JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 41,882 回

Jazz à la Mode 竹村洋子No. 274

ジャズ・ア・ラ・モード#42. モニカ・ゼタールンドのエレガントな 60年代ファッション

Monica Zetterlund in ’60’s fashion
text and illustration by Yoko Takemura 竹村洋子
photos : Pinterestより引用

昨年アストラッド・ジルベルトの1960年代ファッションの可愛らしさを取り上げた。今回は1950~1960年代に活躍したスウェーデンのジャズ・シンガーで女優でもあるモニカ・ゼタールンド(Eva Monica Nilsson :1937年9月20日~2005年5月12日)のエレガントで洗練された1960年代調ファッションについて。

日本ではどちらかというと知名度が低いが、スウェーデンでは国民的存在で北欧では絶大な人気を誇りインターナショナルなジャズシーンでも活躍した。2014年に公開された彼女の自伝的映画『ストックホルムでワルツを:Monica Z(原題)』で知られたかもしれない。この映画はモニカ・ゼタールンドをかなり忠実に描いたと言われており、極上のジャズ・シンガーの伝記映画に仕上がっている。モニカを演じる主演のエッダ・マグナソンはスウェーデンのシンガーで、モニカ本人と思うほど瓜二つで歌も上手い。また、1960年代のファッションもよく再現できている。ご覧になっておられない方には是非お勧めしたい。

モニカはスウェーデンのハーグフォシュという小さな田舎町で生まれた。幼い頃から、サラ・ヴォーン、エラ・フィッツジェラルドやビリー・ホリデイなどを聴いて育った。独学でジャズを学ぶが、英語が理解できずリズムやメロディ、ジャズのフィーリングを真似てシンガーを志していた。1957年、19歳の時にはストックホルムやデンマーク、コペンハーゲンのアーヌ・ドムヌラス・オーケストラやバンドで活動を始めた。1959年~1960年にかけて、イギリスとアメリカに渡って活動。
1964年にビル・エヴァンスと共演した<ワルツ・フォー・デビー>はモニカを国際的に一躍有名にした。これはモニカ自身が直接ビル・エヴァンスに交渉して共演、レコーディングに至ったもので高い評価を受けた。

ビル・エヴァンスとの共演した際の画像。

その後、ルイ・アームストロング、スタン・ゲッツ、クインシー・ジョーンズなど、多くのジャズ・ミュージシャンと共演。1977年にはサド・ジョーンズ&メル・ルイス・オーケストラと共演したアルバム『It Only Happens Every Time』をリリースしている。
英語だけでなくスウェーデン語でもジャズを唄い、モニカ独自の世界を表現したことでも知られる。私生活では我儘で奔放、『私は好奇心の強い女』で知られる映画監督ヴィルゴット・シャーマンとの出会いと別れなどが映画の中で描かれているが、非常に上昇志向の強い人だったようだ。そんな事がビル・エヴァンスを始め国際的ジャズ・ミュージシャンとの共演に繋がったのだろう。

このコラムで1960年代の女性のファッションを取り上げるのが、フランス人、イギリス人やアメリカ人でもなく、ブラジル人とスウェーデン人というのも何とも興味深い話だと思うのだが、それ程1960年代のファッション・スタイルが衝撃的に新しく、世界中の多くに女性に支持され大きなファッションの流れとなったという事だろう。日本でも大流行した。

モニカの歌は非常にクールで繊細だ。それがまさに彼女のファッションに表れており、洗練されたスタイルを見ることができる。アストラッド・ジルベルトと比較すると、同じ1960年代ファッションでも大人と子供という感じがする。

残されているモニカの写真の絶対量が非常に少ないのだが、写真で見られる1950年代後半から1960年代にかけてのモニカのファッションはステージ衣装が多い。
肌を多く露出したロングドレスを好んで着ていたようだが、決してキラキラ、フリフリのゴージャスなドレスではない。無駄な飾りはあまりなく極めてシンプルなデザインだ。素材も無地が中心で、時々装飾素材のジャカードやプリントのドレスを着ていた。1960年代に流行ったサイケデリックな幾何柄プリントもおそらく淡いトーンのカラーだろうと察する。

そして、アストラッド・ジルベルトの項でも述べたリトル・ブラック・ドレス(little black dress)がモニカのトレードマークのように多い。肌の露出が多く、ウエストを少し絞ってあるので体のラインが強調されセクシーな感じがする。どちらかというとスリップドレス(slip dress)といった方が良いかも知れない。スリップドレスとは、いわゆる下着のスリップをアウター化したドレスのことで、サテンやシルクなどの艶やかな素材を使っているものが多く、胸元も広く開いているのでとてもセクシーで女性らしい。シーズンを問わず着こなし次第で1年中着られるものでもある。スリップドレスはデザインを表現した言葉なので、スリップドレス・スタイルのリトル・ブラック・ドレスと言うものは存在する。

この時代に流行した高く盛り上げたヘア・スタイルとマッチして、シンプルでありながらどこか華やかさを感じさせる。北欧で生まれ育ったモニカのナチュラル・ブロンドをより美しく見せるようなスタイルだと思う。
彼女の姿には、成熟した女性のエレガンス、儚さ、繊細さと同時に強さも感じる。本当に美しい人には、余計な飾りなど必要ない。

*You-tubeリンクはビル・エヴァンスと共演した<ワルツ・フォー・デビー>。スウェーデン語で唄っている。ここでは彼女のシンプルでカジュアルなスタイルが見られる。

<Waltz For Debby> ビル・エヴァンス&モニカ・ゼタールンド、1966年。ビル・エヴァンス(p)エディ・ゴメス(b)アレックス・ライエル(ds)

『ストックホルムでワルツを』映画オリジナル予告編

竹村洋子

竹村 洋子 Yoko Takemura 桑沢デザイン専修学校卒業後、ファッション・マーケティングの仕事に携わる。1996年より、NY、シカゴ、デトロイト、カンザス・シティを中心にアメリカのローカル・ジャズミュージシャン達と交流を深め、現在に至る。主として ミュージシャン間のコーディネーション、プロモーションを行う。Kansas City Jazz Ambassador 会員。KAWADE夢ムック『チャーリー・パーカー~モダン・ジャズの創造主』(2014)に寄稿。Kansas City Jazz Ambassador 誌『JAM』に2016年から不定期に寄稿。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください