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Concerts/Live ShowsNo. 309

#1284 ラ・フォル・ジュルネ・ド・ナント2023〜夜の抒情詩
La Folle Journée de Nantes 2023 – Ode à la nuit

Text by Hideo Kanno 神野秀雄

La Folle Journée de Nantes 2023 – Ode à la nuit
ラ・フォル・ジュルネ・ド・ナント2023〜夜の抒情詩

東京・丸の内のゴールデンウィークを彩る風物詩となっている「ラ・フォル・ジュルネTOKYO」音楽祭。「ラ・フォル・ジュルネ」(LFJ、熱狂の日の意味)は、フランス・ナントでアーティスティック・ディレクター、ルネ・マルタンが1995年が創設し、1993年で29回目を迎える。LFJは誰でも気軽に楽しめるロックフェスティヴァルに着想し、短めのプログラムをたくさん用意し低料金で観られるようにした。TOKYOは、2020〜22年が中止となったが、本家の「ラ・フォル・ジュルネ・ド・ナント」は、ルネの強運と巧みな仕切りで1度も中止とならずに続けられた。

●2023年テーマ 「Ode à la nuit」=「夜の抒情詩」。
「夜はさまざまな表情を持ちます。ときには平和に、不穏に、晴れたり、暗くなったり。そして、いつも神秘的な魂がそこにあります。尽きることのないインスピレーションの源である夜は、多くの芸術家をインスパイアし、芸術家たちは、夜をとらえ、作品の中で再現しようと努めてきました。」

Odeは「頌歌(しょうか)」と訳すこともあるが、頌歌とは何か自体に解釈が要るので、ここでは「抒情詩」と訳した。ご関心のある方は調べていただきたい。LFJ TOKYO 2023は 「夜の抒情詩」ではなく、2020年に中止になった「ベートーヴェン」を採用した。ルネとしては「夜の抒情詩」を日本でも見せたかったようだ。

●ジュール・ベルヌ博物館と『月世界旅行』

L+R: ©Hideo Kanno

初日は夜からコンサートが始まるので、ジュール・ヴェルヌ博物館へ初めて足を運んだ。ナント生まれのジュール(1828年-1905年)は20世紀を予言するようなSFを多数著しているが、「夜の抒情詩」という点で強く関心を惹くのが『月世界旅行』であり、博物館でも詳細が紹介されていた。19世紀にして科学的に裏づけられた具体的なストーリーでの月への到達。実際、フォン・ブラウンらを通してその後のロケット開発からアポロ計画にまで影響を与えた。ナントという特別な街では、月が遠くの幻想的な存在ではなく、手が届く天体であったことを実感する。(ちなみに潜水艦の物語『海底2万マイル』も有名だが、ナントのすぐ近くにドイツ海軍が堅牢なサンナザール Uボート基地を作ったのは皮肉だ。)

印象に残った公演のいくつかを紹介したい。

●アンヌ・ケフェレック モーツァルト ピアノ協奏曲 第27番 / ブラームス セレナーデ
No.084 2/3 16:30 Auditorium 2000

Anne Queffelec アンヌ・ケフェレック: piano
Victor Julien-Laferriere ヴィクター・ジュリアン=ラフェレイレ: conductor
Orchestre Consuelo オルケスタ・コンスエロ
Mozart : Concerto pour piano et orchestre n°27 en si bémol majeur K. 595
Brahms : Sérénade pour orchestre n°2 en la majeur opus 16

アンヌ・ケフェレックが弾くモーツァルトの最後のピアノ協奏曲「第27番」から始まるプログラムは、2,000席を完売しその人気の根強さを見せた。


Photo: @Romain Charrier

●アンヌ・ケフェレック ベートーヴェン ピアノ・ソナタ「月光」
2/5 11:15 Salle 450

Anne Queffelec: piano
Beethoven: Sonate no 14 en ut dièse mineur, opus 27 no 2 “Clair de lune”
Beethoven: Sonate no 32 en ut mineur opus 111

アンヌ・ケフェレックは、ベートーヴェンの最後のピアノソナタ第30番、第31番、第32番のアルバムを2022年にリリースしたばかり。その第32番と、「夜の抒情詩」を代表するピアノ・ソナタ「月光」のプログラム。いつものように自らの曲の解説の後で、じっくりと聴かせた。

【参考動画】 Anne Queffélec – Beethoven, les 3 dernières sonates

●マドリッドの夏の夜の思い出/スペインの庭の夜
No.29 2/2 11:00 Auditorium 2000

Luis Fernando Perez ルイフェルナンド・ペレス: piano
Sinfonia Varsovia シンフォニア・ヴァルソヴィア
Aleksandar Markovic: conductor
Glinka: Souvenir d’une nuit d’été a Madrid (マドリッドの夏の夜の思い出)
Da Falla: Noches en los Jardines de España (スペインの庭の夜)

スペインの夜にフォーカスしたプログラム。ファリャの交響的印象「スペインの庭の夜」は、交響詩であると同時にピアノ協奏曲としての特徴を強く持つ。スペインのピアニスト、ルイス・フェルナンド・ペレスが、哀愁と情熱に満ちた演奏で大ホールの観客を魅了した。


Photo: ©Hideo Kanno

●ルイス・フェルナンド・ペレス「フィールドとショパンの夜想曲」
Luis Fernando Perez: piano
Field: Nocturne no.5 en si bemol majeur
Chopin: Nocturne opus 15 no 1 & 2
Chopin: Nocturne opus

スペインのピアニスト、ルイス・フェルナンド・ペレスによる「夜想曲集」。まずアイルランドの作曲家でありピアニストのジョン・フィールド(1782年〜1837年)を持ってきているが、ジョンは夜想曲(Nocturne)の創始者とされ、夜想曲を一つのジャンルとして確立し、フレデリック・ショパンなどに大きな影響を与えた。


Photo: ©Hideo Kanno

●フェイサル・カルイ指揮 ベルリオーズ『幻想交響曲』
2/3 21:45 Auditorium 2000

Orchestre de Pau Pays de Béarn
Fayçal Karoui: direction
Berlioz: Symphonie fantasitique
Debussy: Clair de lune, version pour orchestre

フェイサル・カルイは2013年、東京でのLFJにラムルー管弦楽団とともに来日し、繊細でダイナミックレンジの広いラヴェル「ボレロ」が印象に残った。それだけに久しぶりに聴くフェイサル・カルイ、そして音楽監督を努めるベアルン地方ポー管弦楽団は楽しみだった。アンコールで演奏されたドビュッシー「月の光」が、今回のLFJで最も印象に残る美しい演奏だった。


Photo: @Romain Charrier

●ワルシャワ・フレデリック・ショパン音楽大学ビッグバンド
No.028 2/4 09:20 Auditorium 2000
Big Band de l’Université Frédéric Chopin de Varsovie
Piotr Kostrzewa direction

Gershwin: Rhapsody in Blue
Mancini: Moon River
Shorter: Children of the Night
Miller: Moonlight Serenade
Chopin: Prélude en mi mineur opus 28 n°4
Rimski-Korsakov: Shéhérazade
Jobim: Quiet Nights
Gillepsie: A Night in Tunisia

ポーランド・ワルシャワにあるフレデリック・ショパン音楽大学の学生ビッグバンド。指揮者のピョートル・コストロゼヴァは、LFJの主力オーケストラ、ワルシャワのシンフォニア・ヴァルソヴィアでティンパニなどを担当。このビッグバンドは2020年には挾間美帆指揮で処女航海組曲などを演奏していた。今回はジャズスタンダードに加え、ジョビン、ショパン、リムスキー=コルサコフなどをビッグバンドアレンジで聴かせた。


Photo: @Hideo Kanno

●ヴァネッサ・ワグナー「フィリップ・グラス・ナイト」 〜フランス国鉄ナント駅コンサート
No.213 2/4 23:00 Gare SNCF de Nantes
Vanessa Wagner: piano
Glass Night

Phillip Glass:
Opening
Metamorphoses
Morning Passage
Dead Things
Etudes No.2 & No.5
Distant Figures

フランス国鉄(SNCF)ナント駅が改修されて、跨線橋部分がまとまった広さを持つスペースになった。そこを利用しての夜の駅のコンサート。ヴァネッサ・ワーグナーによるフィリップ・グラスのピアノ曲が演奏された。シンプルなモチーフを繰り返しながら変容していくようなフィリップ・グラスの響き、ガラス張りで暗闇を見通す空間に心地よく響いた。


Photo: @Romain Charrier

●トリオ・アーノルド「トランシルヴァニアの夜」
2/3 11:15 SALLE 80

Trio Arnold
Dohanyl: Serenade pour trio a cordes opus
Lejtha: Nuits transylvanienne pour trio a cordes opus 41

岡田修一(vn) マニュエル・ヴィオック=ジュード(va) キム・ボムジュン(vc)による弦楽三重奏団。


Photo: ©Hideo Kanno

●ロメイン・ルルー六重奏団「アメリカの夜」
No.044 2/2 11:30 Salle 450
Romain Leleu Sextet

ロメイン・ルルーのトランペットに弦5本を配した六重奏団で、ジャズスタンダード<Round Midnight>、<Moon River>、<Night and Day>などに、映画音楽を。坂本龍一がスペイン映画「Tallons Aiguilles (ハイヒール)」に書いたテーマ曲も演奏された。


Photo: ©Hideo Kanno

Teaser La Folle Journée de Nantes 2023 / Ode à la nuit

【参考動画】 映画『蜜蜂と遠雷』亜夜と塵の月夜の連弾

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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