#03 Theo Croker, Blue Note NYC【ライブ配信】
Theo Croker Live at Blue Note NYC, 2020-10-09
text by Hiro Honshuku ヒロ・ホンシュク
【ライブ配信】
- Theo Croker (シオ・クローカー) トランペット
- Michael King (マイケル・キング) ピアノ
- Eric Wheeler(エリック・ウィーラー)ベース
- Michael “Shekwoaga” Ode(マイケル・シェクウォァガ・オデ)ドラムス
Setlist
- Crestfallen
- Me and E(未発表新曲)
- Cyclic Episode 〜 Conversations with Ancestors and Elders
- Subconscious Flirtations And Titillations (Slaps and Tickles)
- No Escape from Bliss
- Inner Stand Yourself ~ Understand Yourself ~ Overstand Yourself
(写真は全てシオ本人の了解を得て画面を取り込んだもの)
アメリカでのコロナ・ウイルスによる死者の数は2020年12月28日現在33万6千人を超えており、言葉を失う。3月のロックダウンからライブは皆無だ。そんな中Blue Noteは5月から無料配信に努力しており、軌道に乗って来た7月から有料配信を始めた。チケットも安く、¥1,000〜¥1,500程度なので、家から出られないファンは存分に楽しんでいる。筆者の大好きなTheo Croker (シオ・クローカー) は、10月9日と12月10日だった。実は12月10日のステージはコロナ渦の第二波が訪れた直前で、Blue Noteが少数の客を入れた時期だったが、結局アメリカ全土でのこの気の緩みが以前より悪化した第二波を引き起こしてしまった。演奏の内容は両日とも最高だったが、12月10日は客を入れたためか機材にかなり不備があり、音も悪ければカメラ位置も10月9日より残念な結果だった。
10月9日のステージは無観客ライブで、1曲目の演奏後シオが「今夜は厳しい客だなあ。誰も拍手してくれない」などとジョークを飛ばしていた。シオがメッセージで教えてくれたのだが、このライブはNHKもスポンサーだったらしいので、もしかしたら日本でも流れたかもしれない。
シオの音は相変わらずすごい。マイルスもそうだったが、シオを聴いていると、音楽というのはまずその音色に魅力がなくては、どんなすごいテクニックも、どんなにかっこいいフレーズも、関係ないと思う。筆者がいつも一番重要だと思っているグルーヴだって、ベーシストの音に魅力がなかったり、スネアやシンバルの音色に魅力がなかったら楽しめない。筆者はよく故ジョージ・ラッセルと車の中でマイルスの音色ついて語り合った。マイルスの音色の説得力は言葉で表せない。例えば1964年のリンカーン・センターで、マイルスがステラのソロ中ロングトーンをパーと吹いた時、観客の一人がたまりかねて「あぁぁぁ・・」と叫んでしまった、あれだ。シオはそれに近いものを持っている。聴いていて胸にグッとくるというやつだ。
ピアノのマイケル・キングは相変わらず筆者のお気に入りだ。ともかくアプローチが斬新でいつも楽しみなのだが、それよりもあの特殊なグルーヴ感だ。現代版ウィントン・ケリー、と言ったら語弊があるかな。ひとつ興味深かったのは、12月10日でキングは予想外の演奏を披露してくれた。まるでマッコイだったのだ。そのうち本人に詳しく聞いてみることにする。
ちなみにこの、シオ以外全員がしている、シオがデザインしたStar People Nationのロゴが入ったマスク、むちゃくちゃカッコいい。
2曲目の<Me and E>はエリックのベース・フィーチャーの曲で、まず無伴奏フリースタイルで始まり、そのうちブルージーなフレーズを入れて何かを予測させて全員参加。シオ独特のロマンティックなラインで構成されるヘッドが終わったところでまたベースソロだ。エリックは派手な性格ではなく、メッセージを送るときちんと返事して来るような好青年で、ベースソロも派手ではないが非常に味のあるフレーズを構成するのでいつまで聴いていても飽きない。このシオの曲の構成力にも感嘆する。ベースソロを堪能したあと、キングのブルージーなピアノ・ソロで昇天した。
3曲目の<Cyclic Episode 〜 Conversations with Ancestors and Elders>は筆者のお気に入りの曲だ。レコーディングはされていないが、シオのライブで何度も聴いている。<Cyclic Episode>というのはSam Rivers(サム・リバース)の曲で、とてもキャッチーな2小節フレーズがモチーフになっており、シオはそれをいちいちテンポを変えて演奏する。つまりシオがこのフレーズを吹く度にバンドはテンポを変えるという趣向だ。しかもゴリゴリのスイングの曲で、エリックのガンガンとオン・トップ・オブ・ザ・ビートでドライブするベースと、オデの気持ちいいライド・シンバルでご機嫌にさせてくれる。キングとシオのソロが終わった後でバックビートになり、そこからオデのドラムソロが始まった。1年前までシオのドラマーはKassa Overall(カッサ・オーバーオール)で、オデに入れ替わったのは筆者が本誌No. 258でインタビューした頃からだった。その時はまだ本領を発揮していなかったが、1年経った今回こんなにもすごいドラマーだったのかと驚愕した。ここでのドラムソロ、オデは潰したスプラッシュをバックビートに入れ続け、最初ドラムマシーンのスイッチでも入れたのかと思ったほどだ。こういう神業はデニス・チェンバースを思い出す。スネアのバックビートはもとより、ライドのスイングも気持ちいいし、ソロも派手に見せるソロではなくグルーヴするソロなのですっかりお気に入りになってしまった。
いつ聴いてもこんなにドキドキさせてくれるシオの音楽、筆者にとってはマイルス以来だ。
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