JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 9,793 回

Concerts/Live ShowsNo. 312

#1295 Tenors In Chaos (テナーズ・イン ・カオス)

text: Ring Okazaki 岡崎凛
photo: Shu Sanda 三田周

2024年3月1日
大阪・西梅田 Jazz Club GALLON(ジャズクラブ ガロン)

Tenors In Chaos:
Akihiro Nishiguchi(西口明宏, ts&ss)
Yu Kuga (陸悠, ts)
Tomoaki Baba (馬場智章, ts)
David Bryant (デイヴィッド・ブライアント, p)
Marty Holoubek (マーティ・ホロベック, b)
Kazuhiro Odagiri (小田桐和寛, ds)

2nd set:set list
1 Bang A Gong  (Tomoaki Baba)
2 Yes Or No (Wayne Shorter)
3 Ringtone (Yu Kuga)
4 Giant Steps (John Coltrane)
encore :
St. Thomas  (Sonny Rollins)


テナーサックス奏者3人(西口明宏・陸悠・馬場智章)がフロントに並ぶセクステット。燃え上がり、吹き荒れ、やがて和する三本のサックス。彼らがもたらす熱いプレイを支え、ときには3人を鼓舞するピアノ、ベース、ドラムス。それぞれのソロには、プレイヤーの個性が隅々まで刻まれていくが、全体としては見事な一体感が生まれていく。整然とオーガナイズされる印象はないが、野性味ある6人のプレイが、高まる感情のボルテージを損なうことなく、ごく自然に調和を遂げる。

おそらくジャズの面白さは、ある程度は約束ごとから脱線しないと生まれないと思うので、どんな曲にも意外性をうまく盛り込んでほしいが、これをサックス3本(基本はテナー3本)でやり通すのは簡単なはずはない。ところがTenors In Chaosは軽々とそのハードルを越えていく。ステージの6人それぞれの技量の素晴らしさにも惹かれたが、プレイの端々にメンバーそれぞれの個人史が垣間見えるようで、その瞬間が何とも魅力的だった。模範演技的な上手さに、武骨で素朴な手作り感のようなサウンドが混じると、演奏家のパーソナルな体験に触れるようで嬉しくなる。

Tenors In Chaos on stage at Jazz Club Gallon
Tenors In Chaos on stage at Jazz Club Gallon

Tenors In Chaos を聴く前に、グループ名に使われる「カオス(混沌)」という語から連想したものは、どろりとした渦巻くもの、そこから生まれる謎めいたもの、そして、峰厚介カルテットによる1970年代の名盤、『Out Of Chaos』などだった。「カオス」という不思議な魅力を持つ言葉をグループの名前に選ぶ発想に惹かれる。英語流の発音でないことが少し気になったが、日本語として定着したカタカナ言葉を使うのも悪くないだろう。そんな思いとともに聴き始めたTenors In Chaosには、『Out Of Chaos』に顕著だった和ジャズの濃厚なエモーションを受け継ぐようなサウンドに満ちていた。「Chaos」という言葉に誘われるように、昭和の頃の熱いジャズ・カルテットの記憶が、現在進行形のジャズシーンにつながっていく。こうして、彼らのライヴに行く前に期待は膨らんでいったが、実際に目の前に並ぶ3人のテナー奏者(西口明宏・陸悠・馬場智章)のインパクトは絶大で、それだけでも足を運ぶ価値はあると感じた。

3 saxophonists of Tenors In Chaos
3 saxophonists of Tenors In Chaos

この日はファーストステージが終わるころに店に行き、予約していた席についた。以前この場所には、長く続いたジャズライヴの名店「Mr. Kelly’s」があった。新たな店となり改装されたものの、以前の面影があちこちに残り、過去にライヴを聴きに来た日々を思い出してしまう。ガロン開店のニュースは、Mr. Kelly’sの閉店を惜しんだ音楽ファンに新たな希望を与えるものだった。3月1日は、プレオープンを経て正式オープンの日を迎え、日本中が注目するグループ、Tenors In Chaos がステージに立つという喜ばしい日だった。そして満席となったガロンの聴衆は、圧倒されるようにステージの演奏に聴き入っていた。

セカンドステージでは、メンバーのオリジナル曲とともに、〈Giant Steps〉(John Coltrane)、〈St. Thomas〉( Sonny Rollins)、〈Yes Or No〉(Wayne Shorter)などの名曲を斬新なアレンジで聴くことができた。いずれも2023年11月に発表された彼らのデビューアルバム『Chaos』の収録曲である。アルバムに参加しているベーシストは須川崇だが、この日のライヴではマーティ・ホロベックが務めた。二人とも現在の日本のジャズシーンで、とりわけ注目を集めるベーシストだ。ホロベックはよく関西に演奏に来ているのに今まで聴く機会がなく、やっと聴くことができて嬉しかった。ピアニストのDavid Bryantとドラマーの小田桐和寛も、この日に初めてライヴで聴いたが、存在感の大きいプレイヤーだった。三本のサックスを擁し、ダイナミックで情感に満ちたセクステットの軸となるバックの3人も、それぞれのソロが光る個性派だと感じる。ステージは最初から最後までいい緊張感に包まれていた。

Tenors In Chaosのサックス奏者3人(西口明宏・陸悠・馬場智章)についても、それぞれ語るべきだなのだが、コンパクトにまとめるのが難しかった。このあたりについては、下記のインタビュー記事で詳述されているので、そちらを読んで頂ければと思う。
https://spincoaster.com/interview-tenors-in-chaos


flowers for opening celebration
flowers for opening celebration

2024年3月1日、Jazz Club GALLON(ジャズクラブ ガロン)の本営業初日を飾ったのがこのTenors In Chaosだった。大人気で予約だけで満員御礼となったようだ。この夜、ガロンの代表、三田浩司氏はとても忙しそうだったが、晴れやかな笑顔で観客を迎えていた。
2023年7月に閉店した大阪キタの老舗「Mister Kelly’s」の跡地に、装い新たに登場したジャズクラブ ガロンは、プレオープン営業時にもライヴを行うなど準備を進め、本営業初日を迎えた。セカンドステージ終了後、開店のお祝いムードの中で歓談する出演者の表情も晴れ晴れとしていた。
(今回の寄稿には、ガロンのオフィシャル・フォトグラファーである三田周(Shu Sanda)氏から写真を提供頂いたことに、心から感謝したい)


大阪・西梅田 Jazz Club GALLON(ジャズクラブ ガロン)について:
最寄駅:
四つ橋線「西梅田」駅、JR東西線「北新地」駅より徒歩5分
JR「大阪」駅、大阪メトロ御堂筋線「梅田」駅より徒歩10分
住所:
530-0002大阪市北区曽根崎新地 2-4-1ホテルマイステイズプレミア堂島1F
06-6147-3785
https://gallonjazz.com/

岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください