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Concerts/Live ShowsNo. 309

#1283 ラ・フォル・ジュルネTOKYO 2023  やっぱり「Beethoven ― ベートーヴェン」

Text by Hideo Kanno 神野秀雄
Photo by ©teamMiura

ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2023〜ベートーヴェン
La Folle Journée TOKYO 2023 – Beethoven

開催⽇程:2023年5⽉4⽇(⽊・祝)〜5⽉6⽇(⼟)
会場:東京国際フォーラム、⼤⼿町・丸の内・有楽町 他
主催:ラ・フォル・ジュルネ TOKYO 2023 運営委員会
(三菱地所株式会社/株式会社東京国際フォーラム/株式会社 KAJIMOTO)
プログラムと詳細はこちら

2005年から毎年ゴールデンウィークに東京・丸の内で開催されてきた世界最⼤級のクラシック⾳楽祭「ラ・フォル・ジュルネTOKYO」(LFJ)。COVID-19感染拡大による2020年中止から3年の空白を経て復活。ホールA・C・D7を主要会場に、2023年5月4日〜6日に開催された。本家ナントの2023年テーマは「夜の抒情詩」だったが、東京では、2020年に中止となった「ベートーヴェン」をテーマに据えた。東京では15周年を迎える2020年、開催テーマを「ベートーヴェン」として、ベートーヴェン⽣誕250周年を盛⼤にお祝いする⽇本最⼤のベートーヴェン・フェスを⽬指して準備を進めていたが中⽌となっていた。(ナント2020年のコンサートレポートはこちら)

●アーティスティック・ディレクター ルネ・マルタンからのメッセージ
ベートーヴェンの作品はヒューマニズムにあふれ、人類愛と思いやりを今もなお人々の心に届けるという意味においても、音楽史上唯一無二の存在です。ベートーヴェン自身、彼の音楽の目指すところを、このように記していたのではないでしょうか。

「心より出で、願わくば再び心に至らんことを」 -「ミサ・ソレムニス」楽譜に添えられた言葉


©Marc Roger

公演のいくつかを紹介したい。

●321 5/6 10:00 ホールC
アンヌ・ケフェレック「ベートーヴェン 最後のピアノ・ソナタ 第30〜32番」

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30番 ホ長調 op.109
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 op.110
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調 op.111

LFJを代表するピアニストの一人で、日本でも高い人気を持つアンヌ・ケフェレックは、ベートーヴェンの最後のピアノソナタ第30番、第31番、第32番のアルバムを2022年にリリースしたばかり。その3曲全てを聴ける贅沢なプログラムで、「闘いの人生の末、辿りつくや静かなる境地」という副題がついていた。冒頭には自ら曲の解説を行った。ナントでは、「夜の抒情詩」に沿ってピアノ・ソナタ「月光」と第32番を演奏した。5月4日には「月光」を課題曲にマスターコースも行った。


Photo: La Folle Journée de Nantesより ©Hideo Kanno

【参考動画】 Anne Queffélec – Beethoven, les 3 dernières sonates

●5/4 5/6 11:45-12:15 地上広場
エリプソス四重奏団 ピアノ・ソナタ「悲愴」

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第8番 op.13 ハ短調 (サックス・アンサンブル版)

ベートーヴェンのピアノ・ソナタ「悲愴」を、当時は存在しなかった未来の楽器サックスのアンサンブルで聴かせる試み。有料公演ではホールCが完売となっていたが、地上広場で、5月4日夜と5月6日朝に無料コンサートで「悲愴」が披露された。4者の音色とフレーズが低音から高音まで見事なまでにシームレスに繋がった上でアンサンブルが成立していて、これまでにない素晴らしいサックス四重奏団の体験であり、素晴らしい「悲愴」のサウンドを体感することができた。5月4日には、ピアノ・ソナタ第23番「熱情」から第1楽章を課題曲にマスターコースも行った。

●335 5/6 17:15 ホールD7
オルケスタ:ナッジ!ナッジ!

芳垣安洋率いる打楽器アンサンブル。即興による指揮でその場で音楽を創っていく。アルゼンチンのサンチャゴ・バスケスのハンドサインに影響を受けている。シシド・カフカがリーダーとなるel tempoがブレイクして、果ては「徹子の部屋」で黒柳徹子がハンドサインを出しているほどで、その手法はじわじわと認知されてきている、el tempoを強く支えているのも芳垣で、メンバーもナッジ!ナッジ!とかなり重なる。LFJ出演も定番となって、いつも完売だ。今回も変幻自在に変わっていくリズムと音楽を楽しんだ。

●215 5/5 20:30 ホールA
井上道義 ミチヨシはかくベートーヴェン「運命」の扉を叩く

井上道義: 指揮
新日本フィルハーモニー交響楽団
井上道義によるトーク(トークゲスト 林 英哲)
ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調 op.67「運命」

引退を表明している井上道義の、辛口のトークショー込みのコンサート、それも「運命」とあって、満員に近い公演となり、最高の盛り上がりを見せて、 LFJ 2023のハイライトの一つとなった。

●「RINA Meets Beethoven」 エリアコンサートより
5/5 18:00-18:30 新丸ビル3Fアトリウム

RINA (piano)
ベートーヴェン: 交響曲第6番「田園」第一楽章
ベートーヴェン: ピアノソナタ第8番 「悲愴」第ニ楽章
ベートーヴェン: トルコ行進曲
RINA: For N.K.

LFJでは、東京国際フォーラムでのメインのコンサートの他に、丸の内、有楽町、京橋など周辺でエリアコンサートを多数行っている。その中で、ジャズピアニストRINAによるベートーヴェンが動画が残されているので紹介しておきたい。RINAはバークリー音楽大学卒業後、アメリカで活躍していたが、COVID-19の影響で帰国。ファーストアルバム「RINA」も好評で今後が楽しみだ。

●開催結果
開催結果を数字で見ると以下のようになる。
総公演数: 184公演 (東京国際フォーラム  有料 65公演、無料 21公演、周辺エリア 98公演)
チケット販売数: 65公演 86,542枚 (有料チケット総数98,074枚 / 販売率88.2%)
来場者総数: 約18万⼈ (東京国際フォーラム 約15万⼈、周辺エリア 約3万⼈)
出演者総数 1,247⼈ 東京国際フォーラム(海外 32⼈ 国内 727⼈)、 地上広場キオスク 115⼈  周辺エリア 373⼈

小会場での公演が少なかったので、ファンとしては規模が縮小し身近に観れる公演が減った印象はあったと思うが、 来場者、販売総数では健闘していて、見事にLFJは復活を果たしたと言える。 LFJ 2023企画段階でのCOVID-19のリスク管理と、円安の影響もあり、国内オーケストラでの演奏となり、海外からは招聘しなかった、この点については、無理に招聘でなくてもよいとも思うが、演奏レベルとしてではなく、その国のオケにしか出せない音があったりするのも事実で、また来場者の心理も含め長期的な検討課題になると思う。LFJ 2024では、COVID-19や入国の規制もなくなっていることも含め、拡大された開催に期待したい。

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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