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Jazz à la Mode 竹村洋子No. 275

ジャズ・ア・ラ・モード#43 ソニー・ロリンズのビッグ・サイズ・ファッション
Sonny Rollins in big-sized fashion

43. Sonny Rollins in big size
text & illustration by Yoko Takemura 竹村洋子
photos: Pinterestより引用

ジャズが誕生してから約100年余り。それぞれの時代にスタイリッシュなミュージシャン達がいた。そして彼らの音楽と深く結びついていた。
私の中では、デューク・エリントン(1899~1974)、マイルス・デイヴィス(1926~1991)、そしてソニー・ロリンズ(1930~)の3人が『ベスト3・スタイリッシュ・ジャズメン』だ。

デューク・エリントンのスタイリッシュ度は今更語ることもないだろう。(#4. スタイリッシュなバンドリーダー達参照)この人のスーツ以外のカジュアル・ファッションにはそのうち触れてみたい。マイルス・デイヴィスはアイビー・ルックを拡めた後、彼の音楽スタイルや女性関係の変化と共にファッションも変わって行き時代と共に常にヒップだった。(#6. マイルス・デイヴィスから始まった~参照)マイルスの活動晩年期のファッションについてはまだ取り上げていないので、これもまたそのうち。

読者の皆さんには意外と思われるかもしれないが、ソニー・ロリンズのスタイリッシュ度は極めて高く、特にまだ現役のミュージシャンの中では抜きん出ていると私個人は評価している。そしてこの人は歳を取るほど更にスタイリッシュ度が増してきている。ロリンズについては一度 #25. ソニー・ロリンズのレッドで取り上げ、そのレッドからは『権威』や『活力』を感じると書いた。

この人の着る服はある時期からビッグ・サイズなのだ。
ビッグ・サイズ(オーバー・サイズともいう)というのは2通りの解釈がある。
一つは、自分は MサイズなのにLLLサイズを着る、という具合に『敢えて自分の体よりはるかに大きなサイズを選んで着る』というケース。もう一つは『自分のジャスト・サイズより少し大きめに作られている服を着る』ということだ。前者はラッパーやヒップ・ホッパー達がやっている様にダボダボの大きなサイズのカジュアル・アイテムを着るケースであり、ソニー・ロリンズは後者の『少し大きめに作られた服を着る』ケースとなる。

ファッションの歴史から見るとビッグ・サイズの服の流行は何度かあった。
1940年代のボールド・ルック(大胆なルックという意味)。マフィアやアフリカン・アメリカ系のジャズ・ミュージシャン達の間で拡まったたっぷりとした分量感の『ズート・スーツ』に代表される。
1970代後半にボールド・ルックがリバイバルした。広い肩幅にピーク・ド・ラペルのジャケットに太いネクタイ、といった男性を強く見せる様なスタイルが流行った。

そして1990年代には、カジュアル・ウエアにもシティ・ウエアにもルールに捉われない大きなファッションの変化があった。
1990年代初め、はストリート・カルチャーに影響を受けたカジュアル・ファッションが流行した。ヒップ・ホッパー等が着るビッグ・サイズのスポーツ系のカジュアル・ウエアが大ブレイクした。超ビッグ・サイズのトレーナー、フーディーや T-シャツ、ワイド・シルエットのパンツ、特にインパクトのある大きなロゴやスポーツ系ブランドのFILAや championのロゴ入りアイテム、Levi’sの定番501なども流行った。貧困層の中で弟がお兄さんのビッグ・サイズのアイテムをお下がりで着たり、と言った様にそれが逆にクールで踊るのにも快適な服として音楽と結びついた。この流れは現在も変わっておらず、アメリカ発のカジュアル・ファッションの大きな流れとなっている。

一方、1982年にパリ・コレクションに進出していた日本人デザイナーの山本耀司(1943~)は’80年代半ばに黒のスーツを発表してセンセーショナルな話題を呼んだ。山本耀司の服は柔らかに仕立てられてあり、大き目のサイズで、裾を床に引きずる様なコートまであった。三宅一生の『イッセイ・ミヤケ・オム』も1985年にパリ・メンズ・コレクションに初参加して以来、注目を集めるメンズ・ブランドとなった。それは、西洋の伝統的美学や立体構成の原則を揺るがす様な服でもあった。
1990年代にはこのファッションの傾向が、メンズ・ファッション市場に定着した。ファッションが、ジェンダーレスになって行ったのもこの頃からだ。日本でも橋本倫周の『マサトモ』、高橋盾の『アンダーカバー』や佐藤孝信の『アーストンボラージュ』等メンズのデザイナーズ・ブランドがレディス・ブランドの後追いで続々と誕生してポピュラーになって行った。彼らの服作りはトラッド・ファッションとは違い、シルエットも大きめで硬い芯地や裏地を多用せず柔らかな服だった。アート・テキスタイルを使用したり、黒い服が多いのも特徴。

現在もビッグ・サイズは広く浸透している。『アレキサンダー・ワン』『エルメネジルド・ゼニア』、リカルド・ティッシュをデザイナーに迎えた『バーバリー』などのブランドも体型にジャストフィットしたサイズよりも大きなサイズの服を提案している。

写真で見るとロリンズは体格がとても良く大きく見えるが、実際はそうでもない様だ。1968年に来日時にサックッ奏者の松本英彦氏と共演した際、背丈はほとんど一緒だったと友人に聞いた。

ロリンズのファッションを遡ってみると、1950~1960年代はアイビー・スタイルのファッションだった。サックスに寄りかかって立っている下記添付の一番左の写真を見て頂きたい。4つボタンのテイラード・ジャケットを着ている。この当時、アフリカン・アメリカ系のミュージシャン達やビートニク達の間で流行った『エクストリーム・アイビー・スタイル』と言える。1955年頃から1960年にかけて黒人の間に流行ったとされるスーツを着ている。シングル4つボタン、Vゾーンを狭くしたジャケット、裾の折り返しのない細身のパンツ、袖口にカフスをつけたり、チェンジ・ポケットにしたり、ジャケットの上襟をベルベットにしたり、アイビー・スタイルのスーツをベースにカスタムを加えていくうちに、独自のスタイルに変化して行ったものだ。この頃から、ロリンズはとてもヒップだったと言えるだろう。
以下の写真は1950年代半ばから1960年代半ばのアイビー・スタイルのロリンズである。

ロリンズが大き目のサイズの服を着始めたのは1980年代の後半あたりからからではないかと察する。
#25、ソニーロリンズのレッドで述べた様に、まず色に関しては黒、白、ヴィヴィッドなレッド、イエローなどが中心で、曖昧なカラーは無い。アイテムは、スーツではなくジャケット&パンツ、シャツ&パンツといったコーディネートが多い。ビッグ・シャツはかなりお気に入りだった様だ。セーター姿はほとんど見られない。カジュアル度は高いがどのアイテムも見るからに高品質な素材使いであり、チープさは感じられない。
ビッグ・サイズの服のコーディネートはアイテム同士の組み合わせのバランス、アイテムの大きさと体型とのバランスが上手く取れていないと着る側が服に負けてしまう。ロリンズのビッグ・サイズ・ファッションは全てのバランスがパーフェクトに近く取れており、ボサボサのグレイヘアーも含めてビッグ・サイズの服の量感に負けていない。モヒカン刈りにしたことがあるくらいだから、ひょっとするとヘアー・スタイルも計算のうち?
そしてこの人は数多くの眼鏡、サングラスを持っている。靴は常にピカピカに磨かれている。
写真はすべて2000年代に入ってからのもので、服の大きさとバランスを見て頂きたい。それぞれに年齢を重ねた風格、存在感と共にロリンズ独特の世界がある。

読者の方々には「え~っ!ロリンズがスタイリッシュって、買い被りじゃないの?スタイリストが付いてて着せたんじゃないの?」と言われそうだが、もしスタイリストがいたとしても着るのは本人であり、そう簡単な事ではない。さらに演奏もしなければならないのだから。また、これほどのビック・アーティストが、スタイリストの言うことに耳を貸すだろうか。

ソニー・ロリンズのファッションは、採寸してテイラー・メイドで作られたデューク・エリントンのファッションとは全く対極にあるが、時代に合ったスタイリッシュさと言う点に於いては同じではないだろうか。90歳になった現在は引退してしまい残念だが、80歳を過ぎても現在進行形であり続けた極めてスタイリッシュなジャズ・ミュージシャンであった事は、読者の皆さんにも写真を通してお解りいただけると思う。

*YouTubeリンクは2005年のライブ・パフォーマンス。白のビッグ・サイズのシャツとパンツを着ているロリンズの姿が見られる。

<Salvador> ライブ 2005

竹村洋子

竹村 洋子 Yoko Takemura 桑沢デザイン専修学校卒業後、ファッション・マーケティングの仕事に携わる。1996年より、NY、シカゴ、デトロイト、カンザス・シティを中心にアメリカのローカル・ジャズミュージシャン達と交流を深め、現在に至る。主として ミュージシャン間のコーディネーション、プロモーションを行う。Kansas City Jazz Ambassador 会員。KAWADE夢ムック『チャーリー・パーカー~モダン・ジャズの創造主』(2014)に寄稿。Kansas City Jazz Ambassador 誌『JAM』に2016年から不定期に寄稿。

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