描かれている。北斗七星のかたちで並べられていたが、たぶん言われなければ気がつかない。上から俯瞰できないからだ。後になって星空散歩としゃれ込んでいたとわかった。覚書には古代人が北の星に祈りを捧げた祭礼を復元させる道具と説明されている。山陰地方に伝わる星の信仰に空想をはたらかせた結果で、考古学・神話的な物語は石笛やアナラポスのようないつもの自作音具ともよく響き合う。

博物館側の企画者はアフター・トークで自分たちを強く表現するというより、「虫けらのように」退いて人の小さい存在を演じるところに、二人の共鳴点の奥深さがあると語っていた。宇宙のなかの虫けらという意識は委縮というより、無私の境地に心のありようが広がる感じに通じる。「強くない」「さりげない」「ゆらぎ」「五感に開かれる」「からっぽ」「化学反応」、こんな言葉がトークに出てきた。

「点星」は昭男さんが前から展開している「点音(おとだて)」の延長にあり、その元には「点茶(てんちゃ)」がある。儀礼的にお茶を淹れるように、音具を使って空間に音を注ぐ行いが「点音」の語には宣せられていたが、今回はその先で「星を点てる」。星天を落ち着いて見つめることを指すのだろう。点星盤を茶道で使う点茶盤に見立てて、芸道の静粛と神聖にさかのぼりながら、北の星を何かの器に淹れるような儀礼が演出された。

二人の共演に立ち会うことはこれからも多いだろうが、演じる場所の視聴覚を自ら設計した鳥取版は特別だろう。目と耳が呼応するのはいつものことだが、空間の物語・感覚的構成と共鳴して特別細やかに感じられた。場所作りから始めて時間をかけて対等なパートナーとして共同制作する経験はこれまでになく、互いの発見があったそうだ。私たち観客は二人の見かけ以上に親密な世界に招き入れられた。

編集部注
鳥取県立博物館での展示は2023年3月21日まで
https://www.pref.tottori.lg.jp/308022.htm

細川周平

細川周平 Shuhei Hosokawa 京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター所長、国際日本文化研究センター名誉教授。専門は音楽、日系ブラジル文化。主著に『遠きにありてつくるもの』(みすず書房、2009年度読売文学賞受賞)、『近代日本の音楽百年』全4巻(岩波書店、第33回ミュージック・ペンクラブ音楽賞受賞)。編著に『ニュー・ジャズ・スタディーズ-ジャズ研究の新たな領域へ』(アルテスパブリッシング)、『民謡からみた世界音楽 -うたの地脈を探る』( ミネルヴァ書房)、『音と耳から考える 歴史・身体・テクノロジー』(アルテスパブリッシング)など。令和2年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

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