#1037『喜多直毅クァルテット二日間連続公演『文豪』—沈黙と咆哮の音楽ドラマ—第二日』
『 Naoki Kita Quartette two days consecutive concert “Literary Legend” –The Music of Silence and Roaring—Second day』

閲覧回数 1,514 回

2018年10月28日(日)@東京・公園通りクラシックス
28th October (Sun), 2018@Tokyo Koendori Classics

Reported by Kayo Fushiya 伏谷佳代
Photos by Etsuko Yamamoto 山本悦子/Ken Fujimaki 藤巻賢

<喜多直毅クァルテット/ Naoki Kita Quartette>
喜多直毅(音楽とヴァイオリン) Naoki Kita (Music & violin)
北村聡(バンドネオン) Satoshi Kitamura (Bandoneon)
三枝伸太郎(ピアノ) Shintaro Mieda (Piano)
田辺和弘(コントラバス) Kazuhiro Tanabe (contrabass)

<プログラム/ Programme>
1.月と星のシンフォニー The Symphony of the Moon and Stars
2.孤独 Solitude
3.死人~酒乱 The Dead ~ Drunkun Frenzy
4.文豪 Literary Legend
5.疾走歌 Speeding Song
6.厳父 Strict Father


完成度を超えた音楽、超絶技巧のその先に。
オープニングの「月と星のシンフォニー」が佳境を迎えるよりも早く、筆者の脳裡をよぎった感慨である。難易度の高い楽曲の数々を流麗な技巧で破綻なく収めるような(それでさえ余多いる演奏家たちには到達することが難しかったりするわけだが)、安定した着地点など彼らにとっては関心の埒外なのだ。場面はすさまじい圧と俊敏さをもって締められ、歪み、切り替わるが、その先に漂う自由な情感の迸(ほとばし)りにこそ、得難い醍醐味がある。余韻が、余白が、超絶技巧を凌駕するのだ。高密度に封じ込められた形式的諸要素は、夾雑物のない感情表現へと濾過される。郷愁、哀燐、憧れ、期待、諦念、畏怖、衝動、怒り、克己、など—喜怒哀楽がいちどきに起爆する、やりきれない高揚感。その反動としての濃く深く沈む闇。

個々の演奏家から発せられるエネルギーのみなぎりに圧倒される。肉体と楽器との多様な接合がこれでもかと強調されるノイジーなアプローチ、しかしながら飛沫のような瞬間にも蜘蛛の糸さながらに神経がゆき渡る。プログラムを追うごとに増幅されてゆくダイナミズム。脳内の襞の隙間を縫ってはこびりつく、白光のようなバンドネオンのメロディは、弦による多彩なサウンドに後押しされ、ピアノの低音連打を起点にいつしか豪胆な縦刻みの狂乱へと変貌してゆく(「死人~酒乱」)。そして迎えた今公演のテーマ曲「文豪」。下降音階による導線が、心の奥底へと聴き手の意識を内攻させる。思い思いの風景に灯がともる。ここでもミニマリスティックな分厚い騒めきの上を鷹揚に渡りきる北村のソロが美しい。喜多ヴァイオリンの真骨頂、ロマ的でデモーニッシュな攻めの魅力が凝縮した「疾走歌」を経て、いよいよラストの「厳父」へ。低音による、極めて男性的な律動が刻まれる。堅牢な構築性をもつ楽曲だが、ときに怖しくも切ない慈愛に翻(ひるがえ)る、しなやかな可塑性。肉声との近似値をも匂わせる、三枝と田辺の表現力の豊かさにも瞠目。

清濁併せ呑む風格、血の通った威厳。昨今失われた、或いは生き様の根源に関わりながらも捉えられないものだからこそ追わずにはおれない。音によって畳みかけられた60分の余韻には、若干痛みも伴う。痕跡を超えた、音楽の爪痕である。(*文中敬称略。伏谷佳代)


© Etsuko Yamamoto
© Ken Fujimaki

<関連リンク>
https://www.naoki-kita.com/
http://kitamura.a.la9.jp/
https://synthax.jp/RPR/mieda/esperanza.html
https://www.facebook.com/kazuhiro.tanabe.33?ref=br_rs

http://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-26086/
http://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-16784/
http://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-11096/
http://jazztokyo.org/reviews/live-report/post-30592/

Share Button
伏谷佳代

伏谷佳代

伏谷佳代 (Kayo Fushiya) 1975年仙台市出身。早稲田大学卒業。幼少時よりクラシック音楽に親しみ、欧州滞在時 (ポルトガル・ドイツ・イタリア) に各地の音楽シーンに通暁。欧州ジャズとクラシックを中心にジャンルを超えて新譜・コンサート/ライヴ評、演奏会プログラムの執筆、翻訳などを手がける。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

↓ ロボットでないかお知らせください。 * Time limit is exhausted. Please reload CAPTCHA.