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CD/DVD DisksNo. 218

#1310 『Yoni Kretzmer / Five』、『Yoni Kretzmer + Jason Ajemian + Kevi Shea / Until Your Throat Is Dry』

『Five』 ONR 026

Yoni Kretzmer  (ts)
Thomas Heberer (cor)
Steve Swell (tb)
Max Johnson (b)
Chad Taylor (ds)

1. July 19
2. Quintet I
3. Quintet II
4. Feb 23
5. For OC

Recorded July 22nd 2015 at Tedesco Studios by Tom Tedesco
Mixed and mastered by Yoni Kretzmer
Design and photos by Yoni Kretzmer
Produced by OutNow Recordings

『Until Your Throat Is Dry』 ONR 027

Yoni Kretzmer (ts)
Jason Ajemian (b)
Kevin Shea (ds)

1. A Walking Rant
2. Plains Lay Ahead
3. Torn Throughout
4. Repeated Routine Exception

Recorded, mixed and mastered by Jim Clouse at Park West Studios, Brooklyn on July 2015 & February 2016
Design and cover photo by Yoni Kretzmer
Selfies by selves
Produced by OutNow Recordings

ブルックリンを基盤とする新興レーベル「OutNow Recordings」は、イスラエル出身のテナーサックス奏者ヨニ・クレッツマーや、ストイックなバスクラリネットとバリトンサックスを吹くジョシュ・シントンや、素朴にも聴こえるユニークなパーカッション奏者アンドリュー・ドゥルーリーなど、ニューヨークで活動する独創的な音楽家たちの演奏を吹き込んでいる。クレッツマーによる傑作『Book II』の記憶も新しいところだ。

この2016年5月に、クレッツマーの新しいリーダー作が届いた。

『Five』は、クレッツマーのテナーに加え、スティーヴ・スウェル(トロンボーン)、トマス・ヘベラー(コルネット)の3管が吹き、若いマックス・ジョンソン(ベース)とシカゴ出身のチャド・テイラー(ドラムス)とがリズムを創りだすという構成である。

チャド・テイラーの長く延々と連なる精力的なドラムスと、マックス・ジョンソンのスマートなベースとが作り出す流れは、迫力を持ってうねる奔流のように聴こえる。フロントの3人は自ら主流に呑みこまれてさらなる濁流を生成させ、また、ときには副流から主流を彩る火花や色を投じていく役割も果たしている。その中で聴きとることができるスウェルやヘベラーの音色は鮮やかだ。そして、クレッツマーのテナーは、ノイジーな要素を溢れるほど含み持っており、実に豊かである。

演奏は、模索する3曲を経て、ベースとドラムスによるうねりが保たれたまま、管の3人がブーストする集団即興「Feb 23」においてクライマックスを迎える。

『Until』におけるベースとドラムスとは、『Five』とは随分と対照的な個性を打ち出している。

上述のチャド・テイラーらと「Chicago Underground Trio」として共演もしているシカゴ出身のジェイソン・アジェミアンのベースには、弦の違いだろうか、響きの隙間が大きい。サウンドを駆動するというよりも励起することに貢献しているようだ。ピチカートもアルコも魅力的な音色を放っている。また、ニューヨークで長く活躍しているケヴィン・シェイのドラムスには遊び心があり、外部に向けてはじけるように目の覚める音を発散する。ブラッシュワークもシンバルを大きく鳴らす手腕も鮮やかだ。

本盤は、クレッツマーのテナーの魅力を存分に味わうことができる作品となっており、そして、各人の息遣いが近くに感じられる生々しさもある。倍音で呻き、唸り、囁き、絞り出し、そして吠えるテナーは、明らかにアルバート・アイラーやアーチー・シェップからの系譜に連なるものだ。しかし、クレッツマーはすべてを完璧にコントロールし、自分の肉声にしおおせている。従って、「・・・のような」という表現は適切ではない。

ニューヨークにおいて、ジャズ・即興演奏のライヴ映像を撮り続けている人の口から、「昨日のクレッツマーは凄かった」との呟きが聴こえてきたことがある。日本においても、クレッツマーの真価が知れ渡る日は近いに違いない。

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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