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Concerts/Live ShowsNo. 222

#909 東京ジャズ・フェスティバル(15TH TOKYO JAZZ FESTIVAL)

text by Masahiko Yuh 悠 雅彦
photo:©15th TOKYO JAZZ FESTIVAL
©中嶌英雄/©Hideo Nakajima   ©岡 利恵子/©Rieko Oka


2016年9月3日/4日  東京国際フォーラム・ホールA

9/03  小曽根真 presents JFC All Star Big Band meets Juilliard Jazz Ensemble
パット・メセニー&クリスチャン・マクブライド
9/04  石若駿 PROJECT 67 (粟谷巧 大林武司 寺久保エレナ powered by 日野
皓正)
ミシェル・カミロ × 上原ひろみ

15周年を迎えた Tokyo Jazz Festival (東京ジャズ祭)が去る9月4日、成功裏のうちに幕を閉じた。発足した当時はハービー・ハンコックをプロデューサーに据えるという思い切った方針を打ち出して、ジャズ・フェスティヴァルに新しい風を吹き込んできた同祭だが、会場の東京国際フォーラム(丸の内)の中でも最大のキャパシティー(収容人員/4930人)を誇る” ホールA ” を常時満杯にすることは、いくら人気を誇るアーティストを表看板に、あの手この手で観客にアピールするプログラムを組んでもある種の限界を否定できなかった。そうしたジレンマがある種の危機感として漂いはじめたこの数年、見た目には成功裏に進みつつあるように見えた同祭を運営するスタッフの苦悩が時おり垣間見えるようになった。そのうち何か危機打開の手を打ってくるはずだと思っていた矢先、東京ジャズ祭が国際フォーラムから撤退し、来年2017年度から渋谷に場所を移して開催されることが決まった。この開催地移転のニュースは会場に設置されている映像モニターで出演アーティストの顔と声によるアナウンスで大々的にアピールされているので、渋谷での Tokyo Jazz Festival 開催に向けた新しい動きがすでに始まったといっていいだろう。

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©岡 利恵子/©Rieko Oka

今年の目玉と言ったらいいのか、ファンに向けてアピールしたプログラムの中心は、ハービー・ハンコックが2年ぶりに自己のグループで出演すること、逆にパット・メセニーがグループから離れて今やアコースティック・ベースの大御所ともいうべきクリスチャン・マクブライドとデュエットするフェスティヴァルならではのステージ、そして渡辺香津美と沖仁のギター・バトル、及び上原ひろみのトリオ・プロジェクトあたりと予想していた。ところが、アンソニー・ジャクソンとサイモン・フィリップスが揃いも揃って健康上のアクシデントで来日が不能となり、ミシェル・カミロが両者に代わって上原ひろみとのバトルのために急遽、来日した。カミロは2014年の同祭で上原とのバトルをすでに試みて聴く者を熱狂させており、カミロ=ひろみのデュエットはそれはそれで聴きものとなることは充分に予測できた。「Tropical Jam」で蓋を開けたデュオは、デューク・エリントン楽団の人気曲「Caravan」や「Take the A Train」を間に挟みながら、聴く者に呼吸する暇も与えないほどの熱演、いや熱闘を約1時間少々にわたって繰り広げた。何度聴いても、まったくの即興で、よくあそこまでこれといったミスもなくピアノの対話ができるものだと感心せずにはいられないデュオ演奏だった。

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©中嶌英雄/©Hideo Nakajima

パット・メセニーが現代ベースの巨人クリスチャン・マクブライドと親しく語り合ったステージも味わい深かった。マクブライドと故チャーリー・ヘイデンとの違いや両者の音楽的異質性にもかかわらず、メセニーは敢えて奏法に変化を求めず、普段のメセニーならではの歌心の横溢するプレイでマクブライドと親しく会話した結果の心地よさだろう。

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©岡 利恵子/©Rieko Oka

今回は敢えて、15周年という記念すべき祭典の幕開き(オープニング)を飾った小曽根真と学生ビッグバンドの演奏に脚光を当てたい。この書き方だと誤解されるかもしれないので、念のためプログラムの見出しを掲げよう。「小曽根真プレゼンツJFC・オールスター・ビッグバンド・ミーツ・ジュリアード・ジャズ・アンサンブル」である。これで判るように、小曽根真がJFC(Jazz Festival at Conservatory)、すなわち日本の代表的音楽大学の学生で構成するビッグバンドを日本の代表的音楽祭のステージに登場させ、「専門教育を受けた学生によるアンサンブルと個人技を披露し」、それをファンや識者に「評価」してもらうことに主眼をおいている、ということだ。関係者に念を押すと、一昨年の同祭でクリスチャン・マクブライド率いるビッグバンドと対決する形でNo Name Horses のリーダーとして登場した小曽根が、このビッグバンド競演のアイディアが動き出す中でJFCビッグバンドの夢を膨らませていたことは間違いないとの話だった。その夢が具体化したのは、今回の第15回東京ジャズ祭が動き出したときだったのだろう。小曽根の熱意とアイディアをかった主催者側は、彼の発案であるJFCのプランにゴーサインを出した。

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©中嶌英雄/©Hideo Nakajima

小曽根自身が教壇に立つ国立音楽大学、および昭和音楽大学、尚美学園大学、洗足学園音楽大学の4校が合同でJFCを立ち上げたのは昨2015年夏のことだという。プログラムに掲載された説明によれば、JFCは、音楽大学がクラシックのみならずジャズをも専門的に学ぶことができることをもっと強くアピールし、すでに高い認知度を誇っている一般大学のビッグバンド活動とは違う、より洗練されたジャズ・オーケストラ演奏を目指して聴衆にアピールする礎(いしずえ)を築こうという意図のもとに発足した。すでに昨年の同ジャズ祭に初参加し、地上広場” the PLAZA ”で演奏を披露したオーケストラが、今年はついにメインホールのオープニングを飾ることになった。そして、「 Meets Juilliard Jazz Ensemble 」。すなわち、4大学から選抜された日本の学生ビッグバンドが抜擢されたジュリアードの優秀な現役学生プレイヤーと丁々発止のプレイをたたかわしたり、JFCビッグバンドにジュリアード・ジャズ・アンサンブルの面々が加わって演奏するといったプログラムを小曽根真の指揮で披露し、会場を埋めたファンの喝采を誘った。東京ジャズ祭の一環としてコットン・クラブでトリオ演奏を披露した片倉真由子もジュリアードの出身。なお来日メンバーはデイヴィッド・ネヴェス(tp)、エリック・ミラー(tb)、サム・ディロン(ts)、デイヴィッド・メーダー(p)、マーティン・ジャッフェ(b)、ダグラス・マリナー(ds)だが、一行の先生役で来日したベース奏者ベン・ウルフと小曽根真のデュエットなどで始まった交歓セッション、とりわけ米日学生の意気軒昂ぶりを発揮したプレイの数々はその真剣な眼差しゆえの不思議な感動をもたらした。1例を挙げるなら、ジュリアード・ジャズ・アンサンブルの演奏(「シェード・オヴ・ジャズ」、故ジョン・コルトレーンの「ナイーマ」と「ブルー・トレイン」)の後、小曽根が指揮するJFCビッグバンドの演奏で披露されたピアノの鈴木よう子の作品「Eメール」、特にJFCビッグバンドにジュリアードの面々が入って日米のソロイスト競演となった「 Bouncing in Two Different Shoes 」でのテナー及びトロンボーン・ソロでの日本の学生のプレイにはジーンとくるものがあった。

日米の学生が共演するこのオープニングのようなステージは、小曽根真という傑出した存在なしには決して考えられない。それは疑いない事実だが、彼の強力なリーダーシップで実現したこの成果を、今後多くの人々、とりわけ日本のジャズの将来を担う若い演奏家たちには、自分たちの手でさらに実りあるものにして今後の発展につなげていく気概を示してもらいたいと切に思わずにはいられない。

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©中嶌英雄/©Hideo Nakajima

最後に、私が秘かに期待した「石若駿 PROJECT 67 」。

新宿ピットインが昨年開店50周年を迎え、12月26、27の両日に新宿文化センターで祝賀コンサートを催したとき、伸び盛りの新鮮なドラミングで目をみはったのが石若駿だった。彼の才気に富むプレイに大きな注目を払ったこともあって、かくも大きなジャズの祭典にリーダーで登場する新鋭の心意気を見極めたいと、私も一際彼のプレイに注視した。石若のほか、粟谷巧、大林武司、寺久保エレナ。この4者は札幌でのジャズ・ワークショップ、札幌グルーヴキャンプで初めて顔を合わせた。当時、石若と寺久保は14歳、大林が19歳、粟谷が20歳。4者の年齢を足した数の67をグループ名にしたわけだが、初心を忘れずというより、4者がそろってわが国の期待の新鋭として切磋琢磨し合ってきた喜びを「PROJECT 67」というネーミングにこめたのではないかと想像する。札幌での初の出会いからちょうど10年。4者、特に当時中学生だった石若と寺久保には期するものがあるのではないかと注目した。さまざまな機会に書いたり推薦したりした石若にはある種の落ち着きが出てきたような気がする。一方で、寺久保エレナを聴くのは久しぶりだった。この日の彼女のアルト・サックスが奏でる「 My Ideal 」を聴きながら、彼女の成長ぶりに触れて一安心。2009年にバークリー・サマー・ジャズ・ワークショップに日本人では初めて選抜されて注目された彼女も、そろそろ真骨頂を発揮する時期が到来しつつあるのではないかとさらに期待したいと思う。ニュー・センチュリー・ジャズ・クィンテットの軸として次代を担う大林、渡辺貞夫のツアーに参加したり、昨年は初リーダー作を発表した粟谷を含め、わが国で最も期待できる新鋭グループとしての魅力を確かめることができた演奏だった。ゲストで出演した日野皓正や、久しぶりに自己のグループで元気なところを見せた渡辺貞夫らに負けない、日本を代表するミュージシャンとしての活躍を注視したい。

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©岡 利恵子/©Rieko Oka

さらに期待の新鋭が現れるかもしれない2017年に思いを馳せながら。来年の渋谷での Tokyo Jazz Festival にエールを送ることにしよう。

悠雅彦

悠 雅彦:1937年、神奈川県生まれ。早大文学部卒。ジャズ・シンガーを経てジャズ評論家に。現在、洗足学園音大講師。朝日新聞などに寄稿する他、「トーキン・ナップ・ジャズ」(ミュージックバード)のDJを務める。共著「ジャズCDの名鑑」(文春新書)、「モダン・ジャズの群像」「ぼくのジャズ・アメリカ」(共に音楽の友社)他。

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